Scene28のおまけ
(『おまけの小林クン』より)


 

「はい、クリスマスプレゼント」
 映画館を出て駅前の広場を通りかかった時だった。
千尋はどこからか取り出したプレゼントを吹雪の手に乗せた。
「私に?」
「他に誰がいるの。吹雪ちゃんのだよ」
「これ、うさぎ?」
「それはおまけ。よく見て」
「まさかこの箱?」
「そ。正解。ホントのプレゼントはそれ」
 手のひらに乗る大きさのうさぎが持っていた小さな箱。赤と緑のクリスマスカラーのリボンが飾り付けられている。
「開けてもいい?」
「どうぞ」
 細いリボンをシュルリとほどいて箱を開けると、中にはシルバーのネックレスが入っていた。トップの飾りは小さなリング。小指の先にも入らないほどのリングだが、作りはしっかりとしていた。
「ホントはちゃんとしたリングあげたいところだけど、普段はできないからこっちにしたんだ。ネックレスなら普段学校にも着けてきやすいと思って」
 確かに指にはめるリングなら普段学校へは着けては来れない。けれど、これなら服の下に隠すこともできるので大丈夫なのだ。
「かわいい」
「気に入ってくれた?」
「まあね」
「じゃ、つけてあげる」
 千尋は吹雪の手のひらからネックレスを取ると、それを吹雪の首に回して留め金をとめた。
 襟のないワンピースの首元に、ネックレスがぴたりとはまる。
「良く似合うよ」
「そう? 綺麗な色だね。ありがとう」
「今回はこれで我慢してね。こっちに合うのはまた用意するから」
 そう言って千尋は吹雪の左手を取り、薬指を差した。
「こっちって……」
 思わず吹雪の頬がほのかに赤く染まる。
「そう。ここ。だからそれまでここに指輪はしないでね」
 見事なウィンクをして、約束だよと千尋は告げた。
 吹雪はうつむいて、わかるかわからないかくらいに小さくうなずいた。
「吹雪ちゃん」
「?」
 千尋は吹雪の耳もとに顔を近づけると、何か小さくささやいた。
 その途端、吹雪の顔がさらに真っ赤に染まった。
「ば、ばか! 何でそんなこと恥ずかしくもなくさらっと言うのよ?!」
「だって本心だし。俺の本気だよ♪」
「そんなこと言って! ホ、ホントは何か企んでるんでしょ?!」
「疑り深いなぁ、吹雪ちゃんは。今日はクリスマスイブなんだし、これくらいの台詞言わせてよ。じゃあ、もう1回言おうか? 本気ってことで今度はもっと大きな声で」
「い、いい! 言わなくていい!」
 こんなにたくさんの人がいる場所で、今の台詞を言われたらかなり恥ずかしい。
 ただでさえ、自分の顔が赤くなっているのがわかっている吹雪は、人込みにいるのがイヤになってスタスタと歩き出した。
「あ、吹雪ちゃん、どこ行く気? 俺を置いて行くなんて。あーぁ、さっきの台詞、せっく愛を込めて言ったのになぁ」
 残念そうに、しかしどこか楽し気な口調でそう言いながら、千尋は吹雪の後を追う。
 歩調を速めて歩く吹雪は、まだ心臓がドキドキしていた。
 薬指の指輪の話だけでもドキドキするのに、さらにあの台詞。
 恥ずかしく思う反面、嬉しく思う自分がいる。そしてそれは自分の千尋への気持ちがなんであるかを自覚するには十分だった。。
 その時。
 広場に飾られた巨大ツリーの電燈がぱっと一斉に灯された。
 思わず足を止めて、吹雪は巨大ツリーを見上げる。
「きれい……」
 ピカピカと赤や黄色の電燈が、緑のツリーのあちこちでついたり消えたりしている。
 そしてタイミングをはかったかのように、雪が静かに降ってきた。
「ホワイトクリスマス、か」
 吹雪の横に立つ千尋が小さくつぶやく。
 空を見上げる千尋の横顔を、吹雪はそっと見つめた。
「千尋」
「うん? え、吹雪ちゃん?!」
 何を思ったのか、吹雪は千尋の襟元に手をかけるとぐいっと引っ張り、千尋の顔を自分の顔に近づけた。
 そして、千尋の耳もとで何かをささやく。
 短い一言だったのか、すぐに吹雪は千尋から離れた。
 思い掛けないことを言われたのか、千尋は一瞬驚いて絶句していた。
「さっきの返事よ!」
 真っ赤な顔で怒鳴るように吹雪は言うと、再びスタスタと歩き出した。
 ふいをつかれたせいか、千尋は言葉も出ず、吹雪の後ろ姿を見る。
「……今回は吹雪ちゃんにやられっぱなしだな」
 千尋はそう言って前髪をくしゃっとかきあげた。口元を少しほころばせながら。
 遠くからクリスマスソングが流れているのが聞きながら、千尋は吹雪の後を追った。


                                   Fin


<ちょっとフリートーク>

おまけいかがだってでしょう?
省いてしまいましたが、前半部分はちーさんが吹雪ちゃんを映画に誘ってました。
某所のクリスマスイベントで、けんさん&吹雪ちゃんの甘いSSが多く、これは私も甘いSSを書かねば(笑)と思い、これでは物足りないかも、ということで正式UPの『a peice of Noel』に書き直しました。
そんなことをするからクリスマスに間に合わないし……(^^;)
クリスマスに間に合うようにUPするのと、甘いSSをUPするの、どっちが正しかったのでしょうか?(笑)
最後のちーさんのセリフは、今回のクリスマスは吹雪ちゃんから映画に誘われ、嬉しくなるような一言を言われたということで、めずらしくちーさんがやられたのです(笑)
さて、ちーさんは何と言って、そして吹雪ちゃんは何と返事をしたのでしょう?
その台詞は皆様の御想像のままに♪

    

   

  


 

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