「ねぇ、今日が何の日か覚えてる?」
ある日曜日の朝。彼女は僕の家に来て、笑顔でそう訊いた。
今日? 一体何の日だ?
彼女の誕生日、ではない。もちろん僕の誕生日でもない。ましてや、クリスマスでもバレンタインデーでもない。
行事好きな彼女のことだ。きっと些細なことでも彼女の中では記念日になっているはずだ。一般的に知られる記念日ではないのだろう。
二人がつきあい始めた日だったろうか。いや、それは違う。まだもう少し先だったはず。
僕が彼女に初めて声をかけた日……、じゃないな。
彼女が飼っていたネコの命日には、まだ一か月あったはずだし。
彼女の好きなアイドルの誕生日? そんなことはわざわざ僕に訊かないだろう。
それじゃあ、なんだ?
あれこれ頭を回転させて思い出そうとしてみるが、まったく思い浮かばない。
「忘れたの?」
なかなか答えを出すことのできない僕に向かって、彼女は少し悲しい顔をする。
早く思い出すんだ。
今日、今日、今日は………。
う〜ん、どう考えても出てこない。
彼女は僕の答えを待っている。彼女がこんな朝早くから僕のところへ来たということは、きっと僕と彼女に関係する何かの日なのだ。
……でも、今日は本当に何か大事な日なのか? 僕が忘れているだけなのか?
これだけ考えても出てこないということは、もしかすると僕にとって思い出さないほうがいい日なんじゃないのか?
そんな思いも出てくるけれど、彼女に悲しい顔をさせないためにも、僕はなんとか思い出そうと努力する。
……だめだ。やっぱり思い出せない。
僕は降参することにした。
そう言うと、彼女は怒った風に眉間にしわを寄せた。
「やっぱり忘れてた。今日はあなたに貸した三万円の返済日じゃない! 早く返してよ!!」
右手を延ばした彼女に、僕は何も言えなかった。
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