今回は先に階段をおりていたワトスンに、勢い余ったホームズが接触、転倒。
最後の4、5段をホームズは背中でスライドしながら落ちていった。まるでスキーヤーの斜滑降のように鮮やかに。
さすが吉本系を目指しているだけあり、いわゆる“オイシイ”落ち方。
でもその瞬間、こちらの心臓がキュ〜ッとなって寿命が縮んだのは言うまでもない。
そして相変わらずヤツは懲りていない。
臆病者のホームズは大型犬はもとより、シーズーやヨーキーなどの小型犬に対してもイマイチ踏み込めないでいる。したがってホームズには友達がいない。
ブレイズにだって、あの気難し屋のワトスンにさえ、ボーイフレンドがいるというのに。
親心としては、まったくもって寂しい話だ。
そんなホームズが手放しで好意を示すのが、一緒に育った兄妹たち。
わけても同胎のサナちゃんは大、大、大好きで、姿を見たらもうじっとしていられない。
そんなサナちゃんの家へ遊びに伺うことになり、サナっちさんが車で迎えにきてくださった。
仲良し姉妹は車の中からもう大変な騒ぎ。サナちゃんは助手席、ホームズは後部座席からお互いを呼び合い、遊びたくて遊びたくてうずうずしている。サナちゃんは何度もサナっちさんに注意され、ホームズは私が必死で抱きかかえている始末だ。
気持ちは分かる。我々とて前日から姉妹の再会をとても楽しみにしていたのだから。
サナちゃんにはゴールデンとアイリッシュセッターのお姉ちゃんがいる。2頭とも大人しくてとてもおりこうさんな子たちのだが、サナっちさんが腰抜けホームズに配慮してくださり、お姉ちゃんたちは別室で待機するハメに。
リビングはホームズとサナちゃんのおチビ軍団の独壇場になった。
我が家は狭い上にごちゃごちゃと物が置かれていてアスレチック場状態だが、サナ家のリビングは2頭のおチビが存分に走り回れるほど広々としている。
ホームズもサナちゃんも、ここかと思えばもうあちらと縦横無尽、すごく楽しそうだ。見ているこちらまで楽しい気分にしてくれる。
これまで全戦全敗だったホームズ、いうなればここはサナちゃんの縄張りなのに、今回はなぜか優勢気味。サナちゃんが我が家に遊びにきてくれた時には、俄然サナちゃんが優勢だったことを考慮すると、そこに何らかの不文律でも存在するのだろうか。なかなかオモロイ展開だ。
それにしてもおチビたちのスタミナには驚いた。2時間は走り回っていたと思う。
やがてサナちゃんのつぶらなお目々がトローンとなってきた。さすがに遊び疲れたようだ。
サナちゃんが眠そうな顔になると、その横でホームズも同じ顔になっていた。う〜ん、さすが仲良し姉妹。そして2頭は椅子の上で寄り添いながらのお昼ねタイム。
おチビたちが目を覚ましたのは、そろそろ帰る時間となった頃だった。
最後に大きいお姉ちゃんたちも交えてもうひと遊び。しかしホームズは途端に腰抜けになり、それを見たサナちゃんが大ハッスルで反撃に出る。
ホームズが腰を抜かしているのを尻目に、飼い主のほうはお姉ちゃんたちにモテモテでひとり悦に浸っていた。リバーちゃんはヌイグルミを口一杯にくわえて見せてくれるし、ビーノちゃんは「こっちも、こっちも〜」とばかりに私の肩を叩いてアピールする。ああシアワセ♪
家に着くと置いてきぼりにされたブレイズがスネまくっていた。珍しく妹にべったりで、これ見よがしに私を無視している。そんなブレイズもけっこうカワイイ。
言葉を介さない犬の行動は時として謎に満ちている。が、人間の行動もまた然り。
脱衣場にある洗濯機を見て「またか…」と溜息が出た。給水口のすぐ横の壁に『井戸』と油性マジックで書かれている。壁は漆喰だっつーのに。
風呂場に入ると、浴槽にお湯を張る給水口の取っ手にも『井戸』『水道』と書かれていた。
顔を洗おうと洗面所を見ると、やはり蛇口の取っ手にそれぞれ『井戸』『水道』と。
犯人は父だった。我が家には井戸と水道の両方が引かれている。だから意図は分からないでもない。しかし家族ならば誰でも、どちらが井戸でどちらが水道かはとっくに知っている。
さらに電気のスイッチに『洗面』だの『トイレ』だの『玄関』だのと書いてある箇所もある。しかもこちらは赤マジック。
一見、親切ともいえる父の行動に何の意味があるのか。いや、何の意味もない。
最近、ホームズは散歩の途中でリードを軸にしてよく後足立ちをする。
まるでミーアキャットみたいだ。何か遠くのものを眺めようとして、おチビのホームズなりにあみ出した技なのだろう。
ホームズの、このちょっとした特技(?)を伸ばしてみたいと考えている。だからホームズが後足立ちした時には、立ち止まってホームズの気の済むまで待っている。
だんだん滞空時間が長くなっているので、いつの日にか2本足で歩けるようになるだろうか?
実はワトスンがこの技を持っている。最近は高齢化に配慮してあまりやらせていないが、最盛期には5〜6メートルは二本足で歩けた。
ワトスンの場合には遠くを眺めるためではなく、お散歩デビュー当時にハッスルのあまり4本足で歩くのが間に合わなかったのだ。そしていつしか2本足で散歩する犬として通行人の笑いを誘っていた。そう、ワトスンこそが我が家の元祖お笑い犬だったりする。
2頭の気が合っていれば、大道芸犬としてデビューできたかも…。
ホームズの顔が腫れた。しかも半分だけ。
ジンマシンはブレイズで1度経験しているので、それほど慌てはしなかった。
ブレイズの時には鼻の上が数箇所腫れ、耳の内側が毒キノコの水玉模様みたいになった。
短毛のイタグレは、腫れる場所によっては毛穴のブツブツまでしっかり見えてしまい、ちょっとグロテスクだ。
ホームズの場合は顔の左半面、頬の付近に大きいのが1箇所、小さいのが1箇所、そして目蓋がモノモライみたいになった。
ブレイズの時には慌ててYOKOさんに電話したものだが、さすがに今回は2度目の経験だということもあり、かなり冷静だった。
だがそうやって余裕をかましていられたのも最初のうちだけ。頬の腫れはともかく、目周辺の腫れが次第に拡大していく。殴られたボクサー状態にまで腫れるに至って、目への影響が心配になってきた。そして今回もまた、ついに受話器に手を伸ばす。
YOKOさんから目に影響が及ぶことはないと教えていただき、ようやく安心。腫れもブレイズの時と同様に数時間で引いた。
だが問題はジンマシンを起こした原因。変わったものを食べさせた記憶はない。では、どこからきているのか?
ホームズのジンマシンは3日連続で起きた。初日のようなひどい腫れではないが、顔のどこかしらが1箇所ないし2箇所プックリとする。しかも腫れるのは決まって夜。
ちなみに2度目の時はニャロメの口みたいになってしまった。。。
アレルギーの原因としてまず考えたのはトイレの砂。ブレイズ&ホームズ用のトイレにはペットシーツを敷いてあるのだが、ワトスン専用のトイレにだけはネコ砂が敷いてある。
ワトスンは家で用を足す時にトイレの底を引っ掻くので、下がペットシーツだとシーツがよれて足に触れる。すると神経質なワトスンはそれが気になって、もうオシッコをする気をなくしてしまう。ネコ砂でないと用が足せないのだ。
しかし問題がひとつあった。ブレ&ホーコンビが衣装ボックスにネコ砂を敷き詰めたワトスントイレに侵入し、中の砂を食べてしまうのだ。別に美味しくもなんともないと思うのだが…。
対策としてトイレの周辺をダンボールなどで囲い、最初はそれなりに効果があった。
しかし成長とともにホームズがパワーアップし、つられておっとり屋のブレイズまでがパワーアップし、遮蔽物もなんのそのと、2頭はワトスントイレに突撃を繰り返す。
ネコ砂はもちろん食品ではない。だから食べて身体に良いわけはない。
そんな悩みを解消してくれたのが、現在使用している“オカラ”を原料としたトイレ砂。人間も食用とするオカラなら、吸収剤を使用しているトイレ砂よりはまだ許容範囲ではないか。
もしもそのオカラ成分がホームズのジンマシンの原因なら、速やかに他の製品と変えなければならない。
しかしながらネコ砂を原因と考えるにも疑問はあった。ワトスントイレを荒らした時間から、ジンマシンが出るまでの時間が均一でないこと。その時間差にはかなりバラツキがある。
さらに3日間のうち2日はトイレ荒らしをされたが、残りの1日はネコ砂を口に入れていないにも関わらずジンマシンが出たこと。
そしてついにジンマシンが朝も出た。ホームズを抱えて病院へ。
行ったからとて原因になる物質が不明のままでは、ドクターとて対処のしようがないのは分かっていたが、とにかく藁にでもすがる思い。さすがにこう連続してアレルギーを出されては、大袈裟人間がクヨクヨしないわけがない。
病院はけっこう混んでいた。そして順番をまっている間に腫れが引いてしまった。。。
後日、ようやく原因が分かる(たぶん)。それは石油ストーブだった(たぶんね…)。
単にストーブを焚いている部屋にいるだけならば問題はないのだが、温風の吹き出し口の近くで寝ているとジンマシンが出てくるのだ。この場合、ジンマシンという言葉が正しいかどうかはわからないが。
ストーブが原因ならば辻褄が合う。オカラトイレ砂を使用し始めて数ヶ月もたってなぜ今頃かということも、夜にばかり出ていたことも。昼間は私屋でストーブを点けることがないからだ。
思い起こせばホームズを病院に連れていった日にも、直前にブレイズともどもストーブのまん前を占領していたっけ。
早速YOKOさんにも報告。それは原因として有り得るとのお答えもいただいた。
やれやれ一件落着。晴れてお気に入り(?)のオカラ砂を買いに行ったのだった。
朝、布団をめくるとホームズが顔を腫らしていた。さらに両耳の内側が毒キノコ状態。
思わずギョッとしたのは言うまでもないが、ここで根本的な問題が発生した。
前回ジンマシンの原因はストーブの熱風ということで落着したが、今回ホームズは布団の中で寝ていたわけで、ストーブにはチラともあたっていない。
では原因は何か。それを特定するのはかなり難しいらしい。92項目からなるアレルゲン検査というものがあるのだが、高額なうえに(92項目もあれば当然だが)原因が分かったからといって避けられない場合もある。たとえば人上皮、犬毛、化繊などなど。
幸いにもホームズの場合、ひどくても顔が数箇所腫れるだけで、他の部位には出ない。しかも本人に痒みなどの自覚症状はない。
そこで92項目の有難い検査は最終手段に取っておき、とりあえず自力で原因を探ることにした。ただ、喉に腫れが出ると呼吸困難を起こすこともあるというので、いざと言う時のために抗アレルギー剤を処方していただいた。
だがホームズのジンマシンは断続的に2、3回続くと、その後はぱったりと出なくなる。
そしてほとぼりもさめた頃、思い出したようにまた顔が腫れる。
いくら首をひねってもそこに法則性というものは見出せず、何が引き金となっているのか謎は深まるばかりだ。
しかし「咽もと過ぎれば…」という諺がある。
とりあえず現在は咽もとを過ぎてしまった状態なので、日増しに危機感は薄れつつある。
近所のショッピングセンターで、会員になると犬の風船がもらえるキャンペーンをやっていた。風船といっても丸いゴムのやつではなく、アルミ箔のような材質で犬の形をしていて、色もちゃんと塗り分けてある。
下部には紙でできたジャバラ状の足が4本ついており、紐を引くとビョンビョンと飛び跳ねる仕組み。その名も『お散歩パピー』。小さい子供が喜びそうな品だが、無性にそれが欲しくなった。やんちゃ坊主のホームズが喜ぶと思ったからだ。
そしてその場で入会して会員になった。景品はティッシュ5箱か、お散歩パピーのどちらか。迷わずお散歩パピーを指差す。私が既婚者ならば子供のおみやげだと思ってくれるだろうが、用紙の配偶者欄には『無し』にしっかり丸がしてある。普通はティッシュを選ぶところだろうから少し恥かしかったが、これもホームズのため。
ところが、ここで誤算が生じた。平たく言えばツメが甘かった。ヘリウムを注入してあるその風船は、完成品のまま持ち帰らなければならなかったのだ。それなのに買い物前に会員手続きをしてしまった。。。
太った柴犬ほどの大きさはある『お散歩パピー』を抱えながらの買い物は、なかなか人目を引いていた。すれ違う人々の視線に気づかないフリをしながら急いで買い物を済ませ、北風吹きすさぶ中を、飛ばされそうになるパピーをしっかりと抱え足早に帰路へ。ホームズたちの喜ぶ姿を頭に描きつつ。
だがパピーを見た瞬間、我が家の犬たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。全ての苦労は水泡と帰したのだ。
ヨーゼフ(セントバーナードを模しているから。説明を読むまではキャバリアだと思っていたが)と無意味に名付けられたその風船は、今日も暇そうに椅子の上でユラユラしている。
物干しからゴリゴリと妙な音が聞こえてきた。
見ると、物干しに置いてあるコンクリートブロックをブレイズとホームズが齧っていた。
大いなる謎。。。