Scene21 内緒の宝物
(『おまけの小林クン』より)


 

「ない! ないようぉ!」
 ある日の放課後、大和は突然慌てて自分のカバンの中身を机の上に広げた。
「やっぱり、やっぱりないよぉ!」
 悲し気な大きな瞳に涙が浮かぶ。
「ど、どうしたの?! 小林クン! どうして泣いているの?! 」
 大和の異変にいち早く気づいた吹雪が大和の側へと飛んで来た。
「ないの、どこ探してもないのよぉ……」
 大和はなんとか涙を堪えて吹雪を見た。
「何がないの?」
 吹雪は優しく訊いてみる。
「あのネ、ボクの大切な宝物がなくなったの……」
「宝物?! それは大変じゃないの! 私が一緒に探してあげるわ」
「ホント?! 吹雪ちゃん、一緒に探してくれるの?」
「もちろんよぉ! 私に任せておいて。で、その宝物って何?」
「えっ……」
 大和は急に頬を赤らめた。
「あ、やっぱり言わないといけないよねぇ?」
「え、ええ。だってどんな宝物なのか言ってくれないと何を探していいのかわからないし」
「えっとね、う〜ん、恥ずかしいなぁ」
 照れる大和が可愛くて、吹雪は思わず抱きしめたくなる衝動にかられる。しかし、そんなことをしている場合ではない。
「小林クン、教えて」
「えっと、このくらいの大きさで、青い表紙にひまわりの絵が描いてあるファイルなの」
 大和はいつも使っている授業用のノートの半分ほどの大きさを示す。
「ひまわりが描かれた青い表紙のファイルね。わかった、任せておいて!」
 吹雪は張り切って教室中を探し始めた。
 隅から隅まで探してみて回ったけれど、それらしきものは見当たらない。
「教室にはないのかなぁ。もしかして誰かが持って行ったとか……」
「そ、そんなぁ」
 一瞬にして大和の顔が曇り、大粒の涙が浮かぶ。
 不用意な言葉を言ってしまったと、吹雪は後悔する。
「だ、大丈夫よ! 私が絶対に見つけてあげるから!」
「小林クン、な〜に泣いてるの?」
 どこからか帰って来た千尋が教室に入るなり、大和と吹雪のところへと行く。
「ちょうど良かったわ! アンタも手伝いなさい!」
「だから、何?」
「小林クンが宝物をなくしたのよ。だからソレを探すのを手伝いなさい!」
「宝物?」
 千尋は何故かにやりとする。
「小林クンの宝物ねぇ。それはどんなものなのか楽しみだ。大丈夫、俺が一番に見つけてあげるよ♪」
「いい? ひまわりが描かれた青い表紙のファイルよ。見つけたらバカなことは考えないで、すぐに小林クンに渡すのよ!」
 吹雪は先に千尋にくぎを刺した。
「教室はもう見たから、校内を探すわよ!」
 そう言って教室を出ようとした時だった。
「わっ」
 勢い良く廊下に出た吹雪は、健吾と正面衝突する。ぶつかったショックで後ろへ転びかけた吹雪を千尋が支えた。
「い、委員長、大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫。それよりアンタもいいところに来たわね。行くわよ!」
「へ?」
 吹雪は健吾の腕をつかむと先頭にたって歩き出した。
 こうして、失くした持ち主の大和を含め、4人の宝物捜索が始まった。

◇ ◇ ◇ 

 広い校内で、今日大和が行ったところを中心に探すことにした。
 吹雪は、さすがに体育の時に着替えた男子更衣室には入れないので、別のところを探していた。
「青いファイル、青いファイル……。ないなぁ」
 廊下の掃除用具入れから理科室まで、吹雪は探してみたが、なかなか見つからなかった。
 そして廊下の隅に置いてあった古新聞の束を広げ、探しているところだった。
「吹雪? 何してんの?」
 何故か家庭科準備室から出て来たあげはである。
「小林クンが大事な宝物を落としたの。それでみんなで探しているのよ……って、きゃぁぁぁぁあ!!!!!」
「な、何?! どうしたの?」
 突然吹雪が叫びだし、あげはの方が慌てる。
「ア、アレが……」
 吹雪はあげはにしっかりとしがみつく。
「アレ?」 
 ひょいとあげはは吹雪がいたところを見てみる。
 古新聞の束の中からスススッと小さなクモが姿を現した。
「クモ?」
「いやぁぁぁ!!!! そんなこと口に出さないでぇぇぇ!!!!」
 吹雪は今以上にぎゅっと強くあげはにしがみついた。
「い、痛いってば。吹雪、わかったから、このへんは私が探してあげるから、吹雪は別のところ探しなさい」
「そ、そうしてもらえる?」
「で、探すのは何?」
「青い表紙にひまわりが書かれたファイル。じゃ、あとはよろしく−−−−−っ!」
 吹雪はそれだけ言うと慌てて駆け出して行った。
「吹雪ってクモが苦手なのね」
 大袈裟ともいうくらいにかなり嫌がっている様子から、相当苦手なのだとあげはは思った。
 すでにどこかへ移動したのか、古新聞のところにはクモの姿はなかった。
 あげはは吹雪が散らかした古新聞を片づけ始めた。そのとき、あれ?とあげはは首をかしげる。
「青い表紙にひまわりが書かれたファイル?」
 何かを思い出したのか、あげはは適当に古新聞を片づけると、その場を離れた。

◇ ◇ ◇

 しばらくして、別々に手分けをして探していた4人が教室に戻って来た。
「こっちにはなかったぞ」
「こっちもなし。ホントに校内でなくしたの?」
「うん……。朝はちゃんとあったの」
 心細げな大和の表情が、いっそう悲しいものになる。
「もう一度探すのよ! 見つかるまで帰っちゃダメだからね!」
 千尋や健吾同様に手がかり一つ見つけることのできなかった吹雪は、もう一度気合いを入れて探しに行こうとした。
 その時ガラッと戸を開けてあげはが教室に入って来た。
「ねぇ、その探し物ってこれじゃないの?」
 あげはが手にしていたのは、まさに青い表紙に黄色いひまわりが描かれていたファイル。
「あ、ソレ、ボクの!」
 大和はてけてけと走り寄ってあげはからそれを受け取った。
「あげはちゃん、ありがとう!」
 大和は笑顔でお礼を言う。
「ねぇ、あげは。ソレどこにあったの? 私達があんなに探して見つからなかったのに」
「どこって、落とし物箱の中」
 あっさりとあげははそう言った。
 落とし物箱。
 職員室に入ったすぐのところに置いてあり、校内での落とし物が入れられる箱である。校内で何かを落とした場合、誰かが拾えばまずそこに届けられるのであった。
 吹雪をはじめ、誰もそのことを思い出すことができず、みんな脱力する。
「そうよね、そういうものがあったんだったわね、うちの学校には……」
 精神の消耗は吹雪が一番ひどかった。
「あげはちゃん、ホントにありがとね。それから吹雪ちゃん、ボクのためにいっぱいがんばってくれてありがと」
 大和はにっこりと満面の笑みで吹雪に告げた。
 この笑顔があれば、たとえどんなに疲れていても、そんなもの吹き飛んでしまう。吹雪は嬉しそうに笑った。
「良かったね。宝物が見つかって」
「うん!」
 大和は大事そうにそれを抱きしめていた。
「で、宝物って何よ?」
 ひょいっと背後から大和のファイルを千尋が奪う。
「あっ!」
 大和が拒む間もなく千尋の手に渡り、千尋はパラパラとファイルをめくった。
「あっ……」
「千尋くんったら返してよぉ」
 ファイルの中を見て一瞬驚いた千尋は、素直にそれを大和に返した。
「それが小林クンの宝物なんだ」
「えっと、うん、そうだよ」
 大和は照れくさそうにする。
「ねぇ、中身何なの? 隠さずに見せなさいよ。それとも見せられて困るようなものなの?」
 あげはは、吹雪がすごく気になっているのに気づいてそう言う。すると大和はちょっと困ったような表情になった。
「う〜ん、ホントは内緒の宝物だったのになぁ。でもいいや。あのね、これがボクの宝物なの」
 大和はみんなの前でそのファイルを開いた。
 アルバム形式のそのファイルにはたくさんの写真があった。
 1年生の頃の遠足に始まって、球技大会やひまわりコンテスト、夏の合宿などなど、大和が向日葵高校へ転入してから今までの行事やイベントで撮った写真である。どれも大和が中心で楽しそうに笑っている。
「あのね、みんなとの思い出がボクの宝物なの。ボクもみんなも笑ってるでしょ? 
こんなふうにずっとみんなと楽しく過ごして、そしてたくさん思い出を増やしたいんだ」
 その言葉を聞いた吹雪達は、そろぞれの胸の奥であたたかい何かを感じていた。
 それは優しくて心地よいもの。
 大和の宝物がみんなそれぞれに嬉しかった。
「でもさ、なんだか俺の写真少なくない?」
「あら、私なんて全然ないわよ」
「あ、健吾が笑ってる」
「よせっ、そんなもの見るなっ」
 みんなが楽しそうに大和の宝物を見る。
 その様子が大和も嬉しかった。
 ふいに大和は両方の人さし指と親指を伸ばし、四角を作る。そしてまるでカメラのファインダーのように、作った四角の中に吹雪達をおさめる。
 この場に本当のカメラがあったら写真に撮って残したいけれど、今はカメラがない。だから、即席のカメラで心の中に残しておく。
 みんなが楽しく、みんなと一緒に楽しく過ごす時間がボクの宝物。
 もっともっとボクの宝物が増えますように!
 

                                   Fin


<ちょっとフリートーク>

 サイト開設2周年記念用として書いたSSです。
 大和クンをメインに出すと、どうも子供っぽくなってしまうのは気のせい?(^^;)
 でもこれが大和クンなんだから、いいですよね〜(笑)
 さて、今回は2周年記念用ということで恋愛のからまないほのぼの路線で書いてみました。
 ラスト、皆様にも心地よいあたたかさを感じていただければと思います。
 ちゃんとした形で残すことはできませんが、皆様とこうしておつきあいしている時間も
大和クン同様私の大切な宝物です。
 あっと言う間の2年でしたが、これからも今までと同じように(それ以上?)がんばって
続けて行きたいと思っています。
 皆様、今後もよろしくお願いいたします♪

    

   

  


 

●感想はこちらからでもOKです。ひとことどーぞ♪     

お名前(省略可)            

感想