Scene3 Present for you
(『おまけの小林クン』より)


 それは12月 24日クリスマスイブのこと。今にも雪が降ってきそうな、そんな薄曇りの日。
 放課後、借りていた本を図書室へ返し、ちょうど図書室から出た時だった。
「ふっぶきちゃん♪」
 いつものごとく、どこからともなく千尋が吹雪の前に現れた。
 千尋の満面の笑みは、また何かを企んでいるような……、そんな気がした。
「何か用? たいした用じゃないならまた今度ね」
 素っ気無く千尋をあしらい、吹雪は足を速める。
「やだなぁ、また今度なんて。とぉっても大切な用なのに」
「だったら、早くしなさいよ。あんたにつきあうほど、暇じゃないんだから」
 吹雪はあくまで素っ気ない態度を通す。
 そんな態度を気にするふうでもなく、千尋はかまわず続ける。
「これあげる」 
 そう言って吹雪の目の前に1枚の細長い紙をぴらぴらとちらつかせた。
「何?」
 手に取って見ると、赤と緑、そしてヒイラギのイラストの書かれた、近くの遊園地の招待状
だった。しかも入場出来るのは、12月24・25日のクリスマス期間のみ。
「明日10時に迎えに行くから。おめかしして待っててね♪」
 それだけ言うと、吹雪の返事も待たずに、千尋はその場から去っていった。
 ぼーっとチケットを見ていた吹雪がハッとする。
「こんなのもらっても困る!」
 そう叫んだ時には、すでに千尋の姿はもう見えなかった。

◇ ◇ ◇

 12月25日、午前9時。
 吹雪は自室の机の上をじっと見ていた。
 きれいに片付けられている机上の1枚のチケットには、2人1組の表示がある。
 それを見ながら、いろいろと考え込んでいた。
 何故、小林千尋はこのチケットをくれたのか。
 何故、他の誰でもなく自分にくれたのか。
 迎えに来ると言うことは、小林千尋と自分が遊園地に行くということで、これは世間一般で
いわれる……というものなのか。
 クリスマスの遊園地なんてカップルでいっぱいの筈。そんな中に小林千尋と行くということは、他人から見たらきっとカップルに見えて……。
 吹雪は思いっきり頭を振った。
 あれこれ考えているうちにも、時間は刻々と過ぎていく。
 ピンポーン。
「!」
 チャイムが鳴ると同時に、吹雪はイスを後ろに倒しながら、勢い良く立ち上がった。
 時計を見ると、9時55分。少し早いものの、いつの間にか約束の時間が来ていた。
 おろおろしながらも、慌てて玄関に向かおうとする。
 部屋から玄関までの短い距離の中、吹雪は本棚に手をぶつけ、ベッドの角に足をぶつけ、ゴミ箱を蹴飛ばした。
「は、はいっ!」
 やっとの思いで、カギを外してドアを開ける。
 その時。
「メリークリスマス!」 
 パーンッとクラッカーの弾ける音とともに、色とりどりの紙吹雪が吹雪の頭にふりかかる。
「な、なに?」
「吹雪ちゃん、お待たせ」
 ドアの陰からひょっこりと顔を出したのは、千尋ではなく大和だった。
「こ、小林クン? ど、どうして?」
 よく見ると大和の背後に、千尋と、そして健吾もいる。
「あれ? 千尋クンから聞いていない? 健吾クンが福引きで遊園地の招待券を当てたから、
みんなで行こうねって。昨日千尋クンが吹雪ちゃんにチケット渡したって言っていたよ?」
 吹雪の質問に、大和は首をかしげて不思議そうにする。
 それを聞いた途端、吹雪は大和の後ろに立っていた千尋に詰め寄る。
「アンタ昨日そんなこと言わなかったじゃないの?!」
「そうだっけ? あ、吹雪ちゃん、俺と2人で行くと思った? そのワンピかわいいね。もしかして俺のためにおめかししてくれたのかな?」
 悪びれもせず、千尋は笑顔を向ける。
「こ、この服はね、いっつもクリスマスに着てる服なの! だ、だから、アンタのためとかそういうんじゃなくて……」
 真っ赤になりながら、吹雪は反論する。
 実際、今着ている服は普段学校へ着ていくような感じではなく、ペルベッド地のシックなスタイルのワインレッドのワンピースだった。
 しどろもどろになりながら、反論する吹雪を見兼ねた健吾が、声をかけた。
「おい、そろそろ行かないとパレードに間に合わなくなるぞ」
「そうだった! 吹雪ちゃん、早く行こ」
 にっこりと微笑む大和に、吹雪は千尋に詰め寄るのをやめた。
 そして千尋もからかうような笑みをやめ、優しく微笑む。
「では、行きますか?」
「あ、委員長、今日は全部コイツのおごりだそうだ」
「あ、そう? じゃあ、たっぷりおごってもらうからね!」
 吹雪はそう言いながら、照れた赤い顔を隠すかのように、2人の間を割って先に歩き出した。
「吹雪ちゃん、待ってぇ」
 大和は、吹雪の後を追って駆け出した。

◇ ◇ ◇

「まったく、お前は……」
先を行く吹雪と大和の後ろ姿を見つめル千尋に、健吾が睨む。
「何? なんか言いたいことでもある?」
 健吾の言いたいことがすでにわかっているかのような口調で千尋は言う。実際、健吾は4人で行くということを吹雪に言わなかったことに対する文句をいいたいのだろう。
「カップルチケット1枚だけ当たっていたら、吹雪ちゃんと2人で行けたのにねぇ♪」
「だ、だれが……」
「吹雪ちゃん、おめかししてくれたようだし、ちょっとは期待できるかなぁ♪」
 なんとも言えない微妙な笑みを健吾に向ける。
「千尋く〜ん、健吾く〜ん、遅いよぉ」
 前方で手を振る大和に、千尋が右手をあげて応える。
「今行くよ♪」
 健吾を残して、千尋は足を早めた。
「アイツは……」
 言いたいことの1/3も言えなかった健吾が一人つぶやいた。
 それから健吾は考えた。千尋の言う通り1枚だけ当たっていたら吹雪を誘っただろうか、と。
 実際、健吾は遊園地に行くつもりは全然なかった。福引きをした時、たまたま大和が一緒だった。1枚目を当てた時、大喜びする大和にチケットをあげた。大和が誰と行くかも別に気にはしていなかった。続けて2枚目を当ててしまった時、大和はみんなで行けると大はしゃぎだった。
みんな=吹雪、千尋、大和、そして自分。結局大和の喜ぶ笑顔に負けて、自分も行くことになった。まあ、それもいいかと何気なく思っていたが、もし福引きの時に大和がいなかったなら、当たったチケットはどうしていただろう。
 ふと前を行く吹雪の後ろ姿が目に入った。
 たぶん、きっと……。
「何モタモタしてんのよ! 早くしなさいよ、小林健吾!」
 突然振り返った吹雪に健吾は怒鳴られる。
「お、おう」
 慌ててそう返事をする。それから、健吾は考えていたことを振払うかのように2、3度頭を振り、そして3人の後を追った。
 それぞれにいろいろな想いを抱えて、4人はクリスマスカラーで彩られた遊園地へ向かった。

Fin



<ちょっとフリートーク>

昨年のクリスマス用に書いた小林クンSSクリスマス編です。
やっぱり子供な大和クン(笑)。次回作はもっと大和クンの出番を増やしたいものですが、
主役はちーさんなので、たぶんこんな感じで終わってしまうかも(^^;)
さて、問題のチケットですが、けんさんが当てたのはカップルチケット。
『男女の』とは注意書きありませんが、入場の際は2人1組にならないと入れません。
果たしてどんな組み合わせで4人は入ったのでしょう(笑)
例のiMac事件でお蔵入りして期間限定のUPでしたが、気に入っているのでこっちに追加しました。