ワトスンとの攻防戦は、どうやら豚バラ粥でひとまずの落ち着きをみせつつあった。
豚バラ肉を選り分けできないくらいに細かくみじん切りにし、それを少量の水で煮立てたところに白米ご飯を加え、味が染みこむようにひと煮立ちさせるのである。

物珍しさと、腎臓サポート&サイエンスのシニアよりは余程マシということで、このメニューにしてからは、まったく食べないということはなくなった。
だが、まだまだ食いが足りない。
しかも、時間が経ってビミョウに糊状と化した米粒が口にくっ付くのが気に入らないワトスンは、途中で食べるのが嫌になってやめてしまう。

なんとか、もっと量を多く食べさせねば・・・・。
以前は抱き上げるとズシリとしていたワトスンだったが、最近はブレイズよりも軽いくらいになってしまった。
柴犬サイズで2キロも減ってりゃ、そうなるが。

実は、私の手元にはまだ最終兵器が残されていた。
何あろう、チャム缶である。
嗜好性の良いのは分かっている。
が、オーバーな言い方をすれば、豚バラ粥に比べたら添加物天国といったイメージが拭いきれない。
健康体の犬ならばそれも良かろう。
自分自身が健康食品や無添加食品とは程遠い、添加物天国の生活をしているわけだし。
しかし慢性腎不全となったワトスンには、いかがなものか?

そして、おそらくこれがチャム缶を開け渋っていた一番の要因なのだが、これでダメなら今度こそ本当に八方ふさがり、打つ手なしとなってしまうのだ。
この最後の命綱を失うのが怖くて開けられない (^ ^B

だが、このままでは・・・・・

私 「やっぱ、ご霊前になる前に開けてやるべきですよね〜」
YOKOさん 「お供物になっちゃう前に、食べさせてやりなよ〜」

とある日の病院にてこんな会話が交わされ、ついに私は禁断のチャム缶のリップに指をかけたのである。

その日のワトスンの食事は、リベンジのサツマイモと、チャム缶を混ぜ混ぜしたもの。
食器に顔を近づけて、新メニューの匂いをかぐワトスン。
試しにひと舐めしてみる。
そんな様子を、ワトスンの背後で息を詰めて見守る私。
あまり気の無さそうな様子で、ひとくち食べるワトスン。
ああ〜、やっぱりこれもダメかぁ〜、と落胆しかけた私の目の前で、ワトスンに変化が起こった。
「何これ何これ何これ〜?? 美味いじゃん美味いじゃん美味いじゃん〜!!!」
と、まるで鬼畜のごとき凄まじさでサツマイモ混ぜ混ぜチャム缶をガツガツとむさぼり食うワトスン。

こうして、ワトスンと私の攻防戦はあっけない幕切れを迎えた。
でも、私のあの苦労が、毎日せっせと作った豚バラ粥が、たかだか170円の缶詰に負けたのかと思うと、何か割り切れないものが・・・・。
しかも170円というのは1缶分の値段なので、1日に換算すると17円。
私の、ワトスンを想う愛情が、17円に負けたのである!(←けっこう悔しい)
というより、最初からチャム缶開けてれば、あんな苦労せずに済んだという話ではあるが。

その後、ワトスンは完全なる雑食性を示し、ちょっと目を離すと魚を焼いたあとのガス台に前脚をかけていたり、何の匂い(もしくは食べ屑)が残っているやらテーブルの上を舐めていたりする、すんごくガラの悪い犬になってしまった。
ワラビもちの入っているパックの蓋を父がちゃんと締めなかったがために、蓋を鼻で押し開け、上のキナコだけきれいに舐め取られていたこともある。
以前はけっこう口のキレイな犬だったんスけどね(^ ^;

それ以後、フードに混ぜると全部選り分けていたため直に口に押し込んで飲ませていた薬類も、チャム缶に混ぜておくと食べるようになった。
チャム缶おそるべし・・・・。
しかしまあ、170円の缶詰であれだけ大喜びしてくれるというのも、日頃の粗食の賜物だろう。
てなわけで、ワトスンだけチャム缶を食べさせてもらっていることに薄々感づいている(というより匂いでバレバレ)ブレイズ以下イタグレチームには、「あんたらも冥土の迎えが近くなったら食べさせてあげるよ」などとうそぶいている。

そんなある日、サツマイモを買い忘れてしまっていて、冷蔵庫を開けたらひと欠けらも入っていなかった。
そこでジャガイモを茹でてチャム缶と混ぜ混ぜしたのだが、チャム缶を舐めとってジャガイモの破片はすべて食器の外に出すワトスン。
しかも「なんか味違わなくない?」と言わんばかりに、半分ほど食べて残す。
くぅ〜〜っ、犬のくせに細かい奴っちゃ! どっちも同じイモ類だろうが!
などと内心思ったものの、また攻防戦が始まるとコワイので、翌日速攻でサツマイモを買いに行ったとも。

そして病院での検査の日。
食欲が戻ったの通り越して意地汚くなったワトスンの体重がどれだけ増えているかと、ワクワクしながら体重測定をしてもらうとーー

1キロ減ってる・・・・・ (^ ^; アセアセ

今回は院長先生より「ご飯などの炭水化物を与えるといいよ」との金言を賜り、早速その日の夕飯からサツマイモ&チャム缶に白米混ぜ混ぜ。
だがしかし、その後2〜3日は良かったのだが、調子に乗って白米の量を増やしたとたんに食べなくなってしまった。
理由はやはり、飯粒が口にくっ付くのが気に入らないから・・・・。
すでに白米を混ぜていないのにもかかわらず、半分残すといったことが何日か続いた。
その数日間は猛暑も続いたので食欲自体も落ちていたのだろうが、私の中では先だっての恐怖再び・・・・。
グレードアップして、レトルトパウチしてあるチャムの「デリカ」にしたというのに、それでも少ししか食べない。
あのワトスンがデリカを食べない→歯が痛くて食べられないのかも?!
デリカはざく切りビーフなどの固形物がけっこう入っているので、歯痛のためにそれが噛めなくて食べる気が起きないのかとの考えが、ちらと頭をよぎる。

翌日、「気のせいだと思うんですけど〜、ワトスン歯が痛いみたいなんですぅ〜」と病院に行き、やっぱり気のせいだったことが判明。

そんな折、私用の昼食に茹でた素麺を、試しに少しワトスンの食器に載せて出してやると、大喜びで食べた。
救いの神を得たかのように、その日のワトスンの食事メニューはチャム缶と素麺。
器に別盛りで分けて出してやる。
う〜ん、なんだかスパゲティーのミートソースみたいで美味そうじゃ〜ん、などと、ちょっとご満悦の私。
が、実はここで大変な過ちをしでかしていることに気づきもしていない。
そう、麺類は時間が経つとくっ付いてしまうのだ。
てなわけで、食器に盛った時にはちょうど食べ頃だったのが、他の犬たちのご飯の準備などをしているうちに、すっかり固まってくっ付いてしまった。
ワトスンが口をつけた時には、もはやとぐろ団子状態・・・・。
それを絨毯に引きずりおろして(ああ〜、絨毯が汚れる〜 ←私の心の声)、最初は根性を見せていたワトスンだったが、途中で「食べづら〜い、もう要らな〜い」になってしまった。
しかしこれは完全なる私の失策。
仕方がないのでイタグレチームの食事が済んだあと、階下にて再度デリカ単品で仕切り直し。
今回は美味しそうにデリカを食べるワトスン。
調子に乗って、さらに追加。
そして、その数分後・・・・・。
ワトスンが「クフ〜ン」と変な鳴き方をしたと思うやいなや、廊下に素麺のとぐろ団子を2玉、せっかく食べたチャム缶を道連れにおゲロされてしまった。
こりゃ食わせ過ぎだよ、という話で(汗)

翌日からまた攻防戦が始まるかとビクビクものであったが、幸いにも夜はいくらか涼しくなったこともあって、今のところは事無きを得ている。
しかも、茹でたてのツルツル素麺なら、相変わらず好きなワトスンであった。
(たぶん) めでたし、めでたし。