−経営ノウハウ集−
破綻処理による債権のゆくえと労働債権
厚木診断士の会
首藤潤治
企業倒産が相変わらず高水準となっており、昨年度(平成13年)は2万件以上という件数となり、戦後2番目の水準を記録したそうです。当然ながら身の回りにも対応に苦慮しなければならないケースが出てくるかもしれません。一般に企業破綻の場合「労働債権」が最優先と思われていますが、はたして事実なのか?そうではない場合はどうなるのか?われわれにとっては、特に、中小企業労働者にとって当然受け取るはずの賃金がどうなるのかは重要な問題となりますので、債権の優先度ともし賃金が未払いになった場合の対応方法を整理してみました。
●破綻処理の種類と債権の優先順位
順位 |
任意整理 |
破産 |
会社更生 |
民事再生 |
1 |
法定納期※以前に設定した抵当権付き債権 |
抵当権付き債権 |
手続き開始6ヶ月前の賃金、納期の来ていない税金、管財人の報酬など |
抵当権付き債権 |
2 |
税金 |
管財人の報酬、税金など |
抵当権付き債権 |
賃金、税金 |
3 |
法定納期※後に設定した抵当権付き債権 |
賃金 |
上記以外の賃金・税金 |
管財人の報酬など |
4 |
賃金 |
一般債権 |
一般債権 |
一般債権 |
5 |
一般債権 |
− |
||
破綻処理の割合 |
80% |
15% |
5% |
※ 法定納期・・・国税、地方税、労働保険、社会保険等の法律で定められている納付期限
●中小企業の場合、破綻処理の方法は上記の表での割合からみると圧倒的に「任意整理」か「破産」という破綻形態になるということがわかります。ということは、労働債権(「賃金」)の優先度が決して優先されていないことになります。
●「目に見えない抵当権」の存在・・・破綻形態の中で多数を占める「任意整理」をみると税金や社会保険の回収は最優先されるということになり、いくら金融機関等が抵当権を設定していても法定納期限が一日でも早いそれらの支払いが優先されてしまいます。
●では、労働債権の取扱いはどうなっているのかもう一度整理してみます。
・会社更生法・・・納期の来ていない税金と並んで最優先
・任意整理、破産・・・回収された抵当権付債権以外は、企業の資産を清算し、そこから管財人の報酬、未払いの税金、社会保険、労働保険に充当され、その次になる。
・ 実際には、破産申請する企業は経営状態が悪く売却できる資産が少ない、また任意整理では裁判所の監督が無いため、債権回収が早い者勝ちになってしまい未払いになるケースが多い。
●倒産法制の見直しはあるのか?・・・法務省は租税債権の優先順位を低くし、企業破産の手続きで従業員の給与を手厚く保護することを検討中ですが、当然ながら財務省は反対していて成立の見通しは立っていません。
そこで未払い賃金が発生した場合、以下の制度による救済措置を検討することになります。
これは、法律上の倒産だけでなく、事実上の倒産でも利用が可能です。意外にもこれは、雇用保険ではなく、労災保険で摘要される制度です。
●未払い賃金の立替え払い制度・・・企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払い賃金の一部を立替払いする、労災保険の労働福祉事業を利用した制度(厚生労働省)
<立替払いを受ける用件>
・一年以上事業活動を行っていること(労災保険を一年以上払っている)
・倒産したこと・・・法律上の倒産、事実上の倒産(中小企業について事業活動が停止し、再開する見込みが無く、賃金支払い能力がない場合)
・労働者が・・・倒産について裁判所へ申し立てる、または労働基準監督署への認定申請
⇒が行われた日の6ヶ月前の日から2年の間に退職した者であること
<対象となる未払い賃金>
・労働者が退職した日の6ヶ月前から立替え請求日の前日までに支払期日が到来している定期賃金と退職手当のうち、未払いとなっているもの
・残業代は含まれるが、ボーナスは対象とならない
・未払い賃金の総額が2万円未満の場合も対象にならない。
<立替払いの上限>
平成14年1月1日改正
年齢 |
未払い賃金額 |
立替払い額 |
30歳未満 |
110万円 |
左記金額の8割 88万円 |
30歳以上40歳未満 |
220万円 |
〃 176万円 |
45歳以上 |
370万円 |
〃 296万円 |
これにより
法的倒産を含む全体・・・94%の者が未払い賃金の全額を対象とした立替払いを受けることが可能
事実上倒産の場合 ・・・97%の者が未払い賃金の全額を対象とした立替払いを受けることが可能
になると見込まれています。
以上
参考文献:「目に見えない抵当権」の存在・・・国税債権は優先される バードレポート第178号
「未払い賃金立替払い制度の上限額引き上げ決定」 JAM政策NEWS 2002-13号
他