「あなたとの結婚をやめたいの」
「や、やめたいって、どういうことなんだ?!」
「あなたともうこれ以上一緒にいたくないの」
「だからどうして?!」
「……」
「今までうまくやってきたじゃないか。それに式まであと二カ月しかないんだよ? どうして今更やめたいなんて言うんだ?」
「……理由は、言えないわ」
「頼むよ、理由を聞かせてくれ」
「ごめんなさい。もうどうしようもないの。あなたのことは今でも好きよ。それは変わってない。でも結婚だけはできないの。決して、あなたのせいじゃないけれど……」
「僕の何が気に入らないんだ? 言ってくれなければわからないじゃないか?」
「……言ってもダメだわ。きっとあなたは信じてくれないもの。それに何度も言うけれど、これはあなたのせいじゃないの。私が……、私が気づかなければよかったの。気づかなければよかったのよ……」
何度理由を訊いても、女は答えず、涙を流すばかり。
男はがっくりと肩を落とし、落胆した様子で頭を抱えた。
その様子を、女は男を哀れむような瞳で見つめていた。
やっぱり結婚をやめる理由は言えないわ。
きっとあなたは信じない筈だもの。
でもこればっかりは我慢できないの。
たとえあなたが時間にルーズで私を待ち合わせ場所に1時間以上待たせたとしても、食べ物の好き嫌いが多くて食事がいつも同じ場所になったとしても、我慢できるのに……。
そしてどんな苦労をしようとも、私はあなたと二人っきりだったら、どんなことでも我慢できた。
あなたと二人っきりだったら……。
それなのに。
ああ、どうしてこんなことになったのかしら……。
どうして……。
女は溜め息をつき、目の前にいる男を通り越して、男のすぐ後ろに視線を送った。
そこには-----------。
ぼろぼろの服を着て、伸ばし放題の髪をした、貧乏神がにたりと笑っていた。
|