Scene20 君と過ごした夏 大和編
(『おまけの小林クン』より)


 

 携帯電話のメモリに入っているナンバー。
 それを選べばいつでもつながる。
 コールが1回、2回。
 そして聞こえてくる声。

 あ、もしもし。うん、ボク。
 えっと、用事はないんだけど、あのね、元気かと思って。
 ホント? 良かった。
 ボク? もちろん元気よ。
 もうすぐ夏休みが終わるね。
 えっ、宿題?
 えっと、えっと、大丈夫……だよ、きっと。
 今? 図書館で宿題してたその帰りで公園にいるの。
 うん、もう帰るとこ。
 じゃあ、またネ。

 
 夏休みはつまらない。
 クラスのみんなに会えなくて、たくさんの時間をもてあましてしまう。
 誰かと一緒にいたいけれど、学校にいるのと同じにはいかない。
 例え散歩の途中でクラスの誰かに出会っても、ほんの少し言葉を交わすだけ。
 いつも誰かと楽しく一緒にいたいと思うのは、ボクのわがままなのかな。
 夕暮れが近づいた空は、青とオレンジが解け合った不思議な色が広がっている。
「小林クン!」
 急に名前を呼ばれてボクは振り返る。
 公園の入り口の方から、向日葵柄のオレンジ色のワンピースを着た吹雪ちゃんが駆けてくる。
「良かったぁ。すれ違いになったらどうしようかと思った」
 急いで来たのか、吹雪ちゃんは息を切らせていた。
「吹雪ちゃん、どうしたの?」
「突然電話が来たから心配になったの。なんか、いつもと違うような気がしたし。もしかして小林クンが元気ないのかと思ったんだけど、大丈夫? 小林クン、元気?」
 ボクの顔を覗き込んで、ちょっとだけ心配そうな顔。
 電話でちょっとしか話さなかったのに、吹雪ちゃんはわかってくれたんだ。
 ボクがちょっとだけ落ち込んでたのを。
 だから、ボクはとっても嬉しくなる。ボクのことを見てくれる人がちゃんといてくれたから。
「吹雪ちゃん、優しいね」
「えっ、そ、そんなことないわよ」
「ボク、元気だよ。それでね、吹雪ちゃんに逢えたからもっと元気になったよ。今日は吹雪ちゃんに逢えて、すっごく嬉しい!」
 ボクはホントに嬉しかったから、そう言って吹雪ちゃんの手を握った。
 すると、吹雪ちゃんは真っ赤になってしまった。
「あ、ごめんね。いきなり手握ったりして」
「う、ううん、平気」
 さらに吹雪ちゃんの顔が赤くなっていく。
 あ、あれ?
 ボクもなんだか顔が熱くなってきたみたい。
 どうしてかな。
「ゆ、夕方だっていうのに暑いわね」
「そ、そうだね。かき氷でも食べたいね」
「私、美味しいところ知っているの。そこ、行こっか?」
「うん! ボク、いちごミルクが好きなんだ」
「私も大好き。ミルクたっぷりかけてもらおうね」
 そう言った吹雪ちゃんの顔は笑顔だったけど、まだちょっと赤かった。
「あ、そうだ。宿題、みてあげようか?」
「ホント?! うわぁ、嬉しいなぁ。ホントはネ、大丈夫って言ったけど、ちょっと困ってたの。へへへ」
 ボクが照れたように笑うと、吹雪ちゃんももっと嬉しそうににっこりと笑ってくれた。
「私にまかせておけば大丈夫よ! かき氷食べながらゆっくりやろうね」
「うん! ありがとう、吹雪ちゃん」
 やっぱり吹雪ちゃんって頼りになるね。
 だから、ボク、つい甘えちゃうけど、いいのかな?
 いいんだよね?
 だって吹雪ちゃんは笑顔だし。
 こんな可愛い笑顔だから、見ているとしあわせになるんだ。
 だから、ずっとね、笑顔でいてね。
「じゃ、行こうか、小林クン」
「うん!」
 2人で並んで歩き始める。
 いつもいろいろとありがとね。
 だけどボクだっていつでも吹雪ちゃんの力になるよ。
 困った時は言ってね、吹雪ちゃん。
 ふと見ると、公園の花壇には吹雪ちゃんのワンピースと同じ柄の向日葵が咲いていた。
 夏はまだ終わっていない。

 

                                   Fin


<ちょっとフリートーク>

『君と過ごす夏』のおまけのおまけ2(笑)です。
ちーさん、けんさんと続けば大和クンも書かない訳にはいかないだろう、ということで書いてみました。
でも大和クンが一番難しかったです〜。
精一杯らぶらぶを試みてみたんですけど、他2人と違ってそういう雰囲気に持っていけない……(玉砕?/^^;)
大和クンって1人で過ごすのが嫌いなイメージがあるんですよね。
ということで吹雪ちゃんと2人でごゆっくり〜。
(でも宿題やりながらなので、そうゆっくりもできない?/笑)
3本ともかき氷が最後に出て来ますが、毎年夏になると食べたくなるのに食べずに終わってしまうんですよね。
お祭りのじゃなくて、甘味処のふわっとしたのが食べたい〜。

    

   

  


 

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