問題54(健康)の答え・・・21種類の病気すべてが、飲み過ぎによって引き起こされる可能性があるようです。そのため、飲み過ぎは「万病の元」ということになります。

2020年6月22日追記:2001年に問題を作った時点では、飲み過ぎが直接の原因となってアルツハイマー病になることはあまりないと考えていたため、飲み過ぎによって引き起こされる病気にアルツハイマー病は含めませんでした。しかしその後、問題99(健康)問題84(健康)を作る過程で、飲酒が原因でアルツハイマー病になることがあることがはっきりしたため、答えを訂正して、飲み過ぎによって引き起こされる病気に含めました。具体的には、問題84(健康)の答えに含まれているアルツハイマー病を含む認知症の原因となる疾患の一覧表に上記の21種類の病気に含まれる脳梗塞、糖尿病も含まれていること、問題99(健康)で少量の飲酒でもアルツハイマー病の原因になることが分かったため、飲み過ぎなら当然アルツハイマー病になる可能性が高まるとみられるためです)

生活上の不都合が生じているにもかかわらず、過度な飲酒をやめられない病気は「アルコール依存症」と呼ばれています。昔は、「アルコール中毒」と呼ばれていましたが、WHO(世界保健機構)の提唱で最近ではこう呼ばれるようになったそうです(『アルコール問答』、岩波新書、なだいなだ著、19ページ)。

『<読本 アルコール依存症> 飲みすぎで起こる心と体の問題徹底チェック』(猪野亜朗[いの あろう]、高木敏[たかぎ さとし]著、東峰書房)には、飲み過ぎによって引き起こされる病気が多数挙げられています。この本に基づいて、アルコールと病気の関係をご紹介します。

肝臓障害・・・まず、アルコール依存症患者の80%が肝機能障害を抱えているそうです。飲み過ぎると、肝臓は、脂肪よりもアルコールを優先的にエネルギーとして消費(代謝)するために、脂肪が肝臓に蓄積されて「脂肪肝」になるそうです。脂肪肝の段階では、断酒すれば元に戻るそうですが、過度な飲酒を続けていると、大量の肝細胞が死滅して「アルコール性肝炎」、さらに「肝硬変」に進むそうです。肝硬変になっても飲み続けた場合には、5年後に生存している確率(5年生存率)は29%にすぎないそうです。肝機能障害でやっかいなのは、かなり悪化しても、何も症状がない点で、そのため手遅れになる場合が多いそうです。

脳神経障害知能低下・・・健康な人の脳も年をとればだんだん萎縮するそうですが、アルコール依存症患者の場合には、20歳代の若いときから脳の萎縮が現れ、同年齢の健康な人より知能が低下しているそうです(27ページ)。脳の萎縮の影響が特にはっきりしているのは、人格の変化だそうです。アルコール依存症で脳が萎縮した患者の人格には、つぎのような特徴があるそうです。

(1) 頑固でなかなか誤りを正そうとしない。
(2) 白黒がはっきりしていて、善か悪かの議論に奥行きがない。
(3) 惚(ほ)れ込みやすく怨(うら)みやすい(アルコール依存症の専門医は、どんなに若くてもすぐに患者から名医とみなされるようになりますが、ある日突然その患者が来なくなることがよくあるそうです)。
(4) 頑張りやで高望みなので挫折しやすい。
(5) 涙もろくて浪花節的(なにわぶしてき、言動や考え方が義理人情に支配され、古風で通俗的なこと)である。

大酒飲みの知人を思い出してみると、こういう性格の人が多いような気がします。さらに飲酒を続けると、物忘れがひどくなり、集中力が落ち、美的感覚やユーモアのセンスもなくなり、倫理感覚も鈍化し、日常生活や社会生活に支障が出るようになるそうです。この状態のことを「アルコール性痴呆(ちほう)」と呼んでいるそうです。

食道静脈瘤破裂・・・食道静脈瘤は、食道静脈が部分的に拡張している状態のことで、肝硬変によって引き起こされるそうです。肝臓は肝硬変になると血液の流れが悪くなり、その分が食道静脈を迂回することによって静脈瘤ができるそうです。静脈瘤が破裂すると約半分の人が亡くなるそうです。

胃・十二指腸潰瘍・・・空きっ腹で大量の酒を飲むと、胃や十二指腸の粘膜がはがれたり(びらん性胃炎など)や大きく欠損すること(胃潰瘍や十二指腸潰瘍)があるそうです。食べながら飲むとこのようなことが起こりにくいそうです。

すい炎・・・すい炎は、すい臓から消化酵素が出る管がふさがるために、自分自身を消化してしまう病気だそうです。すい炎の原因の半分以上がアルコールで、暴飲暴食したあとに起こり、激痛が走り、ひどいときは黄疸(おうだん)や意識障害が起きて亡くなるそうです。

糖尿病・・・アルコール依存症患者の15%は糖尿病だそうです。糖尿病にかかったアルコール依存症患者が飲酒を続けていると5年生存率は21%にとどまるそうです。逆に同じ患者が断酒すると、それだけで半分の患者が正常化するそうです。

心筋症と脳梗塞・・・アルコールによって心臓の筋肉が傷害され(傷つけられ)、血液を送るポンプとしての働きが悪くなることがあるそうです。この病気は「アルコール性心筋症」と呼ばれていて、息切れやむくみの原因となるそうです。長い間心筋が傷害を受け続けると不整脈が起こり、不整脈はさらに血栓(けっせん、血の固まり)ができる原因となり、この血栓が脳の細い血管に流れていくと、脳梗塞が起こるそうです。脳梗塞が起きると、たとえ亡くならなくても、半身が麻痺したり、言葉がしゃべられなくなるなどの後遺症が残る場合が多いそうです。

ガン
・・・口腔がん、咽頭・喉頭ガン、食道ガン、肝ガンは、飲酒している人に発生しやすいことが知られているそうです。最近では、大腸ガン、乳ガンとも関係があることが分かったそうです。特に、アルコール濃度の高い蒸留酒をよく飲む人は、口腔ガン、咽頭・喉頭ガン、食道ガンの発生率が高いことが分かりました。

例えば、アルコール依存症患者を内視鏡検査すると3.6%に食道ガンが発見されるそうですが、これは一般の集団検診の100倍以上の高率だそうです。食道ガンの危険度について注目されるのは、酒を飲むと顔が赤くなるタイプの人の危険度は、赤くならない人に比べて12倍となっているそうです。顔が赤くなる人は、食道ガンに注意する必要があるようです。胃ガンについても、アルコール依存症専門病棟のある久里浜病院の患者の発生率は1.7%と、一般の集団検診での発生率である0.2%を大きく上回っています。

特に、酒とたばこが重なるとガンの発生率が急上昇するそうです。たとえば、酒もたばこもやらない人の肺ガンの危険度を1とすると、酒だけだと危険度は1.8倍ですが、酒とたばこを両方やると、5.9倍に上昇するそうです。同様に、喉頭ガンでは1.4倍が21.4倍になるそうです(たばこの害については、問題39(健康)もご参照ください)。

高血圧・・・飲酒量が多ければ多いほど、高血圧にかかる人が増えることが知られているそうです。日本酒換算で3合(ビール中ビンでは3本)以上、毎日飲酒する人が高血圧にかかる確率は、酒を飲まない人の3から4倍になるそうです。

高脂血症・・・アルコール依存症の人は、断酒直後で44%が高脂血症にかかっているそうです。高脂血症自体の症状はありませんが、心筋梗塞、脳卒中、高血圧など動脈硬化によって起こる病気の誘因になっているそうです。

痛風・・・痛風患者の94%は飲酒習慣があるそうです。特にビール好きの人に痛風が多いそうです。

感染症・・・アルコールは免疫に関与しているリンパ球の働きを狂わせることがあるため、アルコール依存症の人は、肺炎、肺結核などの感染症にもかかりやすいことが知られているそうです。白癬菌による感染が足の指の間にできたものが水虫です。

性機能不全・・・大量の飲酒を続けると、正常な性機能が失われる傾向があることが分かっています。

どのくらい飲むと飲み過ぎになるか

厚生省が2000年に作成した「健康日本21」では、節度ある適度な飲酒量は1日平均で、ビールなら中ビン1本、日本酒なら1合(180cc)、ウイスキー・ブランデーならダブル1杯(約60cc)、焼酎なら5分の2合、ワインならワイングラス2杯弱だそうです(ともに純アルコールに換算すると約20グラムだそうです)。ただ、先天的にお酒を受け付けない人もいますし、個人差が大きいため、最後は自分で判断する必要があるようです。

ただ、アルコール依存症の人(1杯で再発するため)、未成年者(心身が発達途上にあるためお酒の影響をひどく受けるため)、妊婦(アルコールは胎児に悪影響を与えるため)は飲んではならないそうです(65ページ)。

酒の量と関係して、非常に危険なのが毎年のように事故が発生しているイッキ飲みです。酒をほとんど飲めない新入社員が、新入社員歓迎会でイッキ飲みを強要されたために死亡するという事件では、会社が遺族に9000万円の示談金を支払ったそうです。96年には熊本大学医学部1年生だった吉田さんが、新入生歓迎会で多量の酒を飲み、翌朝、同級生の下宿で嘔吐物をのどにつまらせて死んでいるのが見つかるという事件が起きました。この事件では、上級生が飲酒を強要し、泥酔していたのに適切な処置をとらなかったたことが死亡原因であるとして、同学部の教授や上級生ら19人に総額1億3,000万円の損害賠償を求める訴訟を、吉田さんの両親が起こしました。さらに両親は、教授や上級生ら14人を、傷害致死と保護責任者遺棄(いき、置き去りにすること)致死の疑いで、熊本地検に告訴したそうです(26―27ページ)。著者の高木敏先生は、「イッキ飲みや飲酒の強要は殺人罪(に相当する)と思った方が無難です」と書かれています(25ページ)。

自分がアルコール依存症であるかどうかを調べる方法

依存症にかかっているかどうかの見分け方として、「CAGE法」、「ICD-10」がこの本では紹介されていますが、かなり専門的な内容となっていますので、ここでは高木先生がNHKラジオで話されていた依存症の簡単な判断基準をご紹介します。

(1)とまらない飲み方・・・・飲まずにいられなく、飲み始めたらやめられない。仕事中の飲酒、飲酒運転を繰り返す。朝酒、特に、自販機から酒を買えるようになる朝5時に、買いに行ったことがある人はかなり重症(ただし、68ページによると、全国小売酒販組合は、2000年6月からお酒の自動販売機を撤廃すると発表したそうですが、知りませんでした)。

(2)酒をやめると特定の症状が現れる(離脱症状)・・・手の震え、汗をかくこと、不眠、吐き気、嘔吐、幻覚など。

(3)周りの人から節酒を勧められたことがある・・・自分でも申し訳ないと感じたり、非難されることが気に障ったことがある。

これらの判断基準が当てはまる方は、アルコール依存症である可能性が高いようです。

「否認」が治療の障害となっている

アルコール依存症治療で、最も難しい点は、多くの場合、患者本人が自分が依存症であることを認めたがらないという点(これを「否認」と言うそうです)のようです。自分が病気だと思わなければ、病院に行くこともなく、治療の中心となる、「断酒」を実行しようと思わないのは当然です。依存症が患者本人によって「否認」されるのには、つぎの三つの原因があるそうです(76ページ)。

(1) お酒で記憶がなくなる・・・血液中のアルコール濃度が一定以上になると記憶中枢が働かなくなるため、その時間帯の記憶が欠落することになるそうです。その結果、「周囲の人々が最も不快な仕打ちを受けているときの記憶が抜けているので、現実の否認が生じるのです。これは本人にとっても、家族にとっても最も悲劇的な部分かもしれません」と指摘されています。

(2) お酒が、感覚、認知、判断、記憶をあいまいにする・・・「大量飲酒をしている人や朝酒をしている人では、・・・家族などの周囲の人々が、どのような悲しい表情をしていたのか、どんなつらい気持ちで話していたか、どんなみじめな素振りをしていたか、どんな思いを伝えようとしていたのか正確に認知も記憶もされていないのです」

(3) お酒で生じた辛いこと、嫌なことを心の防衛が働いて意識から遠ざける・・・人間は誰でも辛いことや嫌なこと、苦しいことなど、不快なことがあるとその問題に心が直面することを避けようとして問題を素直に認めなかったり、言い訳やへ理屈を並べて正当化する心の仕組みが働くそうです。この機能は防衛(機制)と呼ばれています。お酒の問題が深刻であればあるほど、心の防衛が生じやすくなるそうです。

この「否認」を解消するためには、医者と家族が協力して、患者に働きかけるイベント(「初期介入」と呼ばれています)を開催すると、効果が大きいようです(87ページ)。「初期介入」には、かなりのノウハウが必要となるため、専門家の協力の下で、事前に十分に準備しておくことが不可欠なようです。

日本はよっぱらい天国

上でも触れたラジオ放送で、高木敏先生は「日本はよっぱらい天国」であるとおっしゃっていました。日本では、夜の盛り場でよく見かける泥酔した人を海外ではほとんど見かけたことはありません。これは、日本の治安のよさの裏返しなのかもしれませんが、海外では、そこまで酔うのは、自分をコントロールできないためであると考えられる可能性が高く、アルコール依存症とさえみなされかねないようです。日本では、酒に強いことが、男らしく、強い意志を持っていることを示す美点とみられる場合が多いようですが、こんな誤ったイメージを(主に女性に対して)アピールするために、飲み過ぎて命を落とす男性が多数いるのではないかと思います。本当の死因はアルコール依存症でも、肝硬変、食道ガンなどの身体的な病気が死因として公表されるため、この問題の深刻さが見逃されているのではないかと思います。

たばこを大量に吸っていた元上司が肺ガンで亡くなったことは、問題2(健康)の答えで触れましたが、毎週ウイスキーを1本以上飲むなど、習慣的に大量に酒を飲んでいた友人で、アルコールが原因になったとみられる病気で50歳を前にして亡くなった人が二人いました。高木敏先生も、16ページで、次のように指摘されています。

(アルコールによって起こる病気の特徴の一つは)酒をやめるとすぐに病気がよくなってしまうことです。 ・・・「今度飲んだら死ぬよ」といっても、不死鳥のようによみがえります。私の助言などは役にたちません。結局、退院してもふたたび飲みはじめ、また悪くなって入院してきます。ぐるぐる回って最後は、まるで蚊取り線香の灰が落ちるようにして、50歳くらいで死んでしまいます。どんな丈夫な体だって限界があります。私の患者さんが最後に言い残していくのは、「なんでもっと真剣に言ってくれなかったのか」という悔恨(かいこん、後悔)の言葉です。だから内科ではこう言います。「あなたの病気はアルコールが原因です。酒をやめない限り直りません。もし、あなたが私の指示通りにしてくれるなら、私は一生懸命治します」と。

(2001年5月12日)。

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