眼内レンズによる白内障手術

白内障の治療方法

現在、白内障になってしまった場合の治療方法は、薬か手術のみですが、日常生活に支障が出てきている場合は手術を行う必要があります。
薬は予防と進行抑制を行うものであり、進行した白内障は手術をする以外の方法がありません。

白内障手術とは

白内障手術とは、濁った水晶体を取り除き、そのままではレンズがなくなってしまうため、その代りに人工の水晶体(眼内レンズ)を挿入することです。
これによって患者様は、視力を取り戻し、モノが見える様になります。

白内障手術

白内障日帰り手術の割合白内障手術は国内で年間140万症例もの手術件数を誇る、外科的手術の中でも最も多い部類に入ります。
白内障手術は、大学病院や総合病院だけでなく、一般の町の眼科でも広く行われており、入院を必要としない日帰り白内障手術も普及しています。
麻酔は多くの場合、眼のみの局所麻酔で、手術時間も早ければ10~20分程度で終わってしまいます。

一見簡単で手軽に見えるこの手術も、熟練した眼科医が高度な手術機器を用いて、顕微鏡下で行う大変繊細な手術です。

手術方法

白内障手術前の検査

白内障の診断を受け、白内障手術を行う事になった場合、手術前にいくつかの検査を行います。

検査には手術のための情報を得る検査と、手術後の患者様の見え方を決定するための検査に分けられます。

手術のための検査
現在の視力、白内障の進行度、他の疾患の有無 などを確認する検査
まぶたの状態や血液検査、心電図検査等の全身状態のチェックも行います。
見え方を決定するための検査
手術後の視力への影響、使用する眼内レンズの度数等を決める検査

検査の様子検査ひとつをとっても、手術の中の一つの大事な要素で、手術と同じ様に結果を左右します。
白内障手術の近年の進歩には、検査の進歩も大きく貢献しています。検査が進歩したことにより、手術後の視力の状態をより良くしたり、合併症の発生率を低下させたりすることが可能になりました。

白内障の手術後の結果に特に大きく影響する検査は、眼内レンズの種類や度数を決めるための検査です。つい数年前までは、白内障手術の結果は「またモノが見えるようになれば良い」程度に考えられていましたし、実際に、機械や検査技術のレベルがそのくらいだったのです。
しかし、検査と手術の精度が上がったことにより、手術後の“見え方”の質、通称Quality of Vision(QOV)の追求が当たり前となりました。見え方の質は、生活の質に直結します。

生活の質はQuality of Life(QOL) と呼ばれていますが、我々はQOV の向上によって優れたQOLを得られるように、事前に患者さんの生活形態や趣味、仕事等の情報をよく聞き、眼の状態を精密に計測して患者さんの求める視機能と、眼内レンズの種類や度数を高精度で決定していきます。

主な白内障手術前の検査内容
  1. 問  診………………患者さんの実際の見え方
  2. 屈折検査………………現在の視力測定
  3. 眼圧検査………………白内障以外の病気がないかどうか
  4. 細隙灯顕微鏡検………白内障の進行度合い
  5. 眼底検査………………白内障以外の病気がないかどうか
  6. 角膜内皮細胞検査……角膜の手術耐久性と、手術後の視力への影響
  7. 眼軸長測定・角膜曲率半径……使用する眼内レンズの度数決定

手術の手順

実際の白内障手術は、次の手順で行います。

① 創口作成

細いメスで角膜(黒目)と結膜・強角膜(白目)の境目付近に小さな創口を作ります。
1.創口作成

② 眼粘弾剤注入

眼内をジェル状の物質で満たし、作業が安全に行えるようにします。
2.眼粘弾剤注入

③ 前嚢切開

水晶体の中身を吸い出すために、水晶体を覆っている水晶体嚢と呼ばれる袋の前面を剥がして作業用の窓を作ります
3.前嚢切開

④ 水晶体乳化吸引

剥がされた水晶体嚢の窓から、超音波の出る棒を入れて水晶体を細かく砕き、同時に吸い取ります。
4.水晶体乳化吸引

⑤ 眼内レンズ挿入

中身のなくなった水晶体嚢の中に、切開創から小さく折り畳んだ人工のレンズ(眼内レンズ)を挿入します。
5.眼内レンズ挿入

⑥ 眼粘弾剤除去&創口閉鎖

眼内からジェル状物質を抜き、代わりに水を満たし、切開創を閉鎖させます。
6.眼粘弾剤除去&創口閉鎖

手術当日の流れ

来院時

付き添いの方とご一緒に来院ください

白内障手術は総合病院や大学病院以外にも、数多くのクリニックや街中の眼科で行われています。
その中には入院設備のないクリニックも多数ありますが、白内障手術は進歩のおかげで日帰り手術がごく一般的になっています(必ずしも日帰りではなく、施設によっては入院する場合もあります)。

付き添いイメージ手術後は眼帯をしますので、運転は非常に危険です。手術日当日は車での来院はやめましょう。
また、安全の為にもなるべく、おひとりではなく付き添いの方とご一緒に来院するようにしてください。

食事は控えてください

手術が午前中の場合は朝食を、午後の場合は昼食を控えてください。

ただし、降圧薬などのいつも服用している薬は、飲む必要があるものもありますので、かならず事前に医師と相談しておいてください。

手術直前

手術室に入る前に、手術衣への着替え、散瞳剤などの点眼、血圧測定を行います。
入室前までに必ずトイレを済ましておくようにしましょう。

ご家族が付き添われている場合は、病院によっては手術室の外から手術を見学する事が可能な場合があります。

手術開始

点眼による局所麻酔

手術前の点眼通常の手術は眼のみの局所麻酔で行います。
手術室に入ると、リクライニングの椅子または手術台に寝て、血圧計や心電図モニターの電極をつけ、眼を洗浄して周囲を消毒し、仰向けに寝た状態で顔の上にカバーをかけて手術を行います。

手術中

手術中は体の力を抜いて
眼は開瞼器という眼の瞼を開いておく器具で固定されていますので、一生懸命眼を開いておく必要はありませんから、体の力を抜いて下さい。
指示された方向に眼を向けてください
手術中は、先生から「下の方を見てください」「右の方を見てください」「光の方向を見てください」など、眼を向ける方向の指示がありますので、なるべく体を動かさず、眼だけ指示された方向をじっと見るようにしましょう。
異常を感じたら声をだしてください
局所麻酔のため、体は自由に動かすことができます。もし何か異常を感じるようなことがあれば、なるべく、すぐそのときに言うようにしてください。
手術時間は約15分程度です
手術は、病院にもよりますが、早ければ約10〜15分程度で終わります。
※眼に他の疾患や合併症がある方の場合、手術時間が長くなることがあります。

手術終了後

しばらくは安静に
安静に手術終了後、10~15分程度は、リクライニングチェアでしばらく安静にしてください。
選任のスタッフから手術後の注意事項などの説明を受け、帰宅できます。
眼帯を装着してください
眼帯を着用手術直後は眼球保護のため眼帯を装着します。眼をこすったり直接さわったりして圧迫しないように注意してください。
翌朝の診察まで眼帯をはずさない方が安全ですが、片眼で不自由を感じる場合は、手術直後より眼帯なしにすることも可能です。
ただし、寝るときなどは眼を圧迫するとよくない場合もありますので、手術後の数日間は就眠時に保護眼帯を装着する方が良いでしょう。
手術当日の注意
手術後は、普段通りに飲食を行って大丈夫です。ただし、飲酒に関しては眼科医の指示に従ってください。
お風呂は、手術当日は入れません。その後は、首から下のみ入浴可能となり、1週間程度は洗顔や洗髪が出来ない場合もあります。濡れタオル等で拭く等の方法でが良いでしょう。

< 注 意 >

白内障手術の当日の流れや実際の手術の流れは、その病院やクリニックによって少しずつ異なります。実際に受診される病院の指示に従うようにお願い致します。

術後検診

術後検査は指示通りに

「白内障手術は、短時間で終わり日帰りも可能」になり、とても簡単なように感じるかもしれません。しかし、どんなに短時間で優れた手術でも、外科手術に変わりはありません。手術をした後は、定期的な検査が重要です。

一般的には、手術をした翌日、そして3日後、問題がなければ1週間後、2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後といった期間で検査を受け、手術後の合併症がないかどうか、きちんと見えるようになっているかどうかを確認していきます。

手術後に発生する合併症や、視力・視機能の安定は、手術後短時間では把握できません。定期的な検査を行うことで、何か問題があったとしても早い段階で適切な処置が可能となります。決して自己判断はせず、眼科医の指示に従って検査・通院をしましょう。

術後は定期検診を受診しましょう

合併症や術後症状

合併症は0ではありません。異常を感じたらすぐに眼科へ

白内障手術後には、比較的起こりやすい術後症状や、稀ではありますが合併症があります。

「合併症」と聞くと、急に怖くなってしまうかもしれません。しかし、白内障手術では特に危険度の高くない、比較的起こりやすい合併症もあります。これらは、手術前に正しく理解をしておくことで、手術と手術後を安心して過ごすことができるでしょう。

眼科で質問して理解・納得を合併症に対する知識も大事ですが、自覚症状や病気の判断は、ご自身でなさらず、眼科で検査を受けるようにしましょう。その上で、わからないことや不安なことは何度でも眼科医、そしてスタッフに質問をし、理解・納得をすることが大事です。

代表的な術後に見られる症状

飛蚊症(硝子体混濁)

目の前に黒っぽい小さなもの(浮遊物)が飛ぶように感じる症状を飛蚊症といいます。
白内障手術自体が原因で起こることはあまりありませんが、元々飛蚊症があった方の場合、白内障手術後に、眼がよく見えるようになったことで、かえって一時的に飛蚊症の自覚症状が強くなる方がいます。

それ以外にもなんらかの異常を生じていることもあるので、眼科の診察を受けるようにしてください。

術後に見られる症状:飛蚊症

水晶体が濁っていることで光が透過せず、それまで気づかなかった硝子体の小さな濁りが、白内障手術で光が正常に透過するようになったことにより、硝子体の部分的な濁りが一時的に見えることがある。

後発白内障

白内障手術を受けてしばらくたつと、元々水晶体が入っていた袋(水晶体嚢)が濁り、再び視力低下することがあります。数ヶ月から数年以降に発症することが多く、比較的よくみられる症状で、レーザー照射によりすぐに視力の回復ができます。

後発白内障でレーザー照射によって回復した場合は、基本的に二度と後発白内障にはなりません。

術後に見られる症状:後発白内障

稀に起こる合併症

眼内レンズの偏位・脱臼

白内障手術後に、経年変化やなんらかの原因で眼内レンズの位置が動いてしまう場合があります。また、様々な理由で水晶体嚢内に眼内レンズを固定できない場合もあり、眼内レンズを眼の中に縫いつける必要があります。

これには、再度手術が必要になります。眼内レンズの脱臼が起こると、処置をするまでは視力が落ちる場合があります。
白内障手術後に突然視力が悪化した場合等は、すぐに眼科を受診してください。

稀に起こる合併症:眼内レンズの偏位

嚢胞様黄斑浮腫

白内障手術の術後早期に起こる網膜のむくみ(腫れ)です。
手術後の医師の指示による点眼や注意行為(飲酒等)を守らない場合や、糖尿病網膜症を有する場合に多いので、手術後安定するまでの間は決められた点眼を守り、注意事項を遵守し、検診も指示どおり受けるようにしましょう。

稀に起こる合併症:嚢胞様黄斑浮腫

術後眼内炎(感染症)

創口から細菌感染を起こした場合に発症します。
現在の手術方法では創口も小さく、決められた注意事項を遵守して、きっちり手術後の点眼治療をおこなえば、この合併症を起こすことはまずありませんが、万が一こじらせた場合は、重篤な後遺症を残すことがあり、要注意です。

現在の白内障手術では、手術環境の整備・技術と抗生物質やステロイド等の薬剤が進歩した事もあり、眼内炎の発生率は、2000~3000例に1例の割合とされており、非常に確率が低いので、決して必要以上に怖がる必要はありません。

手術後の見え方

手術後の眼内レンズのメンテナンス

一度挿入した眼内レンズは、脱臼や、その他異常がない限りは、そのままずっと挿入し続けられます。

メガネやコンタクトレンズの様に、取り外したり洗ったりする必要はなく、特に制限等もありませんが、角に激しい衝撃が加わった場合等は、眼内レンズがずれてしまう場合があります。
突然視力が落ちたときは、眼内レンズ自体に異常が出ている場合があるので、すぐに眼科を受診しましょう。

手術後の見え方

視界が眩しく感じる

白内障の進行度に関わらず、高齢の方が白内障の手術を行った場合、ほとんどの方で手術後に視界が眩しく感じられます。
これは、水晶体よりも眼内レンズの方が、光の透過量が多いためです。そのため、手術前と比較すると眩しく感じられます。
眩しさが気になる場合は、日中外出される際にサングラスを着用することをお勧めします。

眩しさは時間経過と共に慣れてくることが多いですが、ごくまれに、光を見ると青っぽく見えたりすることがあります。気になる場合は、眼科医に相談しましょう。

また、光の透過量が変わる事で、手術前まで見ていたものと色味が変わる場合があります。

焦点(ピント)の合う位置について

人工のレンズを入れているので、実際には自分の思った通りの場所に、ピントを合わせるということが出来ません。

特に、焦点が1個の 単焦点眼内レンズ を挿入された方は、眼内レンズのピントの距離とは逆の距離(※)を見るために、眼鏡を必要とすることが多いです。

  • ※ 眼内レンズのピントを近くの物に合うようにした場合は、遠くの距離。遠くの物に合うようにした場合は、近くの距離を見るときのこと。

そのため、日常生活においてメインの生活距離に眼内レンズのピントを合わせていれば、メガネを使う機会は少なくなる可能性はありますが、どうしても眼鏡は必需品となります。

また、複数の距離にピントが合う仕組みの 多焦点眼内レンズ を挿入した場合は、うまくすれば眼鏡が不要になります。

多焦点眼内レンズは、メリットばかりではありませんが、きちんとした事前の話し合いと、患者様の要望を眼科医やスタッフがきちんと精査して、精密な検査と手術が出来れば、非常にハッピーな術後を過ごすことが可能となります。
ただし、その人の眼の状態や生活状況によっては、多焦点眼内レンズが逆に合わない場合があります。

手術後の見え方等は、手術前にしっかりと担当の眼科医やスタッフと話し合い、理解をしたうえで手術に臨む事で、手術後の不安や不満が軽減されます。

眼内レンズ別眼鏡使用頻度

※ 眼鏡装用頻度は、生活様式や仕事によって変わります。

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