愛犬と一緒にお風呂に入る。それは長年の夢だった。
そして今年の夏、ついにその計画を実行に移した。
犠牲となったのは3頭の中で一番身体が小さく、一番神経の太そうなホームズだった。なぜなら長年の夢とは風呂場で犬を洗うことにあらず、犬と一緒に湯船につかることなのだ!
決行当夜、犬用のバスタオルを引き出しから引っ張り出していると、不穏な空気をいち早く察知したワトスンの顔に緊張が走る。そして次の瞬間には思いっきりの降参ポーズ(チッ、勘のいい奴め)。そう、ワトスンは洗われるのが大嫌いなのだ。しかし安心したまえ、今回のターゲットはキミではない。
ワトスンの媚びるような、窺うような視線に見送られつつホームズをガッシと小脇に抱え、いざ風呂場へ!!
なんだかんだと手間取りながらも、なんとか1人と1匹の身体を洗い終え、いよいよ「いい湯だな」シーンに突入すべくホームズを抱きかかえて湯船へ。
後脚立ちの姿勢で身体を硬直させビビリまくるホームズ。そしてホームズを膝の上に抱え上げて同じくビビる私…
ホームズには前肢骨折という前歴がある。湯船から無茶な体勢で飛び出されでもしたら、もう1枚脚に埋めるプレートを増やすはめになりかねない…
予定ではこのあと犬掻きを披露してもらおうと思っていたのだが、キャンセルになったのは言うまでもない。
そして第2回目の混浴が開催されるかも定かではない…


今日もホームズはワトスンの尻尾を狙っている。
飼い主にさえ尻尾を触られるのを好まないワトスンにとって迷惑千番な話だが、いくら唸られてもめげないのがホームズだ。フットワークをきかせてひたすら挑戦し続ける。
ちなみにブレイズも同じことをやったが、たいていは1回「ガウッ!」と唸られて勝負はついていた。
ホームズの挑戦に対して鼻に皺を寄せて唸りまくるワトスンだが、本気で怒っているのかと思えば、どうやらそうでもないらしい。
なぜならワトスンが寝ている時と食べている時、ホームズは決してワトスンに挑戦しないからだ。それどころかワトスンが寝ている傍を通る場合、ブレイズもホームズも抜き足差し足でビクビクしながらワトスンを迂回するように通り抜ける。部屋の入り口を塞ぐように寝そべられてしまうと、そこから先にはもう入って来れない。
つまり食事と睡眠の邪魔をすること、これすなわちワトスンを本気で怒らせる行為と認識しているからだろう。
人間にとっては同じ「ガウガウ!」に聞こえる唸り声も、実は微妙に違うらしい。
そもそもホームズはブレイズの遊び相手として我が家にやってきた。ブレイズを全面的には受け入れたくないワトスンと、同じ犬同士として一緒に戯れたいブレイズの心情のズレを埋める意味で3頭目を飼う決意に至ったのだ。そうすればワトスンはブレイズに煩わされることがなくなるし、ブレイズも寂しい思いをせずに済むと。
が、肝心なブレイズはというと…
自分が遊ぶ気分でない時は、面倒臭がって寝転がったままホームズの相手をしている。その姿を見て、子供時代にテレビ観戦した「アントニオ猪木VSモハメド・アリ」を思い出すのは私だけだろうか…


ワトスンは笑う犬だ。
その笑顔はなかなかチャーミングだと思うのだが、本人は楽しくて笑っている
わけではない。むしろその逆。
ワトスンが笑っている時、それは暑くて仕方のない時や、病院に連れていか
れて心拍数が急上昇している時など、嬉しいこととは程遠い場面だ。
持病もちのワトスンは月1回のペースで病院に強制連行される。
結石の状態を調べるためあらかじめ採取した尿を検査し、眼圧が高いので
その数値を測ってもらう。ただそれだけなのだが、その「それだけ」がワトスン
にとっては途方も無い恐怖らしい。
病院に行く日は朝から尿を採るので、その時点で不穏な空気を察知する。
そして診察券などを入れた通称「病院バック」を見たとたん、またしても降参
ポーズで床にへばりつく。むろん歩かないので病院までは抱えて行くことになる。
いつもお世話になっている動物病院は、我が家から道を挟んで5軒目。
この家に住んでいて良かったと、しみじみ思う瞬間である。
抵抗空しく病院に連れ込まれたワトスンは、恐怖にプルプル震えながらも笑顔を
絶やさない。
嬉しかろうが嬉しくなかろうが、やがて順番は回ってくる。
犬の眼圧を測るところを見たことのある人は少ないのではないだろうか。ワトスンを診ていただいている病院でも、あまり頭数はいないらしい。高価な計器だが、日の目を見ることは少ないようだ。
まず両眼に麻酔を垂らし、先端にゴムサックを着けた中太マーカーくらいの計器を瞳にチョンチョンと軽く2,3度当てる。すると「ピピッ」と音がして眼圧の数値が出てくるのだ。
眼圧が高いからといってすぐにどうこうなるというわけではないが、放っておくと緑内障などで失明の危険があるので侮れない。そんなわけで眼圧低下剤を毎日点眼している。
眼圧を測り終えたあと爪を切ってもらうのだが、ワトスンはここで最後の(空しい)抵抗を試みる。先生がたに噛みつかないだけまだマシかもしれないが、たかが爪切りで地獄の釜の蓋が開いたかと思うほどの騒ぎをされると、飼い主としてはちと恥かしい。でもまぁ、これもワトスンにとっては「たかが」ではないのだろう。
別に痛くも無い診療で大騒ぎをしたのち、やはり満面の笑みを浮かべながら病院をあとにするワトスンであった。

掛け布団をめくったらセミの羽が1枚出てきた。そういえば朝、物干しに落ちているのを見かけたっけ。
犯人は言わずと知れたホームズ。布団をめくって風呂場のタワシが出てきたこともある。
しかしながらセミの本体部分が寝ていなくて本当に良かったので、まずはめでたしめでたし。

これはワトスンがまだ若かりし頃の話。
散歩の途中でふと目の端にハムだかソーセージの欠けらが落ちているのが映った。が、次の瞬間、道には何も落ちていなかった。
気のせいだったかな〜と思いつつワトスンを見ると、口の閉じ方が微妙にいつもと違うような…。
もしやと口をこじ開けてみたが何も入っていない。やはり気のせいだったかと考えるも、どうも引っ掛かるので念のためもう一度ワトスンの口をこじ開けてみた。一見すると何も入っていなかったが、舌を持ち上げてみるとそこにあった。拾い食いの動かぬ証拠が…。
最初に拾い食いをしようとした時には口をもぐもぐ動かしたので、すぐにバレて取り上げられた。次の時はちょっと頭を働かせてすぐには口を動かさず、飼い主の見ていない隙をついて食べようとしたが、この計画も露呈した。
そして今回、これまでの教訓を生かして簡単には見つからない場所、すなわち舌の裏に隠したというわけだ。
犬という生き物は、自分に都合の良いことに関しては急速に進化するらしい…