初めて出逢った時、何て話し掛ければ良いのかわからなかった。
無口で、視線が鋭くて、どこか近寄りがたいところがあると思った。
もしかして私は嫌われているんじゃないか、とさえ思った時もあった。
だけどそれは私の思い違いだった。
気づいたらあなたはいつもそばにいてくれた。
いつでも私を守っていてくれた。
鋭い視線はいつの間にか、優しくてあたたかいものに変わっていた。
その変化がいつからなのかはわからない。
いつの間にか、そうなっていた。
気づいたら、あなたと目が合う回数が増えていた。
いつでも私を見ていてくれた。
それが嬉しくて、でも恥ずかしくて。
あなたと一緒にいる時は、どこか落ち着きがなくてドキドキしていた。
そして、私もあなたへの気持ちも少しずつ変わっていた。
あなたと過ごす時間が誰よりも多くなっていた。
それがいつからなのかは私も覚えていない。
あなたにそばにいて欲しくて、時々無理も言ってしまった。
それでも、いつも私を優先してくれた。
私が龍神の神子だから。
そう言ってしまえばそれだけなのかもしれない。
でも、そうじゃない。
いつだったか言ってくれたから。
『貴女が何よりも大切なのです』
その言葉に嘘はない。
もともと嘘や冗談を言えるような人じゃないし。
あなたの言葉にはいつも気持ちが込められている。
『貴女だけはこの身に代えてもお守りいたします』
あなたに守られているというだけで嬉しくなる。
でも、私はあなたに守られているばかりでいいの?
私の代わりにあなたが怪我をするなんてイヤ。
だから、あなたに守られてばかりいるのはイヤ。
もっともっと力をつけて、あなたの隣に並びたい。
対等でありたいと思う。
あなたにもっと近づきたくて、私はここまでがんばることができた。
あなたのそばならまだまだがんばれる。
あなたと一緒なら、どんなことでもがんばれる。
「神子殿? どうかされましたか?」
必要以上に心配気味な瞳が向けられて、私は慌てて首を横に振る。
黙ったまま、じっと見つめてしまっていたことを不審に思われたみたい。
「ううん、なんでもないの」
「お疲れになられましたか? もうすぐ土御門殿ですので、しばし御辛抱ください」
私を気遣う優しい表情。それを見るだけで私は嬉しくなる。
「頼久さん」
「はい? 何でございましょう?」
私の心にあふれる想い。
あなたに伝えたい気持ち。
あなたの穏やかなその微笑みが、私をしあわせにする。
あなたがそばにいてくれるだけで、私は何でもがんばれる。
誰かを想う気持ちは、こんなにも大きな力になるんだね。
こんな気持ち、あなたに会うまで知らなかった。
「あのね……」
あなたに会えてよかった。
終
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