『中世王朝物語』について



『中世王朝物語』というのは、鎌倉時代から江戸時代の成立までの四百年間に作ら れた「姫君と貴公子の恋物語」です。

平安時代に成立した名作文学「源氏物語」と「狭衣物語」の影響を強力に受け、つい最近まで「擬古物語」と呼ばれ、「源氏物語」の亜流として位置づけられて きたジャンルでした。

ともすればただ「源氏物語」をマネしただけの、オリジナリティーのない作品と見られがちでしたが、先行作品を強く意識し、その様式を模倣し変奏して独自の 世界を創っていこうという試みをしたのが『中世王朝物語』でした。

「源氏物語」などの優れたところを取り入れながら、同性愛や天皇権力の衰退、男装、女装や女帝の誕生など、さまざまな変わった試みがなされています。

それまでの「まま子いじめ」や「天皇の妻との密通」などといったストーリーパターンに加え、「悲恋遁世譚」という先行作品とは違ったパターンも創られまし た。

「悲恋遁世譚」というのは、『中世王朝物語』の類型的なパターンで、中世の人に非常に好まれたらしい話型です。

「のっぴきならない事情で相思相愛のヒーローとヒロインの仲が引き裂かれ、ヒロインは死亡または栄華を極め、ヒーローは絶望の果て に出家する」といった 筋立てです。

これは『中世王朝物語』のひとつの「しのびね」という作品に最も典型的に現れています。

「しのびね」では、ヒーローと引き裂かれた嘆きのヒロインが帝に見いだされ、寵愛を受ける身になり、中宮・女院にまでのぼりつめるというパターンになって います。

中世には、説話集や随筆に数多く現れるように、仏教的無常観にあふれた出家遁世の物語が流行していたのです。


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