あかねは目の前を走る少女を追っていた。
「待って、蘭さん! 天真クンが、お兄さんが心配してるから、一緒に帰ろう!」
誰かに呼ばれているような気がして、あかねは船岡山へと来ていた。感じるままに歩き、たどり着いた場所で一人の少女と出会った。
黒龍の神子ラン……いや、森村蘭。天真が探し求めていた、たった一人の妹だった。
どういう経緯で蘭が現代からこの京へ来たかはわからない。けれど、せっかく会えた蘭を、あかねはむざむざ見逃すことはできなかった。
あかねは蘭に追いつくと、逃がせまいとしてその右手首を握った。蘭はそれを嫌がり、乱暴に振り払おうとする。必死になって落ち着かせようとするあかねと、取り乱したように暴れる蘭の2人はいつしかもみ合いになっていた。
「お願い、天真くんに会って! あんなにあなたのことを探して……」
「天真なんて名前知らない! 私の心をかき回さないで! 私の邪魔をしないで!」
「えっ?!」
ドンと正面から身体を押されたかと思うと、急激な浮遊感があかねを襲った。
「キャー!!!」
あかねと蘭がもみ合った場所のすぐ側は小さな崖であった。
身体を押されるまま、足を滑らせたあかねは背中から落下する。
悲鳴だけが静かなその場所に響いた。
◇ ◇ ◇
「どういうことだよ?! あかねはどこへ行ったんだよ!」
「落ち着け、天真」
なだめようとする頼久に身体を押さえられるが、興奮した天真は思いっきり乱暴にその手を振り払った。
「落ち着けだと?! あかねが行方不明だっていうのにどうして落ち着いてられるんだよ! そんな涼しい顔して、お前は心配じゃないのか?! 平気なのか、頼久?!」
「平気なものか! 神子殿を心配する気持ちは私も同じだ!」
今にも殴り合いが始まりそうな勢いで、2人はお互いの胸ぐらを掴み合った。
「おやめください!」
藤姫の悲鳴めいた、か細い声が2人を止めようとする。けれど、勢いのついた2人を止めるまでにはいかなかった。
「天真も頼久もいい加減にしないか! ここで争っていても神子殿は戻ってはこない」
珍しく声を荒げた友雅の言葉に、天真と頼久は仕方なくお互いに手を離した。しかし今も2人のにらみ合いは続いている。
「今は喧嘩などしている場合ではない。神子殿を見つけるのが先だ」
年長の友雅に叱れるようにそう言われ、天真も頼久も大人しくなった。
あかねの行方がわからなくなったと報告を受けたのはつい先ほどのことだった。
報告を受けたその時、偶然というべきか、頼久、天真、友雅の3人が土御門を訪れていた。
藤姫と合わせてその4人があかねの安否を心配していた。
今日のあかねはいつものように怨霊封印にでかけた。そして夕暮れ少し前には土御門に帰って来ていたのだが、いつの間にかいなくなっていた。けれど、ちょうど藤姫付の警護の者があかねが一人ででかけるのを見て、気をきかせてその後を追ったという。ただ、その警護の者は数刻後、一人で藤姫のところへ戻って来た。
「それで、藤姫、何か手がかりは?」
話を進める友雅に、藤姫は青い顔で答えた。
「あ、はい。神子様の行方は船岡山へ入ったところまでは確かめられております。船岡山で迷われているのか、それとも……」
「船岡山だな」
天真は藤姫にそう確認すると、一人で部屋を飛び出した。
「天真、一人で行くな!」
友雅は天真を止めようとしたが、天真はそれを無視して先を急いだ。
「頼久、すぐに後を追うんだ。この時間から山に入っては、不馴れな天真は道に迷うだけだ」
「承知いたしました」
短く承諾すると、頼久はすぐに天真の後を追って飛び出した。
「友雅殿……」
いつも以上に不安な色をその瞳に浮かべ、藤姫は友雅を見上げた。
「大丈夫ですよ。神子殿は必ず見つけて一緒に戻って来ます」
友雅は、安心なさい、と藤姫に微笑む。
しばらく震えていた藤姫だったが、やっとほぅっと安堵の息をもらす。その様子を確認した後、友雅も船岡山へと向かった。
◇ ◇ ◇
もう日暮れ寸前で、その山の中は薄暗かった。いや、山の中はうっそうと木々が生い茂り、陽光を通さず、すでに夜のようである。
一言で船岡山と言ってもそこは広い。
天真はいつの間にか通常の道から外れていた。結局天真は、頼久に追いつかれる事なく一人で山の中をさまよっていた。
道ならぬ道を進みながら、ただひたすらにあかねを探す。
「あかね! どこだ!」
叫んでも返ってくるのは葉ずれの音ばかり。
気ばかりが急いて思うようにあかねを探す事ができず、天真はイライラを募らせていた。
視界の悪い中を進んでいると、突然足下が崩れた。慌てて後ろへと飛び退く。
「危ねぇ、この下崖かよ」
木につかまりながら下を覗き込む。深くはないけれど、足場がない。
この先は進めないと思い、天真がそこから引き返そうかと思ったその時だった。
天真の瞳が、崖下に桜色に淡く光る何かがあるのを見つける。
「まさか、あかね?!」
よく目をこらしてみれば、確かにあかねの姿を見る事ができた。
不思議なことに、その存在を知らせるかのように淡い光があかねを包み込んでいた。
天真は迷わずその崖を降りて行く。
思ったよりもその崖は深くはなかった。意外と支えになるような枝や岩もあり、下へたどり着くのにそう時間はかからなかった。
「あかね! 無事か?!」
「天真くん? どうして……?」
真っ青な顔色のあかねは、その場に座り込んだまま突然現れた天真の顔を見上げた。
「無事で良かった」
天真は思わずあかねを抱きしめた。そしてその無事を確かめるかのように、髪や背中を撫でる。
天真に触れられながらもまだあかねは不思議な心地がしていた。
本当に天真くん?
夢や幻ではなく、本当に天真なのかと思った。
痛いくらいに抱きしめられる。そして抱きしめられるそのぬくもりは確かに現実のものだと知る。
本当に天真なのだとわかると、あかねは泣きながら天真の胸にしがみついた。
「天真くん……、天真くん!」
薄暗い山の中で一人でいたあかねは、心細くてたまらなかった。
このまま誰にも見つけてもらえなかったらどうしようかと不安だった。
「もう大丈夫だ。大丈夫だから」
耳元で優しくささやかれる。
その言葉も、抱きしめる力強い腕も、あたたかいぬくもりも、その全てがあかねの不安を解かしていく。
天真の腕の中が心地よくて、こんな場所があったのかとあかねは気づく。力強い腕の中はとても安心できた。
少しの間、あかねは天真にしがみつきながら、その心地よさを静かに感じていた。
「あかね、お前あそこから落ちたのか? 怪我は?!」
抱擁を一旦解いて天真は訊いた。
「あそこから落ちたんだけど、茂みか何かがクッションになって大きな怪我はしてないみたい。背中とか痛いけど、打ち身だけだと思う。だけど、ちょっと足が……」
あかねは左の足首をさすった。
落ちた瞬間は気を失っていたのだが、目覚めた後、歩こうとして立ち上がった途端激痛が走り、力が入らなかった。
天真はあかねの足首に触れてみると、熱を持っているのがわかる。
「捻挫だな。とりあえず冷やした方がいいな。確か川が近くにあったはずだからそこへ行こう」
天真はしゃがんであかねに背を向けた。
「乗れよ」
「え、でも……」
「その足じゃ歩けないだろ。ごちゃごちゃ言ってないで大人しくおぶされ」
「ごめんね」
あかねはそれだけ言って天真の背に乗った。
◇ ◇ ◇
かすかに聞こえる水が流れる音を頼りに進むと、ほどなく泉にたどり着いた。
湧き出る水が小さくではあるけれど川を作っている。ひんやりとしたその水に、あかねは左足を入れた。
「少しそうやって冷やしておけ」
「うん」
川べりにあかねを下ろした後、天真は周辺から乾いた枝を探して来て持って来た。そしてどこからライターを取り出して、それに火をつけた。
「天真くん、ライターなんて持ってたの?」
「ああ、制服のポケットに入っていた。別にタバコ吸うためとかそんなんじゃないからな。ただこういうのを持ってるといろいろと便利だろ?」
そう言って天真はライターをしまった。
「俺もまぁいろいろと無茶するからな。さすがにナイフとか刃物は持ち歩けなかったけど」
天真のいう無茶は、3年前に行方不明になった妹の蘭を今も自分で探しているせいでの話である。どんな些細な手がかりでも良いからと、情報を集めるために危険をおかした事もあったらしい。
その当時のことをあかねは知らなかったが、天真が蘭のことを一生懸命探しているのだけはあかねにも伝わっていた。
だからこそ、ついさっきこの京で蘭を見かけた時、あかねは天真に会わせたいと強く思ったのだ。
「どうした? そんな顔して」
たき火を起こした天真が、あかねの顔を覗き込むように見た。
「天真くん……」
あかねは蘭のことを話そうかどうしようか迷っていた。天真と会うことを拒絶した蘭のことは話せない。けれど、少しでも手がかりになることなのだからそのことを話しておくべきかもと同時に思う。
何かを言いたげに何度も口を開きかけたあかねの様子を天真は不思議に思った。
「お前、本当にどうしたんだ? 足の怪我でも痛むか?」
「……怪我は大丈夫。心配しないで」
あかねは静かに微笑んだ。
今はこれ以上天真を心配させたくはないと思ったあかねは、蘭については後で落ち着いたら話した方が良いと判断した。
それから少しの間は2人とも無言だった。
その静寂が変わったのは、何気なくあかねが手を動かした時だった。
「なんだ? 何か落ちたぞ?」
「えっ?」
あかねの水干の袖の中から何かキラリと光るものが転がって来た。
それを何気なく拾った瞬間、天真の顔色が変わった。
「お前! これは蘭の?!」
それは、天真がいつも首から下げている指輪と色違いのものであった。両親が兄妹のために贈った色違いのお揃いの指輪だった。
さきほどのもみ合いの最中で引っ掛かったのか、いつの間にか紛れ込んでしまったらしい。
「蘭に会ったのか?」
真剣な瞳にあかねは隠し通す事はできず、こくりとうなずいた。
「あいつは……、あいつはどうした? 一緒にこの崖から落ちたのか?」
「ううん。落ちたのは私だけ。きっと蘭さんは無事だと思う」
「そうか……」
天真はホッとしたのと同時に疑問が沸き起こり、ハッとする。
「おい、まさかお前が崖から落ちたのはあいつのせいなのか?!」
「ち、違うよ。私が勝手に落ちたの。彼女は何も悪くないの!」
あかねは首を左右に振って否定する。
けれど、天真はあかねの怪我の原因が蘭にあるのだと思った。
「お前、蘭に会いにここへ来たのか?」
怪我の件については触れずに、天真は別の質問をした。
「蘭さんがいるとは思わなかったの。ただ誰かに呼ばれた気がしたの。『助けて』って聞こえたから。たぶん、ううん、きっと蘭さんが私を呼んだんだよね」
「蘭と何か話をしたか?」
あかねはすまなそうにうつむいて首を左右に振った。
「私に会った途端、彼女は逃げ出したの。私は追いかけて、なんとか天真くんのところへ連れて行きたかったんだけど、ちゃんと話ができないまま……」
「そうか」
「天真くん、あの……」
「……どうしてあいつは俺から逃げるんだろうな」
天真はそれっきり黙り込んでしまった。
これまで何度か天真自身も蘭を見かけた。けれど、蘭は天真の呼びかけに答えようとはせず、天真が近づけば冷たい瞳で見据えるだけだった。
戸惑いと不安と混乱が天真の心に広がる。しかし、どうすることもできなかった。
そんな天真を見ているのは、あかねもつらかった。けれど、あかねは何をしたらいいのか、そしてどんな言葉をかけたらいいのかさえもわからなかった。
「天真くん……」
ただあかねはその名前だけを呼んだ。
一瞬、ビクッと天真の身体が揺れた。そして悲し気な色をした瞳があかねに向けられる。
自分は何もできない、そうあかねが思った時だった。
ふわりとあたたかいぬくもりがあかねの身体を包み込んだ。
「お前が気にすることないからな」
「えっ?」
「蘭のことは今すぐ解決できるとは思っていない。あいつがいなくなって3年。その3年という月日は俺にとってはあっという間でも、あいつにとっては違うかもしれない。俺は今のあいつのことを全然知らない。あいつがここにいる理由がなんなのか知らない。その理由もわからずに無理矢理連れ戻したところで、また同じ事をくり返すような気がする。解決すべき何かがあるはずなんだ。それが終わらないうちは、簡単に蘭を連れ戻せないんだと思う。どうして、なんて訊くなよ。ちゃんとした理由は俺にもわかんねぇ。だけどこれだけはわかるんだ。時が来ればわからないことがわかって、そしてあいつは無事に戻って来るって」
そう言いながらも天真の口調はどこか苦し気だった。
「天真くん……」
あかねはそっと天真の背を優しく撫でた。
「大丈夫だよ。きっと蘭さんは戻ってくる。私はそう信じるよ。蘭さんは天真くんと一緒に現代に帰るんだって」
「あかねに言われると、本当にそうなるような気がするな」
「大丈夫。大丈夫なんだから」
あかねはゆっくりと天真を撫で続ける。
「あかねはやわらかくてあったかくて、なんか安心するな」
「そう?」
「……悪い。ちょっとだけこうしててくれ」
天真はギュッとさらに力を込めてあかねを抱きしめた。
◇ ◇ ◇
「足、どうだ?」
しばらくあかねを抱きしめていた天真は落ち着きを取り戻してあかねをその腕から離すと、そう訊いた。
「ん、少しラクになった」
あかねはしばらく川で冷やしていた足を引き上げた。
天真は怪我の具合をもう一度確かめると、自分の衣服を破る。そしてそれを包帯代わりにあかねの足首に巻いて固定した。
「こうしておけば痛みがひどくなることもないだろう」
「ありがと」
自分の足をさすりながら、あかねはため息をつく。
こんな調子では明日から怨霊封印に出かける事さえできそうにない。この京で自分ができること、しなければならないことがあるのに。蘭と話をすることもできず、天真を悲しい気持ちにさせ、自分はまわりに迷惑ばかりかけていると思うと、あかねは気分が沈みそうだった。
「あかね」
「えっ、何?」
「お前、捻挫以外に結構怪我してるぞ」
天真はあかねの足に口づけた。
「て、天真くん?!」
いきなりの天真の行動にあかねは驚く。
しかし天真はそれに構わず、あかねの膝下にできた擦り傷をひとつひとつ舐めていく。
「消毒代わりだ」
血がうっすらとにじむ傷口に、天真は唇で触れていく。
その天真が触れていく場所が熱く感じる。鼓動は速くなり、不思議な感覚が全身に広がっていくようであった。
「あかね」
ふいに天真が視線をあかねに向けた。
2人の視線が絡み合う。
天真の瞳にほのかに色づいたやわらかそうなあかねの唇が映る。
触れてみたい。
そんな衝動にかられる。
黙ったままじっと見つめられ、あかねは、どうしたの、と言いたげに首を傾げた。
天真は何も言わずにゆっくりとあかねに顔を近づけた。
息が触れあうくらいまで近づく。
けれど、あかねは顔色を変えることなくじっとしていた。
その様子を見て天真は心の中で小さくため息をつく。天真があかねの唇にキスしようとしていることに、当人はまったく気づいていないらしい。時々鋭いことを言うくせに、こんな時に限って反応がにぶい。
「……ここも血が出てるぜ」
天真は急にあかねの頬に口づけた。
「て、天真くん!」
あかねは恥ずかしがり、真っ赤になって頬を手で押さえた。
「……お前はスキがあり過ぎだ。襲われても知らねぇからな」
天真は横を向いてぼそっとつぶやいた。
「え、何? 襲われるって、まさかこのへん熊でも出るの?!」
あたりをきょろきょろと見回しながらあかねは天真の袖を引っ張った。
震えながら身を寄せてくるあかねに、一度は諦めかけた想いが再び沸き起こる。
天真は再度あかねに触れたくなる。
幸い、ここには自分とあかねしかいない。邪魔するような者は誰もいないのだ。
肩に手を回して引き寄せて、そのまま押し倒せば……。
ゆっくりと天真の右手があかねの背後で動き、あかねの肩に触れそうになった刹那。
前方の茂みの方からガサッという物音が聞こえてきた。。
「て、天真くん、熊?!」
「熊なんているわけねぇだろ……」
物音で一端は止まった天真の右手だったが、もうためらわずにあかねの肩にたどり着く。
あかねは肩に手を置かれた事よりも音が聞こえたきたことの方が気になるらしかった。茂みの方をじっと見ている。
「あかね……」
決意を決めた天真は、あかねを引き寄せて覆いかぶさろうとした。
その時。
「神子殿!」
茂みから姿を現したのは、頼久だった。
思わず天真はパッとあかねの肩から手を離す。
「頼久さん! 来てくれたんですか?!」
「神子殿、御無事ですか?! お怪我はありませんか?! あぁ、そのおみ足は! 怪我をなさったのですね! すぐにお屋敷に戻り、手当ていたしましょう」
あかねしか目に入っていない頼久は天真に構う事なくあかねを抱き上げると、さっさと歩き出して行った。
「……」
天真は頼久のあまりの素早さに反応が遅れ、大切そうに抱き上げられたあかねを呆然としながら見送った。
「天真? どうかしたのかい?」
その声に天真は我に返る。
「と、友雅。なんでお前達が……」
「たき火の煙りを頼りに来たのだが? これは天真達がここにいるという合図であろう? 泰明殿の式神がうまく導いてくれたぞ」
「あぁ、たき火、な。そうだな、そのためだったな……」
いきなりの2人の登場に、天真はその状況を理解するのに少々時間がかかった。
自分で用意しておきながら、すっかりたき火のことを忘れていた。
「その口ぶりだと、私達は来てはいけなかったような言い方だね」
「そ、そんなことねぇけど……」
「心ここにあらずといった感じだな。何を考えている?」
「な、なんだよ、それ。別に何も考えてねぇよ!」
天真はそう言って立ち上がる。
頼久の奴、あと少しのところで邪魔しやがって。
本当のところ、それが天真の本音だった。
あと5分でも10分でもいいから来るのが遅ければ。
せっかくのチャンスなのだから、もう少しあかねを一人占めしたかった。
こんなふうにあっという間もなく連れ去られるくらいなら、いっそ熊が出て来た方が良かったんじゃないかと考えてしまう。
いら立ちを隠せない天真は、自分の髪をくしゃくしゃとかきあげた。
「天真?」
「なんでもねぇよ!」
このままこの場に留まっていても仕方がないので、天真はたき火を消すと頼久とあかねの後を追った。
もうすでに頼久の姿は見えない。あかねの怪我に頼久はよほど急いでいるのだろう。
天真は2人に追いつくのをあきらめた。
「ところで、天真」
しばらく歩いたところで、背後を歩いていた友雅がふいに声をかけてきた。
「なんだよ」
「神子殿と二人っきりでいて、彼女に何か悪さをしなかっただろうね?」
「わ、悪さって何だよ!」
思わずカッと顔が赤くなる。
「悪さは悪ささ」
慌てる天真に友雅は楽し気にそれだけ言うと、天真を抜いて歩いていく。
「悪さなんてしてねぇからな!」
叫ぶ天真に応える者はいなかった。
終
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