その患者さんと心の深いところで思いが通じ合わなければ、歯科治療の成功はありえません.

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十分なコミュニケーション



心が通じ合う歯科医療
 患者さんの“困った、何とかしなくては”という思いと、歯科医師の“大変だろうな、何とかしてあげたい”という心が通じ合わなければ、歯科治療は成功しません.

コミュニケーションの重要性

 歯科医療においてコミュニケーションが重要であることは、片山セミナーに参加して以来、十分承知しているつもりでいました.

 片山セミナーのノートにも「言葉はゆっくり話す」「患者とだけものを言う」「患者の言うことを聞いてあげる」というような記載があちらこちらにあります.

 しかし、患者さんとコミュニケーションをとるのは口で言うほど簡単ではありません.

心が通じ合う

 ここ数年、非常にたくさんの患者さんと出会う機会に恵まれています.

 そして、患者さん一人ひとりが悩みをかかえ、その内容もそれぞれ異なるということをつくづく感じています.

 担当歯科医が同じでも、患者さんが違えばお互いの意思疎通も異なってきます.

 いくら歯医者が「コミュニケーションが大切だ」と念仏のように唱えていても、臨床の現場で意思疎通をはかることはそう簡単ではありません.

 時間をかけて無駄話をしたからといってお互いの気持ちが通じ合うわけではありません.
 「この患者さんはこのことを困っているのだ」、
 「先生は私のことを分かってくれた」
と、その患者さんと心の深いところで思いが通じ合わなければ、歯科治療の成功はありえません.


口数の少ない女性

 小学校1年生の娘の治療に付き添って来ていた母親から「私の治療もお願いできますか」という申し出がありました.

 今から20年以上も前の話です.

 「少し前から歯がグラグラするようになって不安で仕方がないので、診てもらえないでしょうか?」ということでした.

 口の中を拝見すると重度の歯周病です.

 いろいろ話を聞こうとしたのですが、とても口数の少ない女性で、私自身もコミュニケーションより歯科的介入に重きをおいていた時期だったので、十分な話し合いはあまりできませんでした.

歯肉が物語る

 当時から、重度歯周病は片山先生の「歯槽膿漏-抜かずに治す」を基に治療を進めていたので、この患者さんにも「抜かずに治す」を読んでもらうことにしました.

 最初は貸し出して読んでいただいていたのですが、いつでも読めるようにと、ご自分で購入して熱心に読むようになり、長時間ブラッシングにも取り組みはじめました.

 ブラッシングを始めても相変わらず口は重いままでしたが、口の代わりに歯肉が多くを伝えてくれるようになりました.

 赤く腫れあがっていた歯肉がどんどん引き締まったコーラルピンクの歯肉に変わっていったのです.

 重度の歯周病を気に病み、何とかしたいと強く思い、そのためにブラッシングが有効であることを理解し、忙しい時間の中で何とかブラッシング時間を捻出し頑張っていることが、口ではなく歯肉が物語ってくれたのです.

治療への熱意

 患者さんが一生懸命取り組んでいる姿勢は歯科医療者の心を打ちます.

 私も担当衛生士もこの人のためにできる限りのことをしたいと強く思うようになりました.

 あそこにうまく歯ブラシの毛先が入らないと言っていたがこうしたらどうだろう、ワンタフトブラシにかえてみたほうがいいかもしれない、など診療時間以外にもその患者さんのことを考え、衛生士と話し合う機会が多くなりました.

 患者さんもとても熱心にブラッシングに取り組んでいました.

 交わす言葉は少なかったのですが、”患者さんの熱意を受けた私たちの思いも患者さんに伝わり、患者さんもさらにブラッシングに励む”、という好循環が生み出されていったのです.

 この患者さんの重度歯周病はどんどん改善され、歯肉は健康な状態になり、歯周ポケットも全周にわたって2mm程度と健全な状態を取り戻しました.

 この治療の成功は、患者さんの頑張りが歯科医と衛生士を動かし、医療者の思いが患者さんを勇気づけるという、三者の心が通じ合った結果だったと考えています.

 現在でもこの患者さんは定期的に検診に通っていますが、歯周病で歯を失うことなく今日に至り、当時1年生だった娘さんは、今では立派なお母さんになっていま
す.

楽しい歯科治療

 患者さんの主訴を聞いて、病状や病態を把握して、治療計画をたて患者さんに説明するインフォームドコンセントだけでは本当のコミュニケーションは成立しません.

 言葉の裏に隠された患者さんの思いをくみ取り、自身のすべてを振り絞ってその患者さんにとって最善の方法を考えて行く力が歯科医には求められます.

 患者さんは、歯医者に行ってあーーんと口をあければ歯科疾患は治るものではないことを理解する必要があります.
 その歯科疾患を自分の問題としてとらえる必要があります.
 ごく小さなむし歯はいざ知らず、歯科領域の問題は歯科医任せにしても治らないことがほとんどなのです.

 そのような歯科医と患者さんが、その歯科疾患への対処を真剣に話し合い、そして態度で示すことで、医患の心が通じ合った真のコミュニケーションが生まれます.

 両者の心が通じ合った歯科治療は、語弊をまねくかもしれませんが、“楽しい”歯科治療です.

 私たちの診療室に来るのが「楽しい」、「楽しみにしている」、「ここに来るとホッとする」と言ってくださる方が少なからずいらっしゃることを私たちは誇りに思っています.

 そして、そういう方々がたくさん来院してくださる診療室でありたいと願っています.

関連項目:《患者さんを不安に陥れるコミュニケーション不足》