Trouble maker
(『聖・はいぱあ警備隊』より)

Trouble2

『今度の日曜日、ヒマ?』
 それは珍しくつぶらの方から言い出した言葉だった。
 自分から誘う事の多かった高屋敷にとって、つぶらのこの言葉はとても心踊るものだった。
 もちろん二つ返事で承諾。そして日曜日は待合せ時間の30分前に到着しているという具合に、嬉しさが行動にも現れたのだった。
 しかし、つぶらとの甘いデートを大いに期待していた高屋敷だったのだが、現実はちょっと違うものであった。

「おい、梨本、まだ買う気か?」
 両手に紙袋をどっさりと持った高屋敷は、軽快な足取りで先を進んでいるつぶらに声をかけた。
「もちろん! だって今日のバーゲンは年に1度の大大大バーゲンなのよ! もう1週間前から何を買うかチェックして楽しみにしていたんだから。買い逃したりなんかしないわよ!」
 握りこぶしに力を入れ、さらに気合いを入れるつぶらだった。
 そして、今日のつぶらはいつも以上にパワフルで、デパートの2階へ行ったかと思うと今度は5階、さらには広いフロアを東へ西へと高屋敷を引っぱり回していた。
 これじゃぁ、俺はただの荷物持ちじゃないか。
 高屋敷はがっくりと肩を落とす。
 つぶらとのデートへの期待が大きかっただけに、落胆も大きかった。
「高屋敷! 早く、こっちこっち!」
 高屋敷の心情を察することなく、つぶらは無邪気な笑顔で手招きをする。落胆の気持ちを表情には出さないように努力しながら、高屋敷は仕方なくその後を追い掛けた。

「じゃ、ちょっと試着してくるね」
 両手でたくさんの洋服を抱え込んだつぶらは試着室へと入って行った。
 高屋敷はなんとか笑顔を作って見送った後、そこから少し離れたところにあった休憩用のイスに座った。
「あっ」
「えっ?」
 気力を失いかけて思わずドサッと勢いよく腰掛けてしまったせいか、近くに座っていたと思われる人の荷物にぶつかってしまったようである。そのせいで、荷物の一部が紙袋から床へと落ちていた。高屋敷は慌ててその荷物を拾う。
「すみません、俺の不注意で……」
「あぁ、別に気にしなくてもいいよ。拾ってくれてどうも♪」
 相手はフッと口元を緩めて微笑みながら荷物を受け取った。年齢的には高屋敷と同じくらいの高校生だろうか。しかし、どことなく普通の高校生のような感じがしなかった。高屋敷の目から見ても、彼の容姿はどこか惹き付けられるようなものがあった。美形と一言で言ってしまうには何か言い足りない感じの雰囲気だった。
「すごい荷物だね?」
「あ、ええ、まぁ」
「その様子だと、荷物持ち?」
「えっ……」
 出し抜けに図星をさされてしまい、高屋敷は一瞬戸惑う。しかし、自分でわかっていても人から『荷物持ち』と言われるのは良い気分はしなかった。
「別に俺はただの荷物持ちなんかじゃないですよ」
 思わず口調が強くなる。
「ふうん」
 別段気にするふうでもないのだが、彼の視線をこちらを向いたままだった。
「そっちこそ、荷物持ちじゃないんですか?」
「オレ? オレは彼女とデート中♪ 彼女に重い荷物は持たせたくないから、オレが持ってるの」
 どこか余裕のある、いやありすぎる微笑みに、高屋敷は何故か対抗心が芽生える。
「俺だって彼女とデート中ですよ!」
「ホントにデート? そのわりにはつまらないって感じだけど?」
「……っ!」
 そう言われて思わず言葉を失う。まさにその言葉の通りで、自分がつまらなさそうにしていたのは自分でもわかっていた。それを出さないように気をつけていたつもりだったのだが、少し話しただけの彼に見抜かれてしまったことに驚いた。
「ま、オレはどっちでもいいけどね」
 鋭いところをついてきたわりには、しつこく聞いてきたりはしなかった。
「ねぇ、これ、どお?」
 突然呼び声がして高屋敷と彼が振り返る。呼んだのは高屋敷の知らない女のコだった。 
 どうやら彼の彼女らしく、高屋敷には目もくれずに立ち上がり、彼女のそばへと行った。
「何着ても似合うねぇ♪ 可愛いよ」
「もう、アンタは何でもそう言うんだから」
 不満気に言いながらもその彼女は可愛いと言われたのが嬉しいのか、大人びた表情が一瞬にして変化する。頬を少し赤く染めた姿が愛らしく見える。
 もっとも、つぶら以外の女のコなど眼中にない高屋敷の目にはそうは映っていないのだが。
「でも、さっきの若草色のスカートの方がさらに可愛いと思うけど」
「アンタがそう言うなら間違いないよね。じゃ、こっちの方にする」
 彼女は彼へ対して信頼があるのか、素直に彼の言葉に同意する。
「それじゃ、その服貸して。先に会計済ませてくるから」
「あ、でも」
 躊躇する彼女から彼はスカートを手に取る。それから彼女の耳もとへと顔を近づける。 
 その時、一瞬視線が高屋敷の方へ向く。そして軽く微笑む。それはまるで自分達の仲の良さを高屋敷に見せつけるかのようだった。
「いいから早く着替えておいで♪」
 高屋敷が聞こえたのはそこまでだったのだが、その後も彼は彼女に小声で何かを言っていたようだった。彼女は、何言ってんのよ!、などと言いながらさらに頬を赤く染めたりしていた。そして照れた様子の彼女は着替えるために試着室へと戻って行った。
 そんな彼らの仲睦まじい様子を高屋敷は黙って見ていた。
 ふいに彼が高屋敷の方を振り向いた。
「じゃ、オレはこれで。そっちも楽しいデートを」
 意味ありげな微笑みを残して、その彼は立ち去って行った。
 デート中だという彼と彼女のやりとり。楽しそうな2人の様子は、確かに恋人同士のそれに見える。
 そうなのだ。買い物とはいえ恋人同士の2人が一緒に来ているのだから、これはれっきとしたデートなのだ。
 自分が楽しめないままの状態は良くない。
 せっかくの日曜日に2人でいるのだから、楽しまなければもったいない。
 ここはビシッと言って、ただ買い物をするばかりではなく、もっとデートらしい、恋人らしい感じで過ごすべきだということを、つぶらにわからせるべきと高屋敷は思った。
「高屋敷」
 つぶらが試着室から出てきた。決意を固めた高屋敷は、想いをぶつけようとした。
「梨本! 俺達は……!」
 言いかけて、途中で言葉を飲み込む。
「ね、どう? この服、私に似合う?」
 くるりと1回転する。桜色のミニスカートがひらりと揺れた。
「……すごく、よく、似合ってる」
「ホントォ?」
 高屋敷の声のトーンが少し落ちたのを聞き逃さなかったつぶらは、少し疑い気味にもう一度訊いた。
「本当だ。それに、かわ……」
「えっ?」
「い、いや、何でもない」
「何でもないって、何か言いかけたでしょ? 言いかけて止めるなんて気になるじゃない。何言おうとしたの?」
「い、いや別にたいしたことじゃないから」
「ねぇ、ちゃんと言って!」
「だから、その……」
 さっきの彼はさらりと言えたのに、何故か自分では口にするのが照れくさかった。
「高屋敷」
 にらむようなつぶらの視線に負けて、ぽつりとつぶやいた。
……かわいいよ
「聞こえないよ?」
「……かわいいって言ったんだ。何度も言わせるな、阿呆」
 そう高屋敷は顔を真っ赤にしながら言った。
 それを聞いたつぶらもしだいに顔が赤くなる。
「や、やだ。高屋敷ったらぁ♪」
 面と向かってかわいいと言われたつぶらは、照れながらも嬉しくてたまらない。あまりに嬉しくて、その気持ちは高屋敷の背中をバシバシ叩くことで表現された。
「い、痛いぞ、梨本」
「じゃ、これにするね!」
 嬉しそうな笑顔を残して、つぶらはもう一度試着室へと戻って行った。
 その場に残された高屋敷は、背中に痛みを感じながらも、つぶらのかわいさについにんまりと表情が緩みそうになる。
 そんな高屋敷はふいにハッと何かを思い出す。
 ガツンと言ってやるつもりだったのではなかったのか。
 ちゃんとデートしようと、つぶらに言うつもりだったのに、それについて何も言い出すことはできなかった。
 それに気づいて、思わずはぁと大きくため息をつく。
 でも、これが自分達のペースなのかもしれない。
 彼女が楽しくしていてくれるのなら、それだけでいいかもしれない。
 デートという形式にこだわるよりも、一緒にいるということの方が大切なのだ。
 隣に並んでいられるということが、何よりもしあわせなのだ。
 もう一度ちゃんと言おうか。
 誰よりも一番かわいい、と。
 高屋敷は早く試着室からつぶらが出てこないかと、待ちわびていた。

 

                                  Fin


<ちょっとフリートーク>

 ちょっと不満気味の高屋敷クンでしょうかね。
 でも傍から見たら、立派ならぶらぶバリアーを張っているように見えると思うんですけれど(笑)
 今回書いた高屋敷クン、なんだかしまりがないというか、ちょっぴりオリジナルとイメージ違うかも?(^^;)
 つぶらちゃんにかなりメロメロな彼になってしまいました(笑)
 今回ゲスト出演の2人がいましたが、どのカップルなのかはわかりますよね?
 こんなふうにゲスト出演させるのは楽しいです♪

 さて、これはTrouble maker 第2弾です。Trouble1のフリートークに書きましたが、このSSは高橋直純さんの『トラブルメーカー』2番の歌詞をモデルにしています。
 曲をモデルにするのはいつかやるだろうと思っていました(笑)

  


 

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