第15話 光の国と闇の国(その2)
父親は気付いていた。
研究が進むに連れて、世界が変わって行くのを。
世界は、、、というよりも世界の闇の部分は結界を侵食してこちらの世界へ入って来ている。
そしてこちらの世界の光を遮ろうとしている。
光も闇も意志をもってそうあるのではない。
にも拘らず、闇は闇の本来のある場所よりも基軸を移し、光の有る場所へと侵食して行く。
だが、それは闇の意志ではない。闇はただ闇でしかない。
それはひとの違う部分がもたらしたもの。
父親はこれを変えようとした。
光のバランスを強くし、闇を排除する事で本来の光と闇のバランスに戻そうと考えた。
しかし、その方法は正しくなかった。
光と闇のバランスを崩すことは、それ以上でもそれ以下の事でもない。
バランスの変動は父親はもとよりその周りのものにも影響を及ぼした。
そして徐々に世界全体へと広がって行く、、、
世界といっても、
意識の外の世界ではなく。
意識の底に有る世界が。
(いったい父さんやえるや他のみんなはどうしているだろう)
みずきは文字を一生懸命追いながら、ぼんやりとそんな事も考えていた。
外から飛行機が飛んでいる音がした。とても近くを低い高度で飛んでいるかのようにみずきの背中はぶるぶるとその振動で揺れていた。振動が強くなるにつれ、音も比例して大きくなり、鼓膜が破けそうな程にまでなった。
しかし、まだテロップは流れている。
みずきはいいかげんに文字を目で追う事に疲れを感じており、押し入れを開けて外へ出たくなった。
(押し入れの外には、今どうなっているのだろう。 今までどのくらいここにいたのだろう)
みずきはテロップから目をそらし、押し入れの戸の隙間に目をやった。外からの光がこぼれ入って来る。
(外へ出よう)
みずきはそう決意し、体を起した。不思議な事に今まで流れていたテロップは消え、そこにはもとあったように押し入れの天井になっていた。
みずきは押し入れの戸を横に引いた。眩しい光が押し入れの中に一気に注がれ始めた。
みずきは眩しい光に目を細めながら押し入れから滑り降りた。あまりの光の眩しさにそこがどこなのか良く分からなかった。ただ降りた時の足の感触で、そこがみずきの実家の押し入れの有る部屋でない事はすぐに分った。
もともと自分の実家の中にいたみずきは靴を履いていない。その足には降りた時の感触は少々痛いものだった。足下はコンクリートのように固かった。
風が舞い、砂埃が舞い、みずきの頬や目や、口を襲撃した。
もともとみずきは本当に押し入れの中にいたのだろうか?
押し入れの中にいると勝手に勘違いをしていたのではないか?
「Welcome、ミズキさん。」
変な英語を話す外人がみずきの前に立ちはだかり、みずきの目に飛び込む光や埃を遮ってくれた。
ようやくみずきはゆっくりとあたりを確認する事が出来た。そこはみずきの実家とはかけ離れた所だった。そこはとても広大な場所だった。周囲には数キロ先まで広がる平地とその先にそびえる山々。そして目の前の真っ白で大きな建物。全く無駄なものが無い、殺風景なロケーション。人気はほとんどない。日本のどこかの場所とは思えなかった。例えて言うならば、、、アメリカの映画で時々見るような軍事基地のような場所だった。
「ようこそ、みずき。我々の研究所へ。」
外人はそう言った。医者が着ているような白衣を着けた身長の2メートルはあろうかという大きな男だった。大きな体の上の方ににこにこと愛想を振りまく小さな顔があった。その笑顔は少しぎこちない、無理をした笑顔のように感じられた。
しかし、みずきは頭の上を飛び交っている飛行物体が気になって仕方なかった。それは雑誌で良く見かけるUFOそっくりな物体だった。銀色に輝く円盤は不規則に飛び回り、遥か先の山の中に消えては、また現れ、みずきの上空でちかちかと動き回り、そしてぱっと手品のように消えたりした。
みずきはそれを呆然として見上げていた。
「どうぞ建物の中へ。」
外人はみずきの表情などにはお構いなく、建物の中へと案内をする。
みずきが腕を取られながら、建物の中に入って行くのに、それから数十秒を要した。
「あなたが知りたい事が色々と分かりますよ。」
外人をみずきの腕を引きながら、そう言い続けた。