第15話  光の国と闇の国(その1)

 みずきは押し入れの中で横たわっていた。身体の下には布団が置かれている。柔らかく、沈み込むような感触がみずきの身体を支えていた。

 みずきはじっと黙ったまま天井の方を向いていた。中は真っ暗でそこにあるはずの木目の天井を確認する事は出来なかった。それでもじっと目を凝らして見ていると、目の前から赤い模様がぐるぐると弧を描きながらみずきのほうへ接近して来た。炎のようにゆらゆらと揺れながらそれはみずきの鼻先まで近づき、それからそこでぴたりと止まったままぐるぐると回転していた。

(錯覚だろう)

 みずきはそう思った。すると赤い弧を描いていた模様は消えた。

 父は光の国へ

 母は闇の国へ

 目の前に文字が浮かんだ。

 いつの間にか天井と思われていた目の前には星がまたたく夜空に変わり、その夜空にニュースのテロップが流れるようにそういったコメントが流れて行った。

 当然これも錯覚だろうということでみずきは簡単に結論付けていたが、あのコメントはみずきがこの押し入れの中へ戻る前に何度か何者かによって囁かれていたものだった。そしてそのコメントはみずきの父親と母親の所在を意味するものである事は分っていた。父親も母親も今はこの世にいない。別の世界へいってしまった。しかしこの世界へ戻れるチャンスはある。父親と母親がこの世界へ戻れるカギは、父親の数年前の姿に有る。みずきは間違い無く5年前の父親の姿を先程の世界で見た。米国の研究所で働く父親の姿だった。今までの一連の出来事の発端はそこにあるような気がした。何の証拠も理由もとりたてて無いが、不思議と確信めいたものがみずきの中には存在していた。

 父親は米国で何をしていたのか?

 研究所で何をしていたのか?

 

 父親は米国で製薬関連の研究をしていた。

 父親は政府機関の指示の元に何かの研究をしていた。

 先程と同じように問いと答えのテロップが流れた。

(これは誰が流しているのだろう?)

(これは何のために流しているのだろう?)

 みずきはそういう事を考えながら、目でテロップを追っていた。

(これも僕の心の中のこと?、、、でも僕は父さんがアメリカで何をしていたのか良くは知らない。これは僕以外の誰かが僕に何かを知らせるために流しているんだと思う)

 父親は心の闇を無くすための研究をしていた。

 人の心の深層を排除する試みをしていた。

 そして父親の心から闇が消えて行った、、、

 それは重要な問題だった、、、

 みずきの家にテープを送ったのはみずきの父親である。

 みずきの部屋からテープを処分したのはみずきの父親である。

 ”世界は破滅へ向かっている”

 あのメッセージは父親からのものである。

 みずきは流れては消えて行く文字を一生懸命に目で追っていた。それくらい文字が流れるのは速かった。うっかりすれば読み落としてしまう程の速さだった。

 さらに文字は流れる。

 

つづく

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