　ソロモン王は動物の言葉が分かる魔法の指環を持っていたという。動物行動学者であるローレンツ博士の著書もズバリ「ソロモンの指環」（他の著書はチンプンカンプンだったが、これだけは読みやすかった…）
犬との付き合いも早ン十年。これでも少しは犬の気持ちが分かるようになってきたと自負している。そしてこれからも分かろうと努力していきたいと思う。
またここでは犬に限らず、様々な生き物たちの親バカ自慢大会で盛り上がれたら本望と、広域な意味合いのタイトルを考えてみた。
そんなわけで「ソロモンの耳環」なのだ。おちゃらけている中に、実はマジメな部分も含まれていたりして。
さらには生き物が好きなのに諸般の事情で飼えない人、これから飼おうと思っている人が遊びに来ても楽しいと思っていただける場所になれば…と理想だけは大きい。
ちなみに「縁側談議」は、縁側でシブ茶をすすりながら取りとめも無いよもやま話をしているような、という意味で。

　ワトスン、ブレイズ、ホームズという名前から連想できるのは？
そう、何を隠そうシャーロック・ホームズの大ファンなのだ。メルアドの“streeiirregulars”もそれにちなんでいる。
ワトスンは、いつまでも良き相棒でいて欲しいとの気持ちを込めて。
ブレイズはＢ胎ということ、額にブレイズ（白い筋のような模様）があるということなどから、事件簿のタイトルにもなっている名競走馬、シルバーブレイズの名前を拝借した。
そしてホームズは…これぞシャーロッキアン（ホームズファンのこと）にとっては、とっておき中のとっておき、究極の名前である（たぶん）。
こうした様々な想いを込めて（独断で）名前を付けたにもかかわらず、ワトスンは母と同居し始めてから手のひらを返したように母の腰ぎんちゃくに成り果て、ブレイズは競走馬を連想させる精悍さもなくボーッとして寝てばかりいるし、ホームズに至っては完全に名前負けのヘタレ小僧…
それでもカワイイ奴らである。

（ちなみに…
ブリダーさんは生まれた仔犬を順にＡ胎、Ｂ胎、Ｃ胎…とつけていく。ブレイズは２度目の出産で生まれたのでＢ胎。
ホームズは別の母犬から生まれているが、ご当家５度目の出産にあたるのでＥ胎）

　ブレイズとホームズには名前がふたつある。血統書に登録されている名前と、普段呼ばれている名前。
我が家の２頭の血統登録名は親元さんからいただいている。ホームズの登録名は“ＥＰＩＳＤＥ”。
折りしもスターウォーズのエピソードⅠが公開された後のことである。
たとえ血統書という正式な証書といえども、飼い主と同じくブリーダーさんも趣味で
名前を付けている（らしい）。
ではホームズのどこが“エピソード”なのか？　映画に登場しているキャラクターに
ちなんでいるというのは分かるが、どのキャラクターなのかはエピソードⅠを見てい
ないので見当がつかなかった。（ホームズは耳が大きいのでヨーダかと思ってもみ
たのだが、その見解は親元さんによって却下された）
つい最近、ようやくビデオを観た。そして一発で分かった。由来の主はジャー・ジャー
・ビンクスだった。
あのひらひらと動くデカ耳といい、おとぼけな性格といい、まさにホームズ。
以来、たまにジャー・ジャーと呼んでいるが、本人（犬）はホームズでもジャー・ジャーでも関係ないらしい…

　ワトスンとは、以前住んでいた場所で出会った。
ほんの数件先に小さなスナックがあり、そこに飲みに来たおじさんがくれた犬なのだ。
その夜、仔犬の鳴き声を聞きつけて外に出てみると、自転車に乗ったおじさんが仔犬を隣家の垣根に繋いでいるところだった。
「かわいいですね～」と声をかけると「そう？あげるよ」と、その場でくれた。
おじさんの名誉のために付け加えておくが、そのおじさんは決して仔犬を邪魔者扱いしていたわけではない。その証拠に仔犬には真新しい小さな黄色い首輪と赤いリードがついていた。すでにほろ酔い加減だったおじさんは、褒められたノリで仔犬を置いていってしまったのではないだろうか。
その後おじさんと会うことは無かったので、おじさんが家に帰ってから家族に怒られたかどうかは知らない。
だがそのおじさんのおかげでワトスンに巡り合えたのだからとても感謝している。

　ご近所中の犬たちにケンカを売り歩いているワトスンだが、実はハエが怖い。ハエが飛んで来ようものなら、ブルブル震えて部屋から出て行ってしまう。
昔はハエを見ると追いかけていたワトスンが、どうしてハエを怖がるようになったのか？　それは飼い主の失策にある。
家の中で犬を飼い始めてから、家内での殺注剤使用は御法度となった。ワトスンの健康を害してはいけないという配慮からだった。
ではどうやってハエやゴキブリを退治していたか？　もっとも基本的な方法、すなわち丸めた新聞紙やハエタタキだ。
が、ここに恐怖の落とし穴が潜んでいようとは、家人たちは予想だにしていなかった…
「ハエやゴキブリ→緊迫した雰囲気で凶器を持って追いかける→バンバンと叩く大きな音（反射神経が鈍いので一発で仕留められない）→怒ってる？→怖い」という図式が、いつの頃よりかワトスンの頭の中で出来上がってしまっていたらしい。しかるに恐怖とハエが直結してしまったのだ。
仕方が無いのでハエタタキは止め、殺虫剤解禁となった。しかしむやみと飛散させたくはない。手に汗握る一点集中型。犬たちをその場から追い出してドアを締め切り、退治するまでは２０分でも３０分でも缶詰状態という苦労の日々が続いた。
しかし…
苦労は報われなかった。今度はハエと殺虫剤がワトスンの頭の中で結びついてしまったのだ。
現在、ワトスンの恐怖を少しでも和らげようと、殺虫剤片手に満面の笑みで「森のクマさん」なんぞを楽しそうに歌いながらハエを追いかける日々が続いている。

近頃母は毎日1本か2本、焼きイモか蒸かしイモを作る。自分と犬たちのために。
おイモの繊維質は人間にとっても良いが、犬にとっても体内の不必要なものを絡めとって体外に排出してくれるので良いらしい。
他の家族が食べる場合には、母に「食べていい？」とお伺いをたてなくてはならない。
おイモを食べさせるようになってから、便秘症だったワトスンの便通が良くなった。
ブレイズとホームズは名前を呼んでも来ないくせに、「おイモ」と言うと、どこにいても何をしていてもすぐ飛んでくる。
そしてしのつく雨の中、私はイモを買いに行かされる…

ワトスンが８歳になった頃の出来事である。
身体の毛が徐々に抜け始め、尻尾などは芯が見えるほど薄くなってしまった。さらに散歩に出てもすぐに帰りたがるようになり、かなりおデブな体形に成り果てる。
これらすべての状況を８歳という年齢、つまりは歳をとったせいだと思っていた。だから体力をつけさせるため、肥満を解消するために少々強引にでも歩かせようとする日が続いた。
ところがある日、病院の先生から「一度検査してみたほうがいいかも」とのお達しが出た。
結果は甲状腺機能障害。何某かの数値が、測れないくらいに低下していたそうだ。
甲状腺機能が低下すると、ワトスンのように不必要に体毛が抜け始める。尻尾が芯まで見えるほど毛が無くなってしまうのも「ラットテイル」とかいい、その兆候を示しているのだそうだ。
散歩に行きたがらなかったのは歳のせいではなく、身体がだるかったから。肥満と見えていたのは、病気でむくんでいたため（運動不足も無きにしもあらずだが）だったのだ。
飼い主として、なぜもっと早くに気付いてやれなかったのかと後悔した。まぁ素人に分かるはずもない病気ではあるが、こういった場合そういうことは無視して己の愚かさ後悔するのが飼い主の常だろう。
かくしてワトスンに飲み薬が処方され、これがタマゲルほど抜群の効果を発揮した。
飲み始めて３～４日すると、あれほど歩くのを嫌がっていたワトスンが歩くのでは追いつかず、小走りで散歩するようになる。一緒に走ってやると弾丸のように疾走するので、こちらの身が持たないほど。
やがてあんなに薄かった毛がワサワサと生えはじめた。しばらくぶりで会った人に「犬変わりました？（つまり前の犬が死んでしまって新しい犬を飼ったのかということ）」と訊かれることもしばしばなくらい見違えてしまった。
ただ、変な時期に毛が生えはじめてしまったので、その年の夏は冬毛のまま過ごさねばならないという、ワトスンにとって過酷なオマケがついてしまった…