愛しのあの人は

「いやよぅ〜、千尋くんやめてよぅ〜」
「こら、待てサド小林!あたしの小林クンを放せっっっ!!」
「いやだなぁ吹雪チャン、いつから小林クンは吹雪チャンのモノになったんだい?」
今日も3-Aの教室にはいつも通りの風景が。しかし、教室の前には見慣れない人影が…。

―――今日もあの人はあのコ達と遊んでる。

小柄で可愛い女のコが一人。誰を見ているのでしょうか?
「千尋くぅん、吹雪チャンをいじめちゃダメよぉ」
「大丈夫だよ、小林クン。吹雪チャンは俺に抱かれる小林クンにヤキモチをやいてるんだよ♪ねぇ、吹雪チャン?」
「う?そうなの?吹雪ちゃん」
「違うのよ小林クン!私は小林クンを助けるためにっ…ちょっとサド小林!小林クンに変なこと吹き込まないでよね!!」
…まぁ、遊んでいるのは千尋だけのようだが。こんなことは日常茶飯事である3-Aのみんなは、
「吹雪ちゃん今日もがんばってるね」
「毎日毎日よくやるよなぁ」
「ショタ健在だな」
なんて勝手なことを話していたり。

―――あの綺麗な人と可愛いコはどうして怒ってるのかしら。まさか、あの人の取り合い?

どうやら彼女のいう“あの人”とは千尋のことらしい。
そして、彼女はまだ自分が大きな勘違いをしているということに気付いていない。
「吹雪チャン、小林クンが羨ましいならちゃんとそう言えばいいんだヨ?そうしたら俺抱いてあげるから♪」
「全っ然そんなことないったら!いいからさっさと小林クンからその汚い手をどけろ!!」
こちらは解決する気配もない。
「ち、千尋くん、ボク苦しいよぅ」
「大丈夫!?小林クン!早く放せ小林千尋!」
そんなやりとりを聞いているのかいないのか、気付けば千尋の視線は二人の向こうへとのびている。

―――…?あの人、どこを見てるのかしら?

「聞いてるのか!?小林千尋!」
上の空な千尋を見兼ねて吹雪が声を張り上げる。
そこで、彼女は目を見開いた。

―――!!

千尋がにっこりと罠笑みを浮かべて言った。
「吹雪チャンはもうちょっと素直になった方がいいヨ♪その方が俺も“もう一人の小林クン”ももっと優しくしてあげるのに♪」
「は?」
意味がよく解せない吹雪は頭上に?マークを浮かべている。大和も同様に困惑して千尋の整った顔を見上げた。
「そうだよネ♪健吾クン?」
「あ?あぁ…」
突然声をかけられた健吾は煮え切らない返事を返し、その声に吹雪がコンマ一秒以下で反応した。
振り向いた吹雪の顔を見た健吾は、言葉を失った。その二人に大和が無邪気に声をかける。
「あっ、健吾くん!あれ?吹雪ちゃん、お顔が真っ赤よ?大丈夫??」
吹雪は耳まで真っ赤に染まっていたのだった。

―――ど、どういうこと?あの綺麗な人は誰が好きなのかしら?

千尋のフェロモン攻撃からようやく立ち直った彼女がそんなことを考えているなか、吹雪の真っ赤な顔がみるみるうちに真っ青になった。
「っ!!」
「委員長!」
異変にいち早く気付いた健吾が動けずにいる吹雪を抱き寄せた。周りで様子を窺っていた他のクラスメイトたちにもざわめきが広がり出した。
「きゃぁっ!蜘蛛が!!」
みんなの指す先を見た彼女は絶句した。なんと、大きな蜘蛛が彼女の真上に降りてきていたのである。

―――!?

そのとき、千尋が立ち上がった。そして、蜘蛛のいる方へと歩を進める。
「おい、千尋?」
「千尋くん、どうしたの?」
健吾と大和の呼び掛けにも耳を貸さず、千尋は蜘蛛のすぐそばまできていた。
しかし、頭上の蜘蛛に気を取られている彼女は、そんな千尋の動きには気付いていない。

―――お願いだから、それ以上降りてこないでっ!!

と、彼女の華奢な身体がふわりと浮き上がった。
「きゃっ!?」
驚いたのは彼女だけではなかった。千尋が突然物陰から少女を取り出したのだから(笑)、無理もない。
しかし、当の千尋は至って冷静に尋ねる。
「大丈夫?」
「は、はい…」
目を白黒させて彼女が答えると、今度は大和が千尋に尋ねた。
「千尋くん、そのコ、どうしたの?」
「あの、あ、たし、」
彼女は答えようとするが、緊張しているのか上手く喋れない。
それを見た健吾が口を挟んだが、千尋の言葉に遮られてしまった。
「千尋、そのコ」
「このコはネ、俺に言いたいことがあってここまで来たんだけど、まだ言えないから、ちゃんと言えるようになったらもう一度来るんだって」
そして彼女に優しげな微笑を向けて言った。
「そうだよネ?」
彼女は顔を真っ赤にして、こくんこくんと頷いた。
そのままの表情で彼女を下ろし、千尋は続けた。
「じゃぁ、頑張ってネ♪」
彼女は千尋のフェロモン攻撃に当てられ、覚束ない足取りで駆けていった。

―――千尋さんは、やっぱりとても素敵な人だった!!

                       

FIN 

【Ninaさんから一言】
 小林クン初SSです。。。駄作です。実はコレ、一度ファイルが消えてしまって一から書き直したものだったりします。…すみません、こんなものしか書けませんが、UPしていただけたら光栄です(汗)
“彼女”には、細かい設定があったりします。一年生で、たかちクンたちの隣の1-Bの沙樹(さき)ちゃん…なのですが、ストーリー上関係ないと思ったのでカットしました。
ちょっと吹×健なところがありますが、ラブラブな話より「ちーくんは知らないコにも優しくするのよ」っていうのがメインなので。本編ではきっとしないだろうけど。

 Special Thanks! 

  

ちょっとフリートーク

 Nina♪さんからいただいたSSです。
 第三者から見たちーさんのお話。
 ちーさんのさりげないカッコ良さが出ていますね♪