20.大野和士/N響:「第九」演奏会
ベートーヴェン:交響曲第9番二短調,Op.125
2002年12月27日19:00〜 NHKホール
【指揮】大野和士
【管弦楽】NHK交響楽団
【合唱】国立音楽大学合唱団
【ソリスト】
タグマール・シュレンベルガー(ソプラノ)
ナターシャ・ペトリンスキー(メゾ・ソプラノ)
スチュアート・スケルトン(テノール)
アンジェイ・ドッバー(バリトン)
今年最後の演奏会は、年末といえば「第九」ということで、大野/N響のコンサートへ行く。やたらと風の冷たい寒い夜で、公園通りの坂を登るのが辛い。
席は3階センターの1列目で、舞台全体がよく見える。…オペラじゃないから、全部見えなくても良いのだけれども、全体を見渡せる位置だと音のバランスも良くなる気がして安心感がある。
高校の同級生が団員の中にいて、ある楽器のトップを演奏している。当時はバカばっかりやっていたが、立派になったものだ…。クラシック初心者だった私に、「展覧会の絵」「青少年のための管弦楽入門」「ラプソディー・イン・ブルー」などなど、テープを何本も作ってくれたこと、君は憶えているかしら? どうも有り難う、大事にしているよ。
今回は、どうも集中力を殺がれることが多くていけない。右後ろの方で、声を出して喋り続ける老夫妻。左後ろでは、メロディーを口ずさみ続ける初老の男性。あちこちで携帯も鳴る。気にしない方が良いのは分かっているけれど、こうも続くとさすがにメゲる。「第九」は、もう年末の風物詩だから、きっとコンサートに慣れない人も多く来ていることだろう。それにしてもなぁ…
演奏の方は、第三楽章が非常に美しい歌になっていた。第一、第二楽章では時々きこえたお喋りが、ここではすっかり途絶えて、会場全体に快い緊張感が走る。ギスギスした心を優しく撫でてくれる、冬の夜空のように澄んだ音楽。僕は「第九」ではこの楽章がいちばん好きなのだけれども、こういうふうに歌わせてくれるのなら、たとえ単なる年末のお祭りでも、ちゃんと来るぞ。
そうして第四楽章。二百人近い合唱の力はやはり大きい。多少の演奏のキズなどはどうでも良くて、その迫力を楽しめば良いのではないだろうか。
ただ。最高潮に盛り上がって、フィナーレにうつる直前の一瞬の静寂。そのタイミングを計ったように、隣の席で鳴る携帯。踏み潰したろか、それ。
O Freunde, nicht diese Toene !
sondern lasst uns angenehmere anstimmen, und freudenvollere.
(おお友よ、このような音ではない!
もっと楽しく悦びに満ちた歌をうたおう)
…まったくだよ。
総体的には、大野のアプローチはとてもオーソドックスで、目を剥くような箇所はあんまり無い代わりに、破綻もそれほど無い。ふだんクラシック音楽を聞きなれない人が安心して聴けるような演奏だったと思う。
個人的には、前夜の寝不足もたたって余り集中できず、あまり手応えを感じないまま終わってしまって残念だったけれど。
帰り道。前を歩く二人連れ、片方の初老の男性は経験が豊かなようで、もう一方の若い男性は、平生クラシックには縁が無いらしい。二人の会話が、聞くともなく聞こえてしまう。
「…どう? 面白かった?」
「凄い終わり方するんですね。心臓を鷲づかみにされたみたいだった。ドキドキしました」
この若い人、これを機に、クラシック聴いてみませんか?