18. 影 

2000.7.5

    その日はとても暑い日だった。
    その出来れば外を歩きたくない様な日の昼過ぎ
    (1日でもっとも暑い時。
     暑さだけで言えば最悪の時間帯)
    僕は仕事をする為にぎらぎらと太陽が照り付ける
    アスファルトの地面からゆらゆらと空気が揺れている
    とある通りを歩いていた。
    その通りには僕以外には誰も歩いていなかった。
    こんな日には誰も歩きたがらないだろう。
    空気は熱気を含みふわふわした透明な綿のように感じられた
    僕は透明で暑苦しい綿の海を
    だらだらと流れ出てくる額からの汗をハンカチで拭きながら
    その通りを進んでいた。

    暫くすると、通りの向こう側から
    真っ黒い姿をした男が歩いてきた。
    更に少し経って、その男が近くまで来ると
    それは男ではなく、誰かの影である事が分った。
    影はその影の主人に従われて地面を這っている訳ではなく
    単独で通りを歩いていた。
    それは普通に考えると、とても奇妙な光景だった。

    僕がその影を不思議な顔でじっと見ていると
    影も僕の事に気が付き、僕のところへ近寄ってきた。

   「ずっと私の事を見ていましたね」
    影は、僕にそう訊ねてきた。
   「ええ、あなたは影ですよね。ちょっと不思議に思ったので」
    僕がそう答えると、影は納得したようにうなずいた。
   「確かに私は影です。影だけが単独で歩いているなんておかしでしょう?」
   「そうですね、、、いったい、どうしたんです?」
   「もちろん私にも主人がいました。しかも先程まで。
    この暑さのせいでしょうか、突然と主人はいらいらし始めました。
    そして自分の人生が報われないのは誰々のせいだとか、この世界はおかしい
    とか文句を言い出しました。
    そしてついには、私を切り離して、どこかへ走り去ってしまったのです。
    そして私は主人を追いかけている所です。」
   「影を失った人間はどうなっちゃうんでしょうか?」
   「さあ、私にも分かりません。でもとんでもないことになる予感がします。」
    僕が分ったような分からないような気持ちだったが、とりあえず「はあ」と
    うなずいてみせた。
   「先を急ぐので」
    影はそう言うと、立ち去っていった。
    僕はしばらくそこに立ち止まって、影の行く姿を見つめていた。
    
    

      


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