2.楽器を買うのだ!(2)
 2003年3月1日(土)、一ヶ月の逡巡の末、ついにヴァイオリンを買うことになった。いくら何でも、いきなり一人で楽器を買いに行くのはあまりに無謀なので、ヴァイオリン歴の長い友人MN君に付き添いを頼む(Thanks. > MN君)。あいにくの雨、湿度などコンディションが悪くなるんでない? と不安だったが、MN君は平気な顔。「僕も500万円の楽器を弾かせてもらいますよ」なんて言ってる。やだよ、そんな楽器。怖くてさわれないよ。

 お店は、新大久保にあるクロサワ楽器店の本店。店を選んだ基準は、単にMN君が知っている店だった、というだけ。ま、他にもお茶の水など何軒か支店を出している大きな楽器商だし、広告を見る限りではちゃんとした(手工製の)楽器を置いているようだし、大丈夫なんだろう。他の店に行こうと思っても、Webや雑誌の広告でどんな店だか調べるには限界があるし、一々電話して根掘り葉掘り訊いてみる時間も無いしね(そもそも何を訊くべきかも分からないし (^^; )。

 MN君が、店長さんに初心者向けの楽器を捜しているということを上手に伝えてくれて、話が進みやすくなる。で、最初は量産品を勧められそうになったのだが、「木工品を買うなら手工製が良い。多少高くなることも理解している」と言ったら、店長さん、ちょっと吻とした表情。冷やかしでなく真面目に買おうとしているのを分かってくれたらしい。

 最初に出てきたのがルーマニア製の楽器。MN君がちょっと試奏して、「いい音ですねぇ」と嘆息。この楽器、Webでも紹介されていて、僕も興味があったもの。

 次に出てきたのが中国製。店長さんが言うには、
「中国の職人は、イタリアの技術を学ぶ人が圧倒的に多い。だから、中国製のヴァイオリンはイタリア製の楽器に近い音を出します」ふむふむ。確かにとても明るい音色だ。

「ルーマニアは、ドイツ系ですね」ドイツというより、オーストリアなんだろうね。ハプスブルグ時代は領国だったんだし。中国製のと比べると音色が渋く落ち着いている、ような気がする。

 他にも、スロヴァキアやチェコなど、色々な国の楽器を、特徴を簡単に説明しながら並べてくれる。で、持ち方を教えてもらいながら自分でも鳴らしてみて、いちばん気に入ったのが、
ドイツ製というのは、やっぱり安定していますね。それに、この楽器はよく鳴りますよ」(店長さん)
Rudolf Doerner #312。
僕の楽器は、同じ工房のも
ので、これとよく似ている。
(出所:クロサワ楽器店)
「さっきの(ルーマニアの)も良かったけど、こっちのドイツの方が断然良いですね」(MN君)
という楽器。出してもらった中では音色は中庸で落ち着いていて、MN君が弾くとほんとに良く鳴るし音が伸びる
 野球場の外野席で観戦していると、ホームランというのはスッとバットから軽く放たれて、スピードを上げながらスタンドへ飛んでくるように見えるのだが、そんな感じの伸び方(解らない、よね。すみません)。

 よし、これに決めよう。“Rudolf Doerner”という、ドイツのMittenwaldにある工房で作られたヴァイオリン。#320という型番がついている。

 f孔から楽器の中を覗くと、ラヴェルが貼ってある(すべからく、そういうものなのだそうだ)。作られた工房の名前、制作年、場所。“Rudolf Doerner 2002 West Germany”…2002年の「西」ドイツ製? もしかしたら、世界で数台しかない楽器かもしれない(店長さんが言うには、指摘してはいるのだが一向に直る気配がない、のだそうだ。(笑))。

 次は弓。以前は、弓はヴァイオリンの付属品で楽器を買うとおまけとして(タダで)ついてくるもの、と思っていたのだが、大間違いだった。(恥) 

 ま、おまけ云々は冗談だとしても、予想よりずっと高価。想像していたのと半桁違う。でも、よく考えてみると、音程を決める動作を左手が担当して、音色を作る弓の操作を右手が担う、というのは、弓の重要性を物語るものではないだろうか。世の中には右利きの人の方が圧倒的に多いのだから、運指の方が重要で困難だというなら、ヴァイオリンは、右肩に載せて左腕の弓で弾く楽器として進化したはずである。…と素人なりに思った次第。

 そんなようなことを考えながら何本か比べると、弓も実に繊細な道具である。同じように力を込めても、たわみ方や手応えが一本々々違う。買いに行く前に色々調べた時に「むしろ、良い弓を買いましょう」という主旨の文章をどこかで読んだのだが、ほんの少し理解したような気がした。(アタマで、ね。「体得」するのは、もっとずっと先の話だろう。 (^^; )

 結局、さっきのヴァイオリンに一番よく合っていそうだ、ということで、一番弾力のありそうなものを選ぶ。色もヴァイオリンとよくマッチしていて、しなやかで綺麗な弓である。“HORST SCHICKER”製。材質などはよく判らないのだが、楽器のおまけでタダ、でなかったことは確かである。

 他、ケースを選び、肩当て、松脂、調絃用の笛(4絃それぞれと同じ高さの音がするもの)を入れてもらって、ほぼ予算ぴったり。いや、買った買った…。

 家に帰って、恐る恐るケースから取り出して、絃をはじいてみたら、まだ新しい表板に響いて、心地よい音色が広がっていった。この子の能力をどこまで引き出せるか判らないけれど、せっかく巡り会った楽器。大切にしながら頑張って弾いていこうと思う。
2003.3.1