そしてしばらくそこで鳴いたのち、我が家の桃の木におりてきた。すると2羽の雛たちが隣家の庭からたどたどしくも懸命に飛んできたではないか!!
すぐさま母を呼びながらカメラを取りに。
再び物干しに戻った時には、鳩の親子は我が家の1階に突き出ているトタン屋根の上に移動しており、親鳩が雛たちに餌を与えていた。
そして餌を与え終えると親鳩はまた何処へともなく飛んでいってしまい、2羽の雛たちは名残惜しげにしばらくその姿を目で追っていた。
それから自分たちも来た時同様たどたどしい飛び方で隣家の庭へと消えていった。
灯台下暗しとはまさにこのことだ。
もうとっくに近所の林まで行っていると思いきや、実はこんなに近くにいたなんて。
飛ぼうと思えば休み休みでも林までたどり着けると思うのだが、民家の庭に潜んでいたほうが外敵に襲われる心配が少なく安全だということなのだろうか。確かに林はカラスの巣窟で、まだ上手に飛べない雛たちは狙われたらひとたまりもない。
その翌日、雛たちの姿はまだ隣家の庭にあった。どうやら隣家のキウィ棚を根城にしているようだ。少しは飛び方も上達している気がする。
そしてさらに翌日は道路を挟んだもう1軒先の家の庭に引っ越していた。
ひょっとすると野鳥だから当然林に行くだろうとの考え自体が間違っているのかも知れない。
なぜなら、いまだに親子の姿をご近所で見かけるからだ。
でも、もし彼らがこの近辺をテリトリーとしていたとしても、やがて大ちゃんも小ちゃんも他の山鳩と見分けがつかなくなってしまう。
それはちょっと寂しくもある。
我が家も日がな一日山鳩の観察をしているわけではない。生活費を稼ぐため、一応仕事はしている。
そして気がつけば雛は2羽ともいなくなっていた。その頃には風も止み、雨も降っていなかったので、どうにか無事に巣立っていったのだと胸を撫で下ろす。
翌日、親鳩の鳴き声を耳にして物干しに出てみた。鳩はいつものアンテナに止まって鳴いている。
そうこうしているうちに今度は小ちゃんが巣から離れた。我が家と隣家を隔てる柵という、大ちゃんよりはまだマシなポジションをキープ。
母が「こんな時に限ってパンもクッキーもないんだから」と見当違いな発言をする。
公園で鳩に餌をやっているわけではないのだから、それは違うと思うけど…。
諦めきれない母は思い切った行動に出た。炊飯器からご飯を手に取り、それを持って行こうとしたのだ。もっと違うと思うけど…
「近寄って驚かせでもしたら下に落ちたりして危ないから」と注意するも「近くに寄らないもん」と外に出ていってしまった。
しかし数分後「手にくっついちゃって取れない〜」と、そのままご飯を持って帰ってきた。なんておマヌケな…さすが私の母である。
「ぴーぴー」と哀れっぽい声で鳴いている。
次第に肌寒い風が強くなり、空模様はますます怪しくなってきていた。なにもこんな日に巣立たなくても良いものを。前日、前々日は秋の長雨も一息つき、絶好の巣立ちびよりだったのに、なにゆえ今日? しかも地面におりちゃって…
母が隣家にお邪魔させていただいて雛をキウィ棚に戻したらどうかと言う。が、それは口で言うほど簡単にはいかない。こちらが好意をもってしようとしても、相手はそうは感じないだろう。きっと逃げ回り、かえって可哀相なことになりかねない。なんとしても自力でこの場を切り抜けてもらわねば。
雨がぽつりぽつりと降りだし、風は相変わらず吹いている。さらに加えて猫に襲われる心配も。
せめて親鳩の鳴き声でも聞こえれば大ちゃんも勇気づけられるのだろうが、近くに親鳩のいる気配はない。
そんな中、親鳩は殆ど餌を持ってくる気配も見せず、ひたすらいつもいる近所のアンテナの上で鳴いていた。
そういえば逆に昨日はやたら足しげく餌を運んでいたようだった。つまり今日が巣立ちの日なのだろう。
だが雛たちはなかなか踏ん切りがつかないようだった。いつまでもぐずぐずしている。
やがて大ちゃんのほうが餌を運んできた親の後を追ってキウィ棚から飛び立ち、紆余曲折の末に隣家の物置小屋の屋根におりた。
心細げにしばらくそこにいたが、思い切ってもう一度。それが裏目にでた。隣家の裏庭に不時着てしまったのだ。前回と同じパターン。やはり兄弟、似るのだろうか…
ところが前回の雛はすぐに這い上がってきたのに、大ちゃんは不時着した場所から動かずに
よくよく見ると雌雄の差なのか優劣の差なのか、いくらか大きさが違う。大きいほうを「大ちゃん」、小さいほうを「小ちゃん」などとセンスもへったくれもない名前を勝手に命名する。
その日は朝から曇天で、予報も芳しくなかった。
やがてほとんど親と変わらないまでに成長した雛たちが、巣から第一歩を踏み出した。
前回は巣を離れた翌日に巣立っていったのでいよいよお別れかと思いきや、そうでもなかった。
翌日も、翌々日も雛たちは相変わらずキウィ棚でのほほんと親に餌をねだっている。
さすがにあの小さな巣に2羽ではキツイので、早々に脱出したというところなのだろうか。
だが人間が近づくことでもう1羽がパニックになり、巣から落ちてしまっては元も子もない。これは自然淘汰の法則、やはり放っておくべきか…
散々悩んでいたわりには、数時間後に様子を見にいってみると、雛たちは何事もなかったように2羽並んで巣に鎮座していた。山鳩の雛は鳴き声が弱々しいので誤解を招くんだよね〜、と自分のそそっかしさを棚上げする。
ある夜、またしても千葉を豪雨が襲い、翌朝巣を覗きにいってみると1羽の様子が変だった(ように見えた)。羽を半分ほど広げてうなだれた感じで鳴いており、呼吸も速いように思われたのだ。
これはマズイかも…と、様子のおかしい雛を保護し、濡れた身体を乾かし温めてやったほうが良いものかどうか思い悩む。
山鳩一家が巣立っていった時、「また来年もおいでね〜」と感慨深く思ったものだが、まさか秋になってまたくるとは予想だにしていなかった。
気がつけば山鳩夫妻がせっせと前回の巣を補修&増築していたのだった。
さすがに年2回だと有り難味も薄れ、我が家の山鳩ブームも前回に比べ、テンションが低い。
そんな身勝手な外野たちをよそに、今回は2羽の雛が無事誕生した。
やがて例によって親が巣から離れ、小さな頭がひょこひょこ巣の中から見え隠れするようになると、我が家の山鳩ブームは再び盛り上がりを見せ、ギャラリーたちの足を運ぶ回数も次第に増えていった。