Scene29 いつかサンタさんと一緒に
(『おまけの小林クン』より)


 

 それはクリスマスが間近に迫ったある日の昼休みのことだった。
 慌てた様子の大和が教室に入ってきた。
「吹雪ちゃん! 吹雪ちゃん!」
「小林クン?」
 大きな声で名前を呼ばれ、教室でいつもの数学パズルを解いていた吹雪は顔をあげた。
「あのね、あのね、吹雪ちゃん、聞いて、聞いて!」
「どしたの? そんなに慌てて」 
「ボク、サンタさんになる!」
「サンタさん!?」
 唐突な大和の宣言に吹雪は驚いて聞き返した。
「あ、間違い。サンタさんのね、お手伝いをする人になるの!」
「サンタさんのお手伝いをする人???」
 事情が飲み込めない吹雪は大和のセリフをくり返す。
「小林クン、よくわからなんだけど、ちゃんと説明してくれる?」
「あ、ごめんね。でもなんだか嬉しくってつい吹雪ちゃんに言いたかったの」
 へへへ、と大和はちょっと恥ずかしそうに照れる。
 そんな大和の笑顔に吹雪は一瞬抱き締めたい衝動にかられるが、なんとか自分を押さえた。
 そんな吹雪の思いを知らない大和は、嬉しそうにA4サイズの一枚の紙を吹雪に見せた。
「これ、見て」
 紙には白いヒゲがりっぱな赤い衣装のサンタクロースがやさしく微笑んでいる写真が載っている。
「なになに? えっと、『サンタクロース補佐官養成学校』?」
 大和が持っていた紙に書いてあったタイトルを吹雪は読み上げた。
 詳しくはこう書いてあった。
 
『本場フィンランドでサンタクロースからクリスマス講座を受けてみませんか?
 サンタクロース補佐官(トントゥ)養成学校ツアー』
 
「ね、素敵でしょう! サンタさんのお手伝いをする人になれるんだよ! それに本物のサンタさんにも会えるの!」
 大和は瞳をキラキラとさせていた。
「なぁに騒いでるの?」
 どこから現われたのか千尋がひょいっと吹雪が持っていた紙を取り上げた。
「何するのよ、まだ見てるのに!」
 つっかかる吹雪をまぁまぁとと千尋はなだめて紙を読み出した。
「サンタクロース補佐官養成学校? 吹雪ちゃん、こんなの興味あるの?」
「私じゃなくって小林クンよ!」
 せっかくの大和との会話を邪魔されて、吹雪は少し不機嫌そうだった。
「小林クンが?」
「そうだよ、千尋クン。ボクね、そこに行ってサンタさんのお手伝いをする人になるんだ!」
 ニコニコと大和は笑っていた。
「小林クン、これよく読んだ?」
「えっ?」
 きょとんとする大和に、千尋はにやりと笑った。
「これ、最後に卒業試験があって、それに合格して認定書をもらわないとトントゥにはなれないよ」
「し、試験?! ひょえ〜〜〜」
 トントゥになれる学校があるところしか読んでいなかった大和は、千尋の指摘を聞いて急に青ざめた。
「し、試験って難しいのかなぁ」
「そりゃ、あの有名なサンタクロースの補佐官というくらいだから、そう簡単な問題じゃないだろうね」
 意地悪そうに千尋は答える。
「試験があるなんて、ボク、サンタさんのお手伝いができるなる人になれないよぉ……」
 先ほどの嬉しそうな笑顔とはうって変わって、今にも泣きそうな瞳をして大和は肩を落とした。
 何しろ、大和は試験という名のつくものはかなりの苦手意識がある。このトントゥの試験がどんなものかわからないにも関わらず、もう今から諦めが入っていた。
 そんながっかりした大和にいたたまれなくなった吹雪が立ち上がった。
「わ、私手伝ってあげる! 試験があるなら今から勉強すればいいのよ。そうね、まずはサンタクロースについて知ってないといけないわよね。図書室でサンタクロースのこと、調べよう。ね、小林クン!」
 がっかりする大和をなんとか励まそうと吹雪は提案した。
「吹雪ちゃん、手伝ってくれるの?」
 不安そうな大和が心細気な瞳で吹雪を見上げた。
「まかせてよ! いつも試験の時には私が勉強教えているじゃない。サンタクロースのこの試験も私がちゃんと小林クンを合格させてあげる!」
 大和のためなら何でもしたいと思う吹雪は力強く大和に言った。
「じゃ、俺も手伝ってあげる」
 少し罠めいた笑みを浮かべながら、千尋は吹雪の肩に手を置いた。
「何よ、この手は! アンタはいいわよ。私一人で十分なんだから!」
 ペチンと吹雪は千尋の手を叩いて邪魔するなと言わんばかりにきつい瞳で見た。
 しかし当の大和は吹雪ばかりか千尋までもが手伝ってくれると聞いて嬉しくなる。
「千尋クンも手伝ってくれるのぉ?! 嬉しいなぁ。吹雪ちゃんと千尋クンが応援してくれるなら、ボク、試験頑張る!」
「小林クンもこう言ってるんだから、吹雪ちゃん、俺と一緒にがんばろうね♪」
 何かが違うような気がするが、とにかく大和の悲しい顔は見たくはない吹雪はうなずいた。
「仕方ないわね。不本意だけどアンタと一緒にがんばるわ。小林クン、試験なんて大丈夫! 私達にまかせなさい!」
「うん!」
「じゃ、早速図書室に行って勉強よ!」
 そうして、やる気満々の3人は図書室へと向かって行った。
 そんな3人の一騒動を、健吾は少し離れた場所で見ていた
 3人の姿が見えなくなると、健吾は自分の席から立ち上がり、吹雪の机の上に残された例の紙を手に取って読んだ。
「あいつら、根本的な問題を無視してないか?」
 冷静に健吾はつぶやく。
「旅行代金、大人1名238,000円。そんな金、持っているのか?」
 健吾はふぅと大きなため息をついた。
 サンタクロース補佐官養成学校があるのは日本ではなく、サンタクロースの故郷といわれるフィンランドである。
 そんへんにバスに乗っていくのとは訳が違う。
 試験勉強をする前に、旅費を用意しなければならないということを、健吾以外は気づいていなかった。
 はたして、大和がサンタクロース補佐官・トントゥになれる日は来るのだろうか?

「サンタさん、待っててね! ボク、がんばる!」


                                   Fin


<ちょっとフリートーク>

夕希さんとCharuさん主催のクリスマスイベントに参加した作品です。
イベント関係で書くSSはやはり大和クンが主役でしょう。
でも高校生の男のコ、というよりはやり6歳児のイメージですね(^^;)
さて、サンタクロース補佐官養成学校は本当にあります。
健吾クンが言った旅行代金も本物です。
クリスマスネタを探すのにちょっとネットでうろうろしていたら偶然これを見つけました。
ツリーになる木を探しに行ったり、クリスマス料理のランチを食べたり、オーナメントを作ったり、サンタクロースの講議を受けたり、大和クンじゃなくても行きたくなりそうな内容ではないでしょうか。
大和クン、なんとなくサンタさんを信じていそうな気がするので、養成学校があると知ったらサンタさんのお手伝いができるこのトントゥになりたいと言うような気がしてこの話ができました。
これは今までで最短2時間で出来た作品です。
でも、旅費、高いすぎ……(ちなみにこれが最低料金。日によってはもっと高い/^^;)

    

   

  


 

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