問題40(土木・建築)小林教授は、( b. 原因をコールドジョイントだけに求めるのはまったくのナンセンスです、 c. 原因は、フライアッシュと呼ばれる物質を混入した、いわば欠陥生コンなんです )と答えています(99年10月6日)。

山陽新幹線は 一定期間、運休して徹底的に調査・点検する必要がある

週刊朝日によると、「剥落(はくらく、はがれ落ちること)が起きたのは、コールドジョイントによって生じた不連続面のすぐ下です。そこが何らかの理由で亀裂が起きやすい状態になっていた。原因は、フライアッシュと呼ばれる物質を混入した、いわば欠陥生コンなんですよ」と小林教授は分析しているようです。コールドジョイントとはコンクリートを流し込む際に、作業を中断した場合、先に流し込んだ部分と、後から流し込んだ部分の境目がもろくなる現象ですが、先に流し込んだ部分がしっかり固まっていれば、境目がもろくなっていても、コールドジョイントより下側が崩れる可能性はあまりないとみられます。

フライアッシュは、火力発電所で微粉炭を燃焼する際に排出される石炭灰の一部で、重量が20%までなら、セメントと置き換えて使っても強度が大幅に低下することはないため、福岡トンネルができた75年当時、セメントの添加物としてよく使われていたそうです。しかし、コンクリートの硬化が著しく遅くなるという欠点もあるそうです。硬化に時間がかかると、比重の関係で生コンに含まれる砕石や砂利などが下に沈み、細かい砂や水分が上に行くため、コンクリート全体の強度が均一でなくなり、特に上部が弱くなると、週刊朝日の記事では指摘されています。つまり、先に流し込んだ部分の上部の強度が十分でなかったために剥落が起こったと考えられるようです。

また、小林教授は「山陽新幹線高架橋の安全性に関しては、・・・軌道を支えている床版(コンクリートの板)が疲労破断を起こす可能性がある、・・・新幹線の高架橋は列車の走行によって、ある日突然、床版が破壊するという危険にさらされている、・・・・・疲労破断は前触れなしに起こることを銘記すべきである」と『コンクリートが危ない』(67―68ページ)に指摘しています。床版が破壊された場合の事故は、200キロのコンクリート塊が列車を直撃したことによる事故よりもはるかに重大と考えられます。

そのため「一定期間、運休して徹底的に調査・点検をする必要があるでしょう。もっとも、そうした手立てを講じても、余命はせいぜいあと15年から20年くらい」と週刊朝日の記事の最後に指摘されています。

70年代に建設されたコンクリート構造物が2005年から2010年ころに一斉に崩れ始める

さらに小林教授は「(山陽新幹線のトンネル・高架だけでなく)70年代に建設されたコンクリート構造物が2005年から2010年ころに一斉に崩れ始める」と『コンクリートが危ない』に指摘しています(同書27ページ)。山陽新幹線の設備は劣化が特に甚だしいため、この一斉崩壊の時期が早まったと考えられるようです。

コンクリートの寿命は、元来50年以上と考えられており、健全な材料を用いたコンクリートを入念に施工した場合には、メンテナンスフリーの状態で60―70年持つのが普通で、例えば、「西ドイツの橋梁技術者は、コンクリート橋の上部構造に対して70年、下部構造に対して110年の寿命を期待している」そうです(『コンクリート構造物の耐久性診断シリーズ1、コンクリート構造物の早期劣化と耐久性診断』小林一輔著、森北出版、1991年7月第1版発行)。日本でも、1903年に完成した京都市山科区日ノ岡の琵琶湖第一疎水路上に架けられたメラン式弧形桁橋(橋長さ7.3m)は、建設後95年以上経った現在も使われているそうです。また、ニューヨークの摩天楼を構成するビルには、エンパイヤ・ステート・ビルなどの1910―30年代に建設されたものがかなりあります。

ところが、70年代以後で、コンクリートの品質の指針(土木学会の「コンクリート標準示方書」と日本建築学会のJASS5)に塩化物の総量規制が導入された、1986年より前に建設されたコンクリート構築物は、一般に考えられているよりもはるかに急速に劣化が進行しているようです。特に、現在でも海砂を骨材(セメントと混ぜてコンクリートを作るための岩石、砂などのこと)として利用している西日本で劣化が激しいようです(『コンクリートが危ない』の179ページ)。

小林教授の予想によると、下の「予定寿命に達する橋梁数の推移」のグラフに示されているように、ピークになるとみられる、2011―2015年、2016―2020年については、5年間について1万8,000の橋梁が崩壊し始めるとみられています。日本全国の橋の数は分かりませんが、90年現在のコンクリート道路橋の数は8万弱と予想されており(同書40ページ、日経コンストラクションによる推定)、鉄道橋の数はこれよりも少ないとみられますので、この期間については、5年間について橋梁全体の10分の1以上が崩壊することになります。マンションについても、下のグラフに示されているように、2006―2010年の5年間に寿命に達するのは、50万戸を上回るとみられます。マンションの総戸数は、95年現在300万戸強と予想されていますので(同書40ページ、建設省住宅着工戸数統計による推計)、2005年以降は、5年間について全体の6分の1が崩壊することになります。

予定寿命に達する橋梁数の推移

予定寿命に達するマンション棟数
(および戸数)の推移

橋梁とマンションの建設年代と寿命の関係

これら三つのグラフは『コンクリートが危ない』の41―42ページから転載させていただきました。

「橋梁とマンションの建設年代の寿命との関係」のグラフに示されているように、70年代から80年前半にかけて、橋梁の寿命は平均して50年から40年程度に、マンションの寿命は同じく40年から35年程度に短くなったとみられています。

コンクリートの劣化=炭酸化

コンクリートは、セメントと骨材(石や砂)と水を混ぜ合わせて、固めたものです。セメントは、石灰石粘土を4対1の割合で混合した原料粉末を、ロータリーキルンと呼ばれる回転釜で高温焼成して生産します。石灰石の主成分は炭酸カルシウム(CaCO3です。石灰石は、鍾乳(しょうにゅう)洞やカルスト台地を構成する岩石で、比較的もろくて硬度(堅さ)は10段階のうち3番目と、セッコウより一段階堅いだけです。セメントの焼成の際には、

CaCO3 → CaO + CO2 ・・・・・・  反応式(1)
(中性) → (強アルカリ性、CO2は大気中に放出される)

という反応が起こり、CO2(炭酸ガス、二酸化炭素)が放出されると同時に、CaO(石灰、酸化カルシウム)が作られます。CaOが、粘土の構成成分であるSiO2(二酸化ケイ素)や Al2O3(酸化アルミニウム)と結合して、セメント鉱物と呼ばれるいろいろな化合物が作られます。セメントはいろいろなセメント鉱物が混合された粉末です。セメント鉱物には必ず、CaOが含まれており、CaOはセメントの重量全体の60%を占めています。

セメント鉱物は水と反応するとセメント水和物というものになります。セメント水和物全体の60%以上を占めるのが、ケイ酸カルシウム水和物(CaO、SiO2、H2Oから構成されており、一般に炭素、ケイ素、水を構成する水素の元素記号から、C-S-Hと呼ばれているそうです)です。骨材をセメント水和物によって固めたものがコンクリートです。そのため、セメント水和物はセメント硬化体組織とも呼ばれています。

コンクリートの劣化とは、コンクリート表面に空いている小さな穴からコンクリート内部に染み込んだ二酸化炭素が、コンクリート内部のセメント水和物を構成しているCaOと反応して、強度の弱いCaCO3に変化することだそうです。この反応は炭酸化と言われるそうですが、ちょうど反応式(1)の逆の(つまり、右側の化合物が左側の化合物に変化する)反応です。コンクリートの内部は通常強アルカリ性(pH12―13)ですが、炭酸化によって中性になるため、炭酸化は中性化とも呼ばれているそうです。正常なコンクリートでも中性化は起こりますが、その速度は50年経過後で表面から1cmだそうです(『コンクリートが危ない』の37ページ)。中性化がこれよりも急速に進行することを早期劣化と言うそうです。

早期劣化に関連して問題となるのは、アルカリ骨材反応鉄筋の腐食です。

アルカリ骨材反応・・・・・アルカリ骨材反応は、コンクリートにアルカリ分(ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの水酸化物や炭酸塩などのように、水溶液がアルカリ性を示す物質)が過剰に含まれていると、(ちょっと逆のような気がしますが)炭酸化が急速に進行する現象で、「コンクリートのがん」とも呼ばれているそうです。

アルカリ骨材反応が起こると、コンクリート構造物にひび割れを発生させるだけでなく、強度や弾性係数が大幅に低下し、「阪神高速道路松原線山王地区にある高架橋では、完成後10年で圧縮強度が約2分の1、弾性係数にいたっては健全なコンクリートの約4分の1にまで低下していた」という例もあったそうです(同書89ページ)。また、アルカリ骨材反応は、いつまで劣化が続くかが予想できないという特徴があるため、対応が極めて難しいようです。

アルカリ骨材反応を引き起こす原因には、(1)過剰のアルカリ分を含むセメント、(2)アルカリ溶液に解けやすいシリカ(SiO2、二酸化ケイ素の別称)が大量に含まれている骨材、(3)塩分を含んだ骨材から作られた生コンの採用などが考えられています。日本では65年ころから75年ころにかけて、セメントの製造方法を、省エネ型に切り替えたそうですが、新しい製造方法によって生産されたセメントは、従来の方法によって生産されたものよりもアルカリ分が多いことが、70年代に建設された構築物の早期劣化の重要な要因となっているようです。

鉄筋の腐食・・・・・通常コンクリート表面から3cm以上の深さに配置されている鉄筋の周囲にまで中性化が進行すると、鉄筋は腐食し始め、腐食によって鉄筋の体積は約2.5倍に膨張するため、コンクリートが崩壊し始めるそうです(『コンクリートが危ない』の37ページ)。

コンクリートに塩分などの塩化物イオンが含まれている場合には、この腐食が特に急速に進行することになり、これが、海砂をコンクリートに使うことに伴うもう一つの問題点だそうです。日本ではコンクリート1m3当たりに含まれる塩化物イオンの量は、0.3kg以下と規程されているのに対して、広島、九州地区の山陽新幹線高架橋の調査によると、0.6kgを上回る塩分が含まれていることが分かったそうです(同書6ページ)。

早期劣化を引き起こした社会的背景

コンクリートが早期劣化を起こした場合には、一時的な対策として補強するか、作り直すしか対策がないため、早期劣化を起こさないような品質のコンクリートを作るようにする必要があるのは当然でしょう。ところが、現在でも「コンクリート工事が、仕様通りに行われたか否かのチェックはほとんど行われていない」そうです(同書150ページ)。また、強度が大幅に低下することが分かっていながら、生コンを流し込みやすくするために、工事現場で勝手に水を加えること(「不法加水」)も「ほぼ全国で日常茶飯事のごとく行われている」そうです。小林教授の試算によれば、10トン(5m2)の生コン車1台分の生コンに200リットルの水を加えると、強度は30%低下するそうです。「国の施設だから水を入れてはいけない」ときびしく言われてきた生コンの運転手が現場で、(それでも)生コンに水を入れ、生コンの出口(シュート)を洗う分だけ、タンクに水を残したところ、水を全部使うことを要求した現場の下請け業者から、「わしの言うことが聞けんのか」と、殴る蹴るの暴行を加えられ、全治1カ月の重傷を負うという事件が87年6月に大阪で発生したそうです(同書の134ペ ージ)。

さらに、生コンの強度検査は、「ごく特殊な場合を除き、(発注者の)ゼネコンが生コンの強度試験を、自分の手で行うことはなく、試験を行う技術者もいない。費用は相手負担で生コン会社に(検査を)代行させてきたのである。ただし、公共工事の場合には、強度試験のさいにゼネコンの技術者が立ち会うことが多い」そうです(同書150ページ)。これでは、まるで犯罪の容疑者に捜査をまかせるようなものでしょう。

さらに、あきれるのは、生コン会社がまじめに検査して、問題を発見しても、ゼネコンと発注官庁の出先機関は、それを握りつぶすこともあるようです。教授がある生コン会社の技術者から聞いた話では、「試験体の強度があまりにも低かったので、驚いてゼネコンの担当者に連絡したところ、ゼネコンのほうでもあわてて発注官庁の出先機関に報告した。技術者はとうぜん、構造物のチェックがおこなわれ、結果しだいでは相当なペナルティーが課されることを覚悟していたらしい。ところが、発注官庁の出先機関担当者からの指示は、データの書き換えであった」そうです(同書183―184ページ)。お役人が書き換えを命じたのは、自分にも責任が及ぶのを避けるためだったようです。最も慎重に工事が行われる官庁工事でさえこの程度ですから、それ以外の工事はもっといいかげんだと考えるのは当然でしょう。

マンションを買うのなら超高層が安心だそうです

この本の付録の、「分譲マンションへの対策」という章によると、高さ60m(20階)以上の超高層マンションは、設計について国の個別審査を受ける必要があるだけでなく、材料、施工にまで及ぶ(財)日本建築センターの厳しい評定に合格する必要があり、手抜き工事が行われる余地が極めて小さいため、耐震性、耐久性が優れているそうです。これから、マンションをお買いになる方には参考になる話ではないでしょうか。

先生も現在高層マンションにお住まいだそうです。先生が高層マンションに転居されたという通知を送られた知り合いの大手ゼネコンの役員は先生に、「こんど引っ越されたマンションはお買い得でしたね、・・・コンクリートの品質は100年経っても大丈夫・・・・・・新聞の折り込み広告で見かける今時の新築マンションは設備(引用者注:システムキッチン、オートロックシステム、自動給湯ユニットバスなど)で売り込んでいますが、問題は建物の質です。数年もしたらボロボロですよ」とささやいたそうです。(99年10月6日)。

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