「歯周病が死を招く」米学会が警告
心臓病が3倍、早産は7倍に増加
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マイケル・G・ニューマン氏
カリフォルニア大ロサンゼルス校教授

72年UCLA菌学部卒業。ハーバード大で歯周病の細菌学を研究。米国歯周病専門医。元米国歯周病学会会長。現在は歯周病と遺伝子の関係を研究。歯周病になりやすい遺伝子を発見した。「この遺伝子を持つ人は、心筋梗塞も起こしやすいことがわかっている。家族や親戚に心筋梗塞が多い人は、特に注意して歯周病を防いでほしい」。
「そうはいっても、歯周病なんて歯茎から血が出るだけだろう」。もし、そう思っていたら大きな間違いだ。
 米国の歯周病学会はこのほど、「歯周病は、心筋梗塞などの死に直結する病気を導く」と報告した。元学会長で、米カリフォルニア大ロサンゼルス校のマイケル・ニューマン教授によると、歯周病の人は健康な歯茎の人に比べて、心筋梗塞を起こす確率が3倍近く高いという。
 妊娠した女性の場合、さらに問題が大きい。歯周病を抱えていると、早産になる確率が7倍以上も高まるというのだ。これは、アルコール中毒や高齢出産のケースより、はるかに高い危険度だ(左グラフ)。
「早産は、乳幼児死亡の最大の原因。歯周病を治療するだけで、早産を今より2割は減らせる。妊娠する可能性がある女性は、絶対に歯周病を治療しておくべきだ」(ニューマン教授)。また、肺炎や糖尿病などの病気も、歯周病が原因で発病、悪化することがわかってきた。
 こうしたデータを基に、米国では現在、同学会が中心になって「Floss or Die?(デンタルフロスを使った歯周病予防と、死のどちらを選ぶ?)」と銘打った歯周病ケアキャンペーンを展開している。
 なぜ歯周病が、これほど多彩で深刻な病気を引き起こすのか。ニューマン教授は「歯周病菌が体内に侵入して悪さをするためだ」と説明する。
「炎症した歯茎は組織がすかすかで、歯周病菌を簡単に通してしまう。体内に入った歯周病菌は血流に乗って全身に散らばり、血管の内側に張り付いて炎症を起こす。これが動脈硬化の引き金になる」。実際、心筋梗塞患者の血管を調べると、動脈硬化が進んだ場所から歯周病菌が見つかるという。
 さらに歯周病菌による炎症が強くなると、血液中で「プロスタグランジン」や「インターロイキン1」といった炎症物質が増える。これらの物質は動脈硬化をさらに悪化させるとともに、妊娠中の女性の子宮を異常収縮させ、早産を引き起こす。また、インスリンの効きを悪くする作用もあるので、糖尿病が進行する。歯周病菌がのどから肺に入って炎症を起こせば、肺炎だ。
 深刻な病気を引き起こすことがわかってきた歯周病だが、一つだけいいところがある。それは、比較的簡単な日常の心がけで予防できることだ。
 日本顎咬合学会事務局長である河津歯科医院の河津寛院長は、予防のポイントをこう説明する。「歯周病菌のすみかは歯と歯茎の隙間。ここをデンタルフロスで掃除する。一度掃除すると、歯周病菌が増えるまで48時間以上かかるので、2〜3日に1度のペースでいい」。そして半年に一度歯科医にかかって、歯石を取ってもらえば万全だ。
 なおニューマン博士は4月15日に来日し、歯周病をテーマにした講演を行う。場所は東京国際フォーラム。問/日本顎咬合学会TEL.03-3369-0804

(北村昌陽)




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