ショートショート


 ナンバー 

 午後九時。
 毎日同じ時刻に電話が鳴る。
 もうこれで何日めだったかしら?
 いたずら電話?
 一体誰なの?
 なんでこんなことするの?
 二回鳴って切れる電話。
 一度切れる前に受話器をとったけれど、その時相手は何も言わずにすぐ切ってしまった。
 言いたいことがあるのなら、はっきり言って欲しい。
 私を怖がらせて、何がおもしろいの?
 初めの頃は、とっても不気味で家に帰りたくなかったわ。
 でも気づいたの。この電話にはアレがあったということに。
 もう怖くはない。大丈夫。

「ねぇ、ねぇ、知ってる? あんたの憧れの営業のAくん、あんたのこと好きなんだって」
「……ああ、それね」
「『ああ、それね』って嬉しくないの?」
「べつに」
「どうしてぇ? あんたをデートに誘おうって必死らしいよ」
「そうみたいね。だけど、もういいかなって感じなのよね」
「どうして?」
「あの人、あんなにはっきりしない人だと思わなかったもの」
 入社以来憧れていたA君。確かに憧れてはいたけれど、それはもう昔のこと。
 私は言いたい事が言えない人は好きじゃない。
 毎日午後九時に鳴ってすぐ切れる電話。
 その犯人はもうわかっている。
 なぜなら電話が鳴ってその時ディスプレイに表示されるのが、Aくんの自宅の電話番号だったから。

 

      
●ちょっと一言
ナンバーディスプレーは便利なのでしょうか?
好きな人からの電話だとわかるCMもありましたね。
でもちょっとしたことで、恋は覚めてしまうのかな(^^;)