つままれたような気分だろう。今では一緒に寝ようとブレイズに近寄っていくと、「こっちに来るな」と言わんばかりに怒られるか、さっさと寝場所を変えられてしまう。
当のホームズには避けられている理由が分かっていないだけに(本人も好きでカラーを付けているわけじゃないし)、見ていてなおさら気の毒になってしまう。
かくして約1ヶ月間に及ぶ骨折ライフはようやく終わりを告げ、『注意1秒 怪我1ヵ月』という苦い教訓とトラウマを飼い主に残し、ワトスンとブレイズの心中に幾ばくかのわだかまりを残し、しかし肝心のホームズの辞書には『以後気をつける』という金言をまったく残さなかったのである…。
ホームズは今日もイケイケだ。 (完)
ホールされるとか、カラーの先端で顔やら身体やらを思い切りつつかれるとか)に耐えかね、ついには完全にホームズを避けるようになってしまった。凶器のひとつであるギブスが取れたとはいえ、傷口に巻かれた包帯を食いちぎらないよう、もうひとつの凶器たるカラーは今もってバリバリの現役だし。
ブレイズの気持ちは良く分かる。1度ならずもそんな被害に遭い続けたら、いくら面倒見の良いブレイズだって嫌気がさして当然だろう。
だがホームズの切ない気持ちも良く分かる。いつも仲良く寄り添って寝てくれていた相手が、突如として手のひらを返したような態度になってしまったのだ。まるでキツネに
った当のホームズはますますパワーアップしていく。
ところがそんな元気一杯のホームズも、実はちょっとした悩みを抱えていた。それは近頃なぜかブレイズが一緒に寝てくれなくなってしまったことだ。
ホームズがようやく長期出張から帰宅し、最初は再会の喜びにギブスもカラーも我慢して添い寝をしていたブレイズだったが、たび重なるギブス&カラー攻撃(寝ているところをギブスで
なった。
傷口を保護固定しているものが重装備を解かれてくるのは、快方に向かっている何よりの証拠なのだが、いまだ骨折時のトラウマに悩まされている身としては、少々心細さを感じる。
重たいギブスがはずれたことで脱臼など二次災害の心配は消えたものの、手術痕も生々しい細く頼りなげな脚は、再び折れてしまうのではないかという恐怖を喚起する。骨折箇所にはしっかりとプレートが当てられているし、骨だってちゃんとついてきていると理屈では分かっているのだが、記憶の中ではいまだに骨が真っ二つになったままなのだ。
だがそんな飼い主の過剰なまでの気苦労もどこ吹く風、身軽にな
ら24時間とたたないうちに2度までも食いちぎられることになる(青筋ピクピク)。
1度目は不自由そうにしているホームズに同情し、カラーを外してやったのが原因だった。
カラーはギブスを悪戯しないようにと付けてあったのだが、カバーでギブスを完全に覆ってしまったので齧られる心配あるまいと油断し、一緒にいる時くらいはこの邪魔なものを外してやろうと浅はかな情けをかけたのが運のツキ。まぁ確かにギブスは齧られていなかったけどね。
カラーを付けねばギブスの端を齧っていたものが、ギブスにカバーを履かせたからといって止める道理がない。今度はカバーを齧るに決まっているではないか。相変わらずヨミもツメも甘い飼い主であった。というより、ヨミとかツメ以前の問題のような気も…。
しかもいくら傍についていたからといって、こちらも背中にまで目がついているわけではない。いやに静かにしていると思いつつふと背後を振り返ると、そこには一心不乱に毛糸をむしっているホームズの姿があった。本当に情けをアダで返す奴だ。それ以後、下手な情けを起こさなくなったのは言うまでもない。
だが2度目は不可抗力だった。カラーをちゃんと付けていたにもかかわらず、脚が長いために爪先付近ともなると口が届いてしまうことが発覚。そして大穴をあけられた。
この出来事が、数日後に私を震撼させた事件の序章だったのかどうかは定かではないが。
その日、母が2階で犬たちの面倒をみてくれている隙にと、1階で色々な用を済ませていた。やがて母が出かける時間となり、1階におりてきた。「ホームズどうしてる?」と訊くと、「大人しく脚を舐めてるよ」との返事。大人しくしているなら安心と、すぐには様子を見に行かず、用事を片づけてしまってから2階へあがっていくと…
「ぎゃ〜〜〜っ、ホームズの前脚が3本になってる〜〜!!」とはさすがに今回は絶叫しなかったものの、事態を把握するまでにたっぷり1分はかかっただろう。
実は母の言っていた脚というのは、骨折した前脚のことだったのだ。ギブスはカバーともどもすっぽり抜けて、幼稚園バッグ状態で肩からぶら下がっていた。母にしてみればギブスは当然ついているものとの先入観があるので、前脚の傷口を舐めている現場を目撃していながら何の違和感も感じなかったらしい。
幸いなことに今回は病院の診察時間内だった。慌てて財布とホームズを引っ掴んで病院へ駆け込んだのは言うまでもない。
《嫌われる理由》
重たいギブスのはまった前脚でホームズがワトスンを3度か4度張り倒した頃(本人は遊びに誘っているつもりだろうが、殴られたほうは挑戦状を叩きつけられたと思ったことだろう)、レトリバーサイズの太さだったギブスは柴犬サイズになり、やがてはテーピングと包帯だけに
寸法を測ってパターンを作るなどという高等技ができない行き当たりバッタリの人間には、まさにうってつけの手法と言えよう。
加えて毛糸でギブスカバーを作るのには、他にも利点がある。毛糸は材質が柔らかく伸縮性に富むので、肩から吊っても動きの不自由さをあまり感じずに済むだろうということ(布でも上手な人が作れば不自由はないだろうが)。
超なで肩である犬は、左右から2本の吊り紐を渡しただけではすぐにずり落ちてしまう。そこでギブスをはめていない右脚側には手前の1本の他に、前脚を挟むようにしてもう1本紐を渡し、背中のあたりで合流させて編んである。そうして最終的には左右1本ずつになった吊り紐を留めるボタンをつけて完成。途中、試行錯誤もあったりして時間もかかったが、私的にはけっこうカワイクできたと思う。
しかし夜なべまでして完成させたギブスカバーは、それか
《ホラー再び》
靴下に肩吊りのリボンを縫い付けたギブスカバーは1日で破壊されてしまった。おかげで残り毛糸で作ったギブスカバーを完成させるのに、夜なべするハメになった。
毛糸でギブスカバーを編むといっても、別に編物が得意なわけではない。ただ布は一度裁断してしまうとやり直しがきかないが、編物はほどけば途中修正が可能なので便利なのだ。最初に