何ごともなく1日が終わった、いつもの放課後のことだった。
「あ、委員長」
健吾は吹雪の席へと近づいて呼び掛けた。
「何?」
吹雪は鞄に教科書を入れ、帰り支度をしながら返事をする。
「新しい数学パズル、手に入れたんだがやらないか?」
「新しいパズル? 受けて立ってやろう……と言いたいところだけど、ごめん、止めとく」
「えっ?」
断られると思っていなかった健吾は驚く。確か、以前に渡したパズルはもうすぐ全部終わると言っていたはずだ。新しいのがあったら貸して欲しいと言っていたのに。
さらに健吾にとって意外な言葉を吹雪は続ける。
「誰か他の人誘ってあげて。じゃ」
そう言って、吹雪は歩き出す。
他の人を誘って、などと今まで言ったことなどない。
あまりにも素っ気無い態度。
吹雪のそんな微妙な違いに健吾は気がついたが、その理由を訊く前に、吹雪は教室から1人出て行った。
いったい吹雪に何があったのだろうか。
そう思うものの、すでに吹雪はその場にいなく、それを確かめることはできなかった。
仕方なく健吾は1人図書室へと向い、パズルを解こうと本を開いた。しかしそれには全然集中できなかった。
どうしても吹雪の事が気になる。
「なんだって、こんなに気になるんだ……」
気分転換にと健吾は何気なく窓の外を見た。
「あれは……、委員長?」
ふいに視界に入って来たのは、すでに帰ったと思っていた吹雪の姿だった。
そして、誰かが一緒に並んでいるのに気づき呆然とする。
「どうしてアイツと……」
何かふざけながら、それでいて楽し気に歩いている、吹雪と……千尋。
健吾は身を乗り出して2人を見る。
さりげなく千尋の手が吹雪の肩に乗る。吹雪はそれを一旦は振りほどくも、再び肩を組まれると今度は拒むことをしなかった。
健吾はギュッと拳をにぎりしめる。
どうして嫌がらないんだ?!
思わずそう叫びそうになる。
近くにいたなら絶対に止めさせるのにと思う。
それに、どうしてそんな笑顔を千尋に見せるんだ?!
千尋に向ける吹雪の表情は、健吾が知らないものだった。そんなふうに微笑む吹雪を見たことがない。
気がつけば、手のひらには爪の痕がくっきりと残っていた。
「健吾クン」
突然声をかけられ、驚いたように振り向く。
「こ、小林」
「わっ! どうしたの、健吾クン、お顔恐いよ?」
目の前に、少し心配そうな瞳の大和が立っていた。
「何かあったの?」
「い、いや、なんでもない」
そう言いつつ窓の向こうが気になって視線を移すが、すでに2人の姿は見えなくなっていた。
「ホントにどうしたの? 顔色悪いよ?」
「あ、あぁ、大丈夫だ。気にするな」
「ホント? それならいいけど……」
そう言いながらも大和は不安な顔をしていた。
そんな時、突然誰かの笑い声が聞こえてきた。
2つ机をはさんだ向こうに、1組の男女が座っていた。
何やら仲良さげにしているその2人の笑い声であった。
「図書室は静かにしなきゃいけないのにね」
大和がそうつぶやく。
「……そうだな」
大和と健吾はその2人を見ていた。
そのカップルの彼の方がふいに右手を彼女の肩へと乗せる。
仲良く肩を寄せている様子に、大和が再びつぶやいた。
「うわぁ、肩組んだりしてる。あの2人、恋人同士なのかな。ね、健吾クン」
大和は健吾のシャツをちょっと引っ張って、小さな声でつぶやく。
その言葉に、健吾は胸に何かが突き刺さったような痛みを感じる。
肩を組んだ恋人同士。
「まさか……」
呆然としながら、そう口からこぼれる。
「えっ、何か言った? 健吾クン?」
「い、いや、何も……」
大和にはそう答えながらも、内心は穏やかではなかった。
さきほど見えた吹雪と千尋が、図書室にいるこのカップルと同じような感じに見える。
まさか、そういうこと……なのか?
口には出さず、そう思う。
そんな健吾の疑問に、答えられる者はいなかった。
Fin
<ちょっとフリートーク>
私には珍しいけんさんネタですが、けんさんファンにはごめんなさい、かな(汗)
でもこれくらい書いてもいいですよね?(って誰に訊いているんだか……)
ここでのちーさん&吹雪ちゃんは、本当にそういう仲になっているのか、
それともただ偶然一緒に帰っただけなのか、それは皆様の御想像のままに♪
時期的にもいつでもいいかと思いますので。
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