『ぼくが肉を食べないわけ』、「食肉処理場―屠畜の現場」(143ページ以下)からの引用

・・・・〔食肉〕工場の内部を初めて見た人の率直だが扇情的ではない話を二つ匿名で提供したいと思う。

「中に入る前に、案内してくれる食肉処理場の責任者が見学内容について簡単に説明をした。中に入ってすぐ感じたのは、機械の騒音とひどい悪臭であった。

最初に目にしたのは牛が殺されるところであった。牛は畜舎から出て狭い通路を1頭ずつ通り、金属貼りで高い囲いのある小屋へ入れられた。処理用のピストルをもった男が上体を傾け、牛の目と目の間を撃った。牛は気絶して倒れた。小屋の片側が上がり、牛の体は外へ転がり出た。まるで体内の筋肉がすっかり緊張したように硬直して見えた。その男は、牛のくるぶしに鎖を巻きつけ、頭だけが床につく高さまで電動ウインチでさかさに吊り上げた。次にワイヤーの端(電気は通じていないと説明があった)をピストルであけた穴に押し込んだ。こうして脳とせき髄との連絡を絶つと牛は死ぬのだという。脳の中をワイヤーで突かれるたびに、意識がないのにもかかわらず牛はもがき、足をバタバタさせた。この作業中、完全には気絶しなかった牛が何回か小屋から落ちた。その男は、そのたびごとにピストルを使った。こうして死んでしまった牛はさらに吊り上げられ、頭が床から70―80センチ離れると喉を切る係へ移動した。喉が切られると血がほとばしり、われわれの頭の上にまでふりかかってきた。その男は前足を膝から切り離す作業もした。別の男は頭を切り離し、脇の床に置いた。それから、高い段の上に立っている男が皮をはぎ、屍体はまた移動して、次に腹を割かれた。肺、胃、腸などがどさっと出てきた。内臓と一緒に大きく育った子牛が2頭出てきて、その時は恐ろしかった。その牛は出産間近だったのだ。こういうことは、そうめずらしくないと説明があった。・・・・」

・・・・ここにもう一つ、今度はマスコミ関係者の書いた証言がある。

「畜舎の中で男たちは、若くてよく肥えた雄牛を動かそうとしていた。その牛は、目前に迫った死の臭いを感じとり、動こうとはしなかった。男たちは、突き棒や大きな釘の生えたスパイクを使ってその牛を追い立て、注射用の特別室に押し込んだ。肉を柔らかくするのだという。数分後、牛はムリヤリ気絶箱に移され、入り口がぴしゃりと閉じられた。次に、処理用のピストルで"気絶"させられ、両前足が縛られた。出入り口が開くと牛は横たわったいた。男が額にあいた直径1センチくらいの穴に針金を押し込み、ねじった。牛は初め抵抗したが、その後静かになった。鎖のかせが後足の1本に巻きつけられ、血の海を残して吊り上げられると、牛はもがき始め、足をばたつかせた。そのとき牛はまだ生きていた。一人の男が、ナイフを手にして牛に近づいた。牛の両眼はその男に焦点を合わせ、近づいてくるのを眼で追った。みんな、それを見た。刺される前も刺されてからも牛はもがいた。これは反射運動ではない、というのが、私を含め見学していた者全員に共通した見解であった。牛には意識があり、逃れようとしていた。ナイフは2度挿入され、牛は血まみれになった。」

(以下は本文) "肉をやわらかくする注射"は屠場の最新技術のうち最も不快極まるものである。・・・・これは牛の頸静脈を切開し、酵素液を2.5リットル注射するというものである。数分以内に血の流れは自身の肉を溶かし始める。それから屠畜される。この方法はあまりに恐ろしいので、食肉業者でさえ心が痛み、あまり話したがらない。・・・・

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