- FSTAGE General :『かべすの幕間2』 366/366 PXF00472 手塚 優 R/蜷川『近松心中物語』(川口リリア) ( 3) 95/10/16 23:19 165へのコメント 本会議室でも『ハムレット』が話題の蜷川幸雄演出の、これは'79年初演の代表作の 新配役による再演です。今春の大阪公演の感想を #165 で秋鯖さんが書かれてます。 蜷川さんの故郷、埼玉・川口のリリア・メインホールでの今公演は10/13〜22まで。 来年の4,5月に東京・明治座での公演が予定されています。(10/14 1:00〜4:00 休20) チケット代高かった(S席10000円)し、舞台から遠い席しか残ってなかったのですが、 でも1階席にしといてよかった。蜷川らしい視覚的スペクタクルを堪能できました。 でかいホールですが、1階はほぼ満席。心中物で、主演が坂東八十助ですから、観客の 年齢層はずいぶんと高いです。八十助は樋口可南子と、美男美女の絵に描いたような 心中物を真摯に演じてました。けど、自分が最も心を捉えられたのは、もう一組の若い 勝村政信と寺島しのぶのカップルでした。特に勝村さんの与兵衛がすごくいい役です。 こちらが本筋では、と秋鯖さんも書かれてますが、同じようなことを扇田昭彦氏が、 初演評(『現代演劇の航海』リブロポート、蜷川幸雄『Note 1969〜1988』河出書房新社 にも収録)で書いてます。ちなみに初演は菅野忠彦(現・菜保之)で、お亀は市原悦子。 この二人が三枚目的に笑いをとりながら、とても活き活きと描かれている舞台でした。 寺島さんは一昨年のセゾン劇場の『血の婚礼』も悪くなかったですが、今回はとっても かわいらしい女性に思えました。 このお亀・与兵衛の心中場面が「この舞台でも一番すぐれた個所だ」と扇田氏の初演評 にはあります。たしかにここでの「現実」のかっこ悪さが、心中物の「作り事」めいて 感じられてしまう部分にリアリティを取り戻す効果が、自分にはあったかもしれない。 けど、自分が一番好きなのは、ここでは後追い心中する勇気のもてなかった与兵衛が、 最後、お亀の亡霊の前で、決心して首を吊るとこです。お亀にとっては、彼が一瞬でも 本気で自分のために死のうとしてくれた、そのことだけで十分だったのではないか、 与兵衛を生かしたのは彼女だったのでは、と思いました。 ラスト、斜めに射し込む夕方の陽光で、舞台上手の赤い花が一輪、浮かび上がるよう にみえて、なんだかとっても印象的でした。狙ってやってるとしたら、すごい。 ---------------------------------------------------------------------- - FSTAGE General :『かべすの幕間2』 396/396 PXF00472 手塚 優 R/蜷川『ハムレット』(銀座セゾン劇場) ( 3) 95/11/06 01:04 395へのコメント #354,356,357,359,362,389,395 に他の方々のRとコメントがアップされてます。 僕は11/4(土)に観ました。(18:30〜20:05,休15,20:20〜21:55) セゾンの優先でとれた 席は5列目。間近な舞台は芝居に入り込み易かった。チケットセゾン優待はパンフです。 自分は『ハムレット』は青い鳥(92.10)、シアターコクーン(93.4)と観て、今年は、 春の麻実れい(95.5)を観たから、たぶんまだ4回目です。で、最初と二回目のは、よく わかりませんでした。でも、春にサンシャイン劇場で観たジャイルス・ブロック演出の 麻実さんの"歌うハムレット"は、自分にはとても分かり易く思えました。 ハムレットと、それ以外の者の世界観の違いが生んだ悲劇みたいなのが、よく見えて、 母のガートルードや、叔父のクローディアスにも同情できる気がしました。 で、今回の蜷川演出では、自分はさらに周囲の人物に感情移入してしまって、なんだか とっても泣けてしまいました。特に、小田豊さんの父親ポローニアスと、生瀬勝久と 松たか子の兄レアティーズ・妹オフィーリアの「アットホーム」な家族はよかったな。 親馬鹿な小田さん、益々好きになってしまった。生瀬さんと松さんの兄妹も、兄が 旅立ちの前に妹のハムレットへの恋を諫める場面なんか、二人が、お互いの気持ちと、 そしてハムレット様への思いをよく理解しいて大事にしているのがよくわかって、 とても微笑ましく気持ちのよい場面でした。春の舞台の羽野晶紀のひょこひょこしてる オフィーリアもかわいかったですが、松さんが祈祷書を手にたたずみ、ハムレットを 待ち受ける場面では無垢な感じがよく出てました。この場面と、罪深いクローディアス (辻萬長)が、ハムレットの見てるとこで、跪き祈る場面が効果的に使われてます。 今回の真田のハムレットを蜷川さんは「高貴な人格者」としてるそうです。僕には、 鏡のような存在に思えました。人物の徳も罪もそのまま映し出してしまう容赦ない鏡 です。無垢なオフィーリアが、ハムレットに(壁掛けに隠れて盗み聞きしている)父親 の居場所を訊かれて、思わず家にいますと嘘をついてしまう。それを聞いたハムレット は、即座にその場を立ち去ろうとします。しかし、父殺しの犯罪を確信したばかりの 当のクローディアスが、無防備に祈りを捧げている場面では、復讐の機会をみすみす 逃してしまう。そして、最後には自らの謀に自らかかり、周りのもの全てが死んで しまうのです。フォーティンブラスの軍隊は運命の死神の軍隊みたいでした。 三田和代さんのガートルードもハムレットへの複雑な感情をよく感じさせてくれたし、 なにより魅力的な女性でした。墓堀の大門伍朗もコミック・リリーフ役が達者です。 生瀬さん以外に、ホレイショーに松重豊ときたら、昨年8月の『ローゼンクランツと ギルデスターン』が思い出されます。訳者も松岡和子さんだし、美術も同じ、中越 司さんです。今回のカーテンで三方を仕切ったセットは、93.10の宮本亜門演出 『滅びかけた人類、その愛の本質とは…』でのシャッターの装置なんかも思い出して、 なかなかよかったです。装置の三方からかかる月の背景が異世界感を覚えさせます。 笠松泰洋氏のオリジナル音楽のサウンドトラックCDが、劇場限定で販売されています。 インターネットのセゾン劇場のホームページで知りました。音も聞けます。悪いけど。 CDの自分の印象は、やはり「祈り」みたいなものを感じる気がしました。 笠松氏が音楽を作ってる劇団Fuラップ斜の公演も今度観てみようかな。