Scene12 笑顔のゲンキ
(『おまけの小林クン』より)

 

あ、おばあちゃん?
うん、ボク、大和。
おばあちゃん、元気?  風邪ひいたりしていない?
うん、ボクも元気だよ。
えっ、大丈夫だよ、心配しないで。
それでね、ボクね、今日から新しい学校に行くんだよ。
うん、そう。
えっ、どうしてわかったの?
ん〜、編入試験を受けに行った時はちょっとだけしか迷わなかったよ。
眼鏡をかけた親切なお兄さんと、長い髪の毛を頭の左右でくりんってしばった元気な女のコが
道教えてくれたから。
うん、今日は迷わないでちゃんと学校行くから。
それでね、新しい学校は向日葵高校っていうの。
とっても大きな学校で、優しい校長先生がいるんだよ。
たくさんお友達できるといいなぁ。
あのね、ボク、なんとなくいい予感がするんだ。
とってもイイ人たちと仲良くなれる感じがするの。
今ね、とってもわくわくしているんだ。
大丈夫よぉ、ボク男のコだもん。
心配しないで。
あ、そろそろ学校行かなきゃ。
また電話するね。
うん、おばあちゃんも元気でね。
……うん、ありがとう、おばあちゃん。
それじゃぁね。

◇ ◇ ◇

 大和は名残惜しそうににそっと受話器を置いた。
 もう少し話したかったけれど、電話代もかかるからそう長くはかけられない。
 すぐそばに住んでいた頃は毎日いろいろなお話をしていたのに。
 大和は小さくため息をつき、そしてふっと思い出す。
 公園のチューリップや桜が咲いたこと、3丁目の角のお家で子犬が生まれたこと、美味しい芋ようかんを見つけたこと、それから、それから……。
 そんなことを考えているうちに、大和の瞳に淋しげな涙が浮かんできた。
 瞳がじんわりと熱くなる。
 もう少しで涙がツゥと流れ落ちそうになった時、大和は慌てて涙を拭った。
「大丈夫! ボクは男のコなんだからしっかりしなきゃ!」
 えいっと大和は立ち上がる。
 大丈夫。
 新しい学校にはきっと楽しいことが待っている。
 友達もたくさん作って、楽しく過ごすんだ。
 お勉強もちょっとはがんばって。
 不安の方が大きいのを気づかないフリをして、大和は楽しいことばかりを考える。
 全然知らない人の中に入るのは不安がいっぱい。
 仲間に入れなかったらどうしよう。
 誰も話しかけてくれなかったら……。
 ちょっと気を緩めると、考えることはそんなことばかり。
 それでも大和はそんな不安を無理にでも吹き飛ばし、鏡に向って笑顔を作る。
「うん、大丈夫!」
 いつも笑顔でいれば、きっと楽しいことが訪れるはずだから。
 どんな時もボクは笑顔でがんばるんだ。
 そして、電話を切る直前におばあちゃんが言ってくれた『がんばるんだよ』の言葉。
 大和はその言葉を胸に、新しい未来へと向ってその一歩を踏み出した。

                                   Fin


<ちょっとフリートーク>

大和はその言葉を胸に、新しい『罠』へと向ってその一歩を踏み出した。

とか考えたらダメでしょうか?(どっちにしようか迷ったんですけどね/笑)
大和クンの向日葵高校転校初日の朝の1シーンです。
電話の相手のおばあちゃんは、5巻で大和クンが別れを惜しんでいるおばあちゃん。
血縁関係のあるおばあちゃんではないですよね? なんとなくそんな気がしたのですが。
大和クンネタなのに今回は短くてすみません(^^;)
余談ですが、眼鏡をかけた親切なお兄さんと髪の毛くりんな元気な女のコとは
誰でしょう?(笑)
そしてタイトル……。
わぁ〜、ごめんなさいっ。思いつきませんでした〜。
でも、この曲の歌詞って、大和クンに似合うと思います。
『元気な君が好き 涙なんかに負けるな その笑顔を そういつでも 応援しているよ』
やっぱり大和クンの笑顔が好きなんです〜。