お散歩タイムに置いてきぼりにされることについて、ホームズなりに悟りを開いたようだった。以前のようにギャーギャー騒がなくなったし、朝などは我が家で一番起床の遅い妹の部屋に自主的に出向いて行って寝ている。
そんな折も折、それは(ホームズにとっては)突然やってきた。
とある日曜の夕方、いつものようにお留守番かと思いきや、いきなりリードを付けられてワト&ブレコンビと共に外へ。我が家に来て以来、ホームズにとって実に2度目の体験だった。
歩道に降ろされたホームズの後ろ足は大いに笑っていた。前には進まず、どんどんバックしていく。「いやーん、帰るぅ〜」モード全開。だがこんなことは予想のうちで、すでに手は打ってある。妹を補助要員として駆り出しておいたのだ。
まず妹にワトスンを引かせ、私がブレイズとホームズの2本のリードを持った。しかしどうにも収拾がつかない。そこで今度は私がワトスンとブレイズを引き、妹がホームズを担当するという方法に変えてみた。
恐がるホームズを抱っこしつつ、散歩コースを進んでいく。途中、様子を見ながら何度か道に降ろしてみるも、まだ足が笑っている。

初日はまぁこんなものだろうと、小さな雑木林のある地点で少し遊ばせたのち、先にホームズだけ妹に連れて帰ってもらうことにした。そのあとはワトスンとブレイズを連れて遠回りコースを行こう。
そう考えていた矢先、ホームズが雑木林に沿って続く道をトコトコと歩き出した。しかもその足取りは次第に軽快になっていく。さらには寄り道をしているワト&ブレコンビを追い越し、先陣を切って歩く場面すらあった。

ひょっとして、将来有望??


当初、ホームズが外に出られるようになったら、ワトスンとイタグレチームの2班に分けて散歩をしようと考えていた。
そこでこの日の朝は、まずイタグレチーム、続いてワトスンという順序で外に連れ出した。我が家での地位からいえば一番古株のワトスンが先というのが順当だが、これからどんどん日も短くなっていくし、暗いのを好まないブレイズよりも暗かろうが平気で散歩するワトスンを2番手にしたほうが良いとの考えからだった。

前日、ワトスンはふてくされていた。玄関にホームズを降ろすと「なんでこいつも連れていくのよ!」とばかりにホームズにガウガウいっていたし、道中もお荷物が増えて不満げだった。でも今日からはひとりでのんびりお散歩させてあげられるよ〜、のつもりだったのだが…。
朝のお散歩タイムには母が家にいて、後回しにされたワトスンの気を逸らせてくれていた。
しかし夕方のお散歩タイムには、我が家の人間たちはすっかり出払ってしまい、家は無人くんと化してしまった。
こちらの意図を理解さえすれば、ワトスンとて大人しく留守番してもくれるだろう。しかし言って聞かせられないとすれば、それを習慣で覚えてもらうしかない。なのに早々になだめ役が誰も居ないとは。。。

すでに行く気満々のワトスンを無人の家に置いていくのは忍びない。誰かが居ればまだしも、この状況で置いてきぼりにされたらきっと傷つくだろう。見た目とは裏腹に、ワトスンはイタグレよりもはるかにナイーブな神経の持ち主なのだ。
しかるにこの計画は初日早々から挫折した。ようやく2頭引きに慣れたというのに、いきなりの三頭引き。しかもそのうちの1頭はホームズであり、超お散歩ビギナー。
どうなることやらと心配しつつ外に出てみたのだが、これがまた意外な展開になった。2日目にしてホームズは、車道を走る車やバイクの音にも臆さずに、スタスタと真っすぐに歩いてくれるではないか。しかも道草食いのワト&ブレコンビよりも、よほど素直に歩いている。
度胸の良い子だとは感じていたが、まさかこれほどとは。ブレイズなどはいまだに立て看板や停車中の車に驚いている時があるというのに。

ホームズ、キミはエライ!


前日、前々日とすっかり気を良くしていたが、やはり世の中はそんなに甘くなかった。
3日目にしてすでに余裕の出てきたホームズは、道端に落ちているものが気になりだした。
通り過ぎざまにささっと口にくわえては持ち運ぼうとする。お気に入りはマツボックリと蝉。
大きさが手ごろらしい。マツボックリをくわえて歩く姿はかわいいが、蝉の死骸はちょっと御免こうむりたい。
しかも1度など、蝉ではない昆虫の残骸までもくわえようとした。あの茶色の形状…。干からびてほとんどバラバラになっているものの、どう見ても大嫌いなゴキブリだった(滝汗)


しばらく前からホームズに階段をおりる練習をさせている。
最初は4段目から。クリアできたら5段目、6段目と次第に段を高くしている。

同時にあがるほうも見届けておきたいのだが、なぜか3段目より上には行こうとしない。
それならそれで危なくないからいいや、などとたかをくくっていると、いつの間にか2階にあがっていたりする。相変わらず意表をつくヤツだ。
しかも1度クリアしてしまうと、今度は悪さをして怒られるたびに2階に逃げていくようになってしまった。ひとりで階段をあがれるようになり、内心かなり得意になっている模様。


車の免許を持っていないので、犬たちと遠出する機会はあまり多くない。
本当は犬たちと色々な所へ出掛けてみたいのだが、今さら免許を取る勇気もない。何を隠そう恐ろしいほど鈍い反射神経の持ち主だったりするので。私を良く知る者の証言では、路上教習まですらたどり着けないのではないかと…。

今回はYOKOさんに声をかけていただき“ボルボっち”に便乗、川遊びの集りのお仲間に加えていただくことができた。
AM7:00、集合場所のサービスエリアに到着すると、そこにはすでにたくさんの犬たちが飼い主さんとともに集っていた。イタグレとウィペットが多勢を占め、他にサルーキが2頭、ゴールデンとプードルがそれぞれ1頭ずつ。ふだん街中で見かける光景とはまるで逆の構成。
我が家からはホームズ、YOKOさんはボウイくんと、こちらはキッズコンビでの参加。
他が皆成犬ばかりだったこともあり、けっこう皆さんから声をかけていただき、ちょっとしたアイドル気分を味わう。

本来ならば会うことすら無いかたたちと、こうして話ができるのは非常に嬉しくもあり、楽しいことだ。人間だけの集りだと会話の糸口を探さねばならないが、犬を通じてだと不思議なくらい自然に、和やかに話が始まる。
さて飼い主どうしは和んでいるが、キッズコンビはというと…。ホームズもボウイくんも場の雰囲気に飲まれ、ややビビリモード。同種のイタグレならまだしも、小さいホームズにとってウィペットたちの大きさは脅威らしい。私ですらイタグレを見慣れてしまっているために「大きいなぁ〜」と感じたのだから、無理からぬことなのだが。みんな友好的でいい子ばかりだったんだけどね。
AM7:30、サービスエリアからいよいよ現地へ出発。
路肩の景色がだんだんと街並みから、田園地帯へ変化していく。そして身の丈ほどもある草の生い茂った細いでこぼこ道を抜けると、そこが目的の場所だった。

正直、最初はちょっと戸惑った。想像していた風景とは違っていたからだ。川原といっても、周囲にはなお身の丈ほどの草が群生し、人間が立ち入れる空間はごく限られている。
アウトドアに縁のない身としては、川原というとテレビなどで見かける広々とした空間を思い描いていたのだが。。。
しかし、実はこれがミソだったのだ。おかげで他のレジャー客はおらず、この地点に限ってはほぼ貸し切り状態。誰に気兼ねすることもなく犬を遊ばせることができる。そう、ここは穴場中の穴場。

当日の予定をYOKOさんも私も詳しく知らなかった。そんな我々を尻目に、現場に着くや否や何人かのかたがたが、着々とバーベキューのセッティングを開始された。そして焼き鳥や骨付き肉がジュージューと焼かれ…。
我々ふたりは昼食用としてコンビニでおにぎりを買っていた。そんな手抜きメニューからも分かるように、持ち寄りの品など何も持参していない。にもかかわらず、アツアツ焼きたてのお肉が集った全員に配られた。主催されたかたがたは、ちゃんと他の人の分まで用意してくださっていたのだ。なんというお心遣い!本当にご馳走さまでした!!
お腹もふくらみ、一休みもすると、いよいよ川遊びが始まった。
野営地(?)から丈高い草の壁に囲まれた小道を少し行くと、すぐに流れの緩やかな川に行き着く。対岸はうっそうとした原生林で、その緑が水面に映りこみ、水面を深い緑色に染めている。さらに上空より差し込む太陽の光が、キラキラとアクセントを加えていた。実に絵になる景色。これかぁ〜。思わず見惚れてしまう。この場所が選ばれたわけが、ようやく分かった。

水遊びをする犬たちの写真を撮影するということで、先陣を切ってウィペットチームが挑戦。実際に入ったわけではないが、水深は奥のほうでも大人の腰より少し上くらいだったと思う。まず1頭が抱きかかえられて川の中ほどへ。いきなりの展開にその心の声を代弁するなら、「ぎょえ〜、何すんねん!」だったろう。水面に足が触れると「いや〜ん」とばかりに慌てて引っ込めてしまう。しかしそんな心の声も空しく、無情にも事態は進行していった。
ウィペットは抱えられている手を離したとたん、バシャバシャと水を蹴散らして岸へとまっしぐら。続いて2頭め3頭めと順番が回ってくる。皆、必死に岸をめざす。そのまま勢い余って逃亡してしまった(ほどなくして折り返してきたが)子もいた。
好むと好まざるとにかかわらず川に入れられたウィペットたちには気の毒だったが、ギャラリーサイドとしてはその美しい走りっぷりに、ただ目を見張るばかりだった。サイトハウンドの魅力のひとつは、全身をバネにしてしなやかに走る姿の優美さだ。

そんな姿を横目に、水の得意なレトリバーだけは余裕綽々と水面を泳ぎ、投げられたボールをせっせとレトリーブして遊んでいたりして。
最初はおっかなびっくりだったウィペットチームだが、幾度か川に入るうちに、次第に勢いがついてきていた。2頭でじゃれ合いながら自主的にザブザブと川へ入っていったりする子たちも現れる。
しかし対するイタグレチームは、どうにもぎこちない。身体が小さいぶん水への恐怖心が強いのか、情けないへっぴり腰でペシャペシャと川を渡って岸へと逃げあがり、終始テンションが低い。ホームズも浅瀬に入れてみたが、すぐに岸へと逃げだした。しかも名前を呼んでいる飼い主とはまったく違う方向へと。ここで我々の信頼関係がいまひとつ薄弱なのが発覚。
この日、折からの台風情報で、前日までの予報はあまり芳しいものではなかった。にもかかわらず、ギンギンの日差しのもと、川原はうだるような暑さとなった。買った時には“ICE”だった飲み物が、あっという間に“HOT”と化すほど。
さんざん遊んだあと、YOKOさんの「日焼けしてる〜」で初めて気づいたのだが、ホームズの鼻筋や耳など、毛の薄い部分の皮膚がほんのり赤らんでいる。まるでほろ酔い加減みたい。犬も日焼けするという事実に、初めて気がついた。

川原で楽しい時間を過ごし、家に帰り着いたのは夕方の5時頃だった。
玄関をあがるのも待ちきれず、ブレイズがホームズに突進する。そして夢中で身体を舐めまくっていた。母によると朝から元気がなかったそうだ。
が、当のホームズには、それ以上に気にかかっていることがあった。そそくさとお風呂場に駆け込むと、バスマットの上にショーショーとオシッコ。1階にもホームズ用にトイレを置いてあるのだが、なぜかバスマットがお気に入り。
汚れたバスマットを片付けている隙に、今度はお勝手の床にウンチ攻撃。発見時には、すでに4本目を出し終えるところだった。いつもは1回に1本とちょっとしかしないので、これは大量。川原で1度だけオシッコは出たものの、それ以外はずっと我慢していたらしい。トイレではないところにソソウをされてしまったわけだが、4本目を出し終え、ハッとした顔でこちらを振り向いたホームズがちょっといじらしかった。

出すものを出してスッキリすると、あとは爆睡あるのみ。初めての遠出でかなり疲れた模様。当然、散歩になど行く気力は残っていないものと思っていたのだが。
お散歩タイムになるとパッと寝床から飛び出してきたホームズ、「お散歩、お散歩〜」と張り切りっている。どうしようかと一瞬迷ったものの、あまりの張り切りように結局は一緒に散歩に連れ出した。
ホームズ、なんてタフな奴。。。


前日の川遊びで汚れたホームズを洗うことにした。すでに丸1日たっているので、今さらという気がしないでもないが。
お風呂嫌いの我が家の犬たち。ワトスンは狭い風呂場をひたすら逃げ回り、ブレイズはフリーズしてしまう。さて、ホームズは…?
バスタオルを風呂場に運ぶのを目撃したワトスンが、すでにビクビクしている。ブレイズも胡散臭げな目つきで、こちらの様子を窺う。でも大丈夫、今日はキミたちじゃないんだよ〜んとばかり、意味も分からず何の警戒もしていないホームズを抱え、いざお風呂場へ。
ホームズが事態を悟った時には、すでに手遅れだった。風呂場のドアは閉ざされ、逃げ場はナシ。シャワーからプシューッと音をたてて水が流れ出し、やがてぬるま湯へと変わっていく。小さな身体は壁際へと追い詰められ、「いや〜ん」の声も空しく濡らされていく。
シャワーをかけながら「大丈夫だよ〜」「ホームズ、おりこうさんだね〜」などと励ましてやるが、嫌なものは嫌なのだ。ホームズの顔が半泣きになる。
そこで少しでも気を紛らわすため、ホームズの目の前でシャワーのお湯を揺らして遊びに誘ってみた。動くものを見たら挑まずにはいられないイタグレ、恐怖に本能が打ち勝ったようだ。波形を描いて揺れ動くお湯に、カプッ、カプッと食いつこうとしている。しめた、今のうち。ショショー、カプッカプッ、ゴシゴシ。ショーショロショロ、カプッカプッ、ゴシゴシ…。

こうしてホームズの初シャンプーは終了した。そして終了時には、いつも以上に濡れ鼠と化した飼い主の姿があった。。。。