Scene50 snow
(『おまけの小林クン』より)


 

 陽が落ちるのもすっかり早くなり、午後4時を過ぎればすでにあたりは暗くなる。
 いつの間に飾られたのか、クリスマス用のイルミネーションが通りを明るく照らしていた。
「寒〜い!」
 肌を突き刺すように吹く風に、吹雪は身を震わせる。
 長引いた委員会がやっと終わり、それまで待っていてくれた千尋との帰宅途中だった。
「私、冷え性だからこういう時ってすぐに指先冷たくなっちゃうのよね」
「手袋は?」
 吹雪の隣を歩いていた千尋がマフラーに顔を埋めながら訊く。
「この間、指の先が破けちゃったんだよね。だから新しいの買おうと思っているところ。でもなかなか気に入るのが見つからないんだよね。ちょっといいなと思ったのは値段高いし」
 はぁっと指先に息を当てながら吹雪は言った。
「あ、そうだ」
 ポンッと吹雪は手を叩く。
「何?」
「ねぇ、この間連れてってくれたお店、あそこのホットチョコレート美味しかったよね。今から行かない? アツアツのホットチョコレートの入ったカップで手温めて、身体も温めたいなぁ」
「行くのはいいけど、ここからだと15分は歩くけど?」
「15分?! う〜ん、でも、あそこ、雰囲気良かったし、今さら他のお店っていうのもねぇ」
 先週の土曜日、映画の帰りに千尋が連れて行ってくれたお店はチョコレートの専門店だった。そこには販売スペースの他に喫茶スペースがあり、そこで飲めるホットチョコレートは、専門店のチョコレートを使っているだけあってコクがあり味に深みがあった。
 1度その味を知ってしまっては、チェーン店や一般的な喫茶店のコーヒーやココア程度では物足りない。
 15分外を歩く事を考えると、指先だけでなくますます身体が冷えそうな気もするが、急場しのぎに近くの喫茶店に入ってしまうのは惜しかった。
「寒いけど、やっぱり行く。千尋、案内して」
「わかった。じゃ、こっち」
 千尋は吹雪の一歩先を歩き出す。その後を吹雪は指先をさすりながら続こうとした。
 その時、ふいに千尋がつぶやく。
「こうしてたら少しはマシかな」
「えっ?」
 千尋は吹雪の右手を取ると、そのまま自分のコートのポケットの中に入れた。そしてポケットの中でキュっと握りしめる。
「左手はちょっと我慢しててね」
 ドキッとするようなウィンクを吹雪に向けながら千尋は言った。
 触れた指先からぬくもりが伝わり、心に染みて、そして外気に触れて冷たいはずの左手の指先まで届く気がした。
 さり気ない千尋の行動に、吹雪は頬を赤らめる。
 千尋とつきあいだしてそれなりの時間が経っているのに、何気ない行動にいつもドキドキさせられる。
 照れくさいような恥ずかしいような、それでいて心地良いこのドキドキが恋をしている証拠だと思う。
 ポケットの中で吹雪も千尋の手を握り返す。
 それだけで、『好き』という気持ちが伝わる気がした。
「あ、雪」
 ちらちらと舞い降りてきた白い小さな結晶。
 吹雪は結晶を迎えるように左手を伸ばした。
 ゆっくりと舞い降りて指先に触れたそれは、吹雪のぬくもりによってあっという間に姿を消す。
 冷えているはずの指先はぬくもりであふれている。
 手袋、なくても良いかも。
 吹雪はふとそう思う。
 心が、身体があたたかく感じるには、つながれた片方の手だけで十分だった。


                                   Fin


<ちょっとフリートーク>

 雪の降る季節です。寒〜いっ(ぶるぶる)
 手袋の指先に穴が開いてしまったのは私の手袋も同様。そして冷え性なのも(^^;)
 この時期、指先がとっても冷えます。
 外出時は特にそうなので、早く新しいのを買わなきゃ〜と思いつつできたのがコレです。
 手袋代わりになるちーさん、欲しいですね〜(笑)
 つないでいない方の手が冷えるかなと思いながらも、好きな人と手をつないでいたら、
片方で冷やさないとほてって大変かも、なんて思いもしました。
 その後、吹雪ちゃんは手袋を買ったのかしら?

    

   

  


 

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