20. 子供
男はある者が自分の部屋の洋服ダンスから飛び出てくるのを待っていた。 それは子供だった。 更に説明を加えると、その子供は小さい頃の男自身そのものだった。 30年前のある日の事。 8歳の子供だった男は、自分の服を取り出そうと、洋服ダンスを開いた。 しかし、そこはいつもの洋服ダンスの中ではなく、違った空間になっていた。 違った空間と言うのは、洋服ダンスの裏側が全て無くなり、洞くつの入り口の ようになっていたのだ。 男は好奇心からその洞くつのような洋服ダンスの中へ入ってみる事にした。 一瞬の暗闇を抜けると別の部屋があり、そこには中年の男が待ち受けていた。 中年の男はしばらく難しい顔をして考えていたが、やがて優しい顔になった。 そして、、、 中年の男は子供に対し「私は将来のお前である」と告げた。 そしてこの洋服ダンスがタイムマシンのようであることも。 そこからもう一度帰ると自動的に洋服ダンスになり、再びはここへ来れない事 を教えてくれた。 中年の男は子供を1時間程おいしいお菓子とお茶でもてなした後、洋服ダンス からもとの世界へ戻してくれた。 帰り際に今の日付と時間を教えてくれた。それは30年後に自分も同じ立場に なるのだと言う意味だと子供は理解した。 そして30年後の今、大人になった男は子供を待ち受けていた。 時間通りにきっちりと子供が洋服ダンスから出てきた。 一点だけ思っていた事とずれていたのは、客観的に見る子供の頃の自分は、と ても醜く、小汚い事だった。 社会的に成功をおさめていた男にとって、この醜い子供は小さい頃の自分であ ると知っていながら、何やら認めたくないものがあった。 (このまますぐに追い返してしまおうか) 一瞬、男はそう考えた。 しかし、すぐに自分が子供の頃に中年の男が親切にしてくれたことを思い浮か べた。 (このまま追い返したら、今の自分はどうなってしまうのだろう) 一瞬、男は難しい顔でその事について考えた。 やがて男は笑顔を浮かべ、子供を招き入れた。