暮れも押し迫ったとある日ーーーーと、まるで『一杯のかけそば』のように話は始まる。
その朝、どうした風の吹き回しか、私はニーニとボール遊びをしてやる気になった。
普段はそんなことしてやらないのだが、師も走るという年末だけあり、マンボウ(もしくはタコクラゲ)人生一直線の私もさすがに何やかやと忙しかったりして、ここのところニーニの遊んで攻撃にシカトし続けていた。
そんなこともあり、ちょっと時間もあったため埋め合わせの意味でも、たまには遊んでやろうという気になったのだ。
だが、普段慣れないことはするものではない。
そのちょっとした出来心が、惨劇の幕を引いてしまったのだ。
ふいに、ニーニが「ギャ〜〜〜〜ッ!!」という悲鳴とともに床にへばりついているのが視界に入った。
結果があれば、当然それを引き起こした要因というものがあるはずなのだが、今現在に至ってもその場面は私の中からすっぽり抜けている。
まるで映画がそこから始まったかのように、もしくはビデオの一時停止画像のように、本当に何の前触れなく気が付いたらニーニが床に張り付いていたといった感じ。
状況的には、私の背後に置かれている椅子から飛び降りた時に何らかのアクシデントが発生したのだろう。
椅子はさほどの高さがあるわけではないし、床はリノリウムになっており、これまでにもニーニは何度となくそこを乗り降りしている。
よもやそんなところから?といった感じで、しかもたまたまこの日に限っていつもと違った行動をした末の出来事。
『魔がさす』とはこういうことなのかと思った。
とにもかくにもニーニの悲鳴で何が起こったのかはすぐに察しがついた。
そして頭の中は真っ白け。。。。。
無我夢中でニーニを抱え上げ、真っ白になった頭の中には『動物病院』という文字しか存在しない。
ただならぬ気配に集まってきた他の犬たちを、玄関から飛び出さないよう母に見ていてもらい(犬たちも動揺しているので)、とにかく病院目指してひた走った。一時停止画像は一転し、この辺の記憶はすでに早送りとなっている。
途中、ニーニが何度も手に噛みついてきた。だが、痛さで身をくねらせるニーニが私の手を振りほどいて車道にでも飛び出したら一大事と、気の済むようにさせておいた。
ニーニを抱えて病院に飛び込んだ私に、先生を始めとしたスタッフの視線が集中する。
でもその視線はビミョ〜にニーニとは違うところに向けられて点と化していた。
骨折して泣き喚く犬と、指から血をダラダラ垂らしている飼い主、注目を浴びたのはもちろん飼い主のほう。
だが当の本人の頭の中はニーニのことで一杯なので、噛みつかれた認識はあるものの、ニーニを受け取りながら院長先生に「ここは任せて、あなたは隣で治療してもらいなさい」と言われて初めて、けっこーイイ感じで流血していることに気がついた。
動物病院を訪れる飼い主多しといえども、一緒に手当てしてもらう人はけっこうレアかも (^ ^;
幸いにもニーニはホームズの時と同様に折れた場所が良かったらしい(「折れた場所が良かったよ〜」と褒められても、嬉しくないけど…)
イタグレは骨が細いため、骨折箇所によっては固定金具(?)を留めるネジ(?)が思う存分に留められないらしい。
「もう少し頑張れば新年! 三が日はゲーム三昧だぞ〜!!」などと実にささやかな楽しみで年末を乗り切ろうとしていた私を、一気に奈落の底に突き落とした出来事ではあったが、不幸中の幸いにも病院がまだお休みに入る前で本当に良かったと、しみじみ思いながら帰路に着く私であった。
さて、ホームズの骨折の時にはもう人生終わりかと思うほど落ち込んだ私であったが、さすがに2回目のせいか自分でも驚くほど立ち直りが早かった。なにしろ家に着いた時には、すでに八割がた立ち直っていたし。
まあ入院の日数がホームズの半分ぐらいで済んだということもあるのだが。
ホームズの時は脚全体を覆うギブスを付けて入院もたしか10日くらいであったが、ニーニの場合はそういったギブスは付けず、入院も5日。
その差が何に由来するのかは理由を聞き忘れたので定かではないが、年末のせわしなさも手伝って、5日という日数が耐えがたいほど長いものだという感じはしなかった。
それよりも一度経験しているだけに、退院してからの気苦労のほうが先に立っていたりする。
なにしろ、常に二次災害に対する恐怖に付きまとわれるわけで。。。。
夕方、ニーニの様子を見に行く。
手術が無事済んだことはYOKOさんからすでにメールをいただいていたけれど、「会いに来ていい」と言われりゃ、そりゃやっぱり会いに行っちゃいますってものだ。
病院に入るなり、「オタクの犬、うるさいんだけど」のお言葉通り、受付にまで轟いてくるニーニのドラ声。
ご迷惑おかけしてますぅ〜(^ ^;
ところが診察台に連れてこられると波が引いたように静かになり、「フゥ〜ン フゥ〜ン」と切ない声を出してパラボラアンテナ仕様の顔を摺り寄せてくる。
しばらく頭を撫でて言い聞かせ……てみたところで「はい、わかりました。寂しいけど頑張って入院してます」などと納得するはずもなく、奥の部屋へ戻されると再び雄叫びをあげるニーニ。
「すいませ〜ん、鳴き疲れたら寝ると思いますので〜」と言い残し病院をあとにする飼い主。
ホームズの時にはこの『連れて帰れコール』に胸が締め付けられ、こちらも泣きたくなるような気持ちをぐっと堪えて病院をあとにした記憶があるが、ニーニの場合には「あ〜あ〜、やってるよ やってるよ」と意外とサバサバ帰宅してしまった。
決してニーニのことが可愛くないとか、可哀相ではないとかそういうのではないのだが、なんか持ち前のキャラクターの差というか。
あんまり悲壮感ただよってないんだよね〜
ニーニ的には、これ以上はないほど悲壮なんだけど。。。。
明けて翌日。
ホームズの時には可哀相で可哀相でとても会いに行けないと言ってた母が「会いに行ってこようかねぇ」と、お見舞いに行く。
そしてワトスン&ブレ&ホーたちは。。。。。
静かに平和に過ぎていく時間を、実にのんびりと謳歌していた。
そこには『何ごともなかったかのように』という形容がピタリと当てはまる。
日頃の素行の悪さが災いし、あまり同情されないニーニは別の意味で気の毒かも (^ ^;
さらに年まで明けて1月2日。
ニーニ退院の日である(病院はお休みだが、入院動物もいるので誰かしらの先生は夕方くらいまでいる)
我が家の犬たちに負けず劣らず平穏な数日を謳歌してしまった私であるが(←ニーニが帰ってきたら当分は気が休まらないからと、いきなり元旦から昼寝してるし〜)、さすがに前夜から再会が待ち遠しくなっていた。
実に四日ぶりの再会である。
病院に着くと、院長先生が開口一番「ウンチ製造機だよ〜」
どうやらウンチばかりしていたらしい。
っていうか、そんなにウンチばかりしていたのか??
まあ存分に踏み踏みはしていたらしい (^ ^;
そして私の声が聞こえたからなのか、地獄の釜の蓋が開いたような雄叫びが轟きだした。
聞き間違えようもなく、まごうことなきニーニの声である。
さらにはYOKOさんの口から「親元としてちょっと…」みたいな言葉が。
この「ちょっと」という言葉とその言い回しのニュアンスに続くのは、どう考えても褒め言葉ではなかろう。
そんなにスゴかったのか??!
オソロしくて多くを聞く気にはなれなかったが、とりあえずの恒例行事として、暇潰しに点滴チューブは何本も食いちぎったらしい。。。。
そんな我々の会話をよそに、ニーニは家に帰りたくて仕方がない。病院の出口めざしてジタバタするのはまだ序の口で、帰りの道でもべそべそ泣きながら、抱っこする私の手の中でのたくっている。
「はいはい、分かった分かった。ちゃんと連れて帰るから」と口ではニーニをやさしくなだめるものの、内心では「道に落っこちて病院に逆戻りしたいんか、おんどれ〜」みたいな。。。。
辛くも病院逆戻りを回避しつつ家にたどり着くと、一斉に他の犬たちがニーニを取り囲んだ。
なんだかんだ言っても「お帰り〜♪」と帰還を歓迎しているのかと思いきや、ものの一分もしないうち、一同逃げるようにしてニーニの傍から撤退。
原因はニーニ本体か、エリザベスカラーか、それともニーニの身体に染み付いた病院の匂いか?
それ全部ひっくるめてという話もあるが。。。。
我が家の犬たちに記憶力というものがあれば、エリザベスカラーが凶器になり得ることはホームズの時にじゅうぶん学習しているはずだし。
家に帰りついてもしばらくはベソをかいていたニーニだったが、やがて安心したのか眠りについた。
そんなニーニを改めて見ると、ガリガリに痩せていた。
なんか色味といい、ウナギの背骨だかを揚げ煎餅にした珍味に似ているんですけど。。。(^ ^;
とにもかくにも帰宅してホッと安堵しているであろうニーニとは反対に、飼い主のほうはこれからが心配の本番。
二次災害を起こされでもしたら、ニーニも可哀相だが私の懐はもっと可哀相 ←本音
無謀なことをしないよう、サークルなりケージなりに入れておくのが一番なのであるが、どう頑張っても私の部屋にそんなものを置くスペースはない。
仮に無理矢理スペースを確保したとしても、使わなくなったあとの保管場所にも困る。
有効活用できぬまま、いたずらに埃を被っていく臨時収容所に、万単位の費用を出すのは惜しい ←こっちが本音
ホームズの時には布団を下におろし、寝床(本来は私の寝床)とトイレの段差をなくしてやり過ごした。
だがニーニの場合、ベッドの上の窓際で日向ぼっこするのが大のお気に入りなので、たとえ布団を下に移動しても絶対に日の当たる時間帯はそこに上がっていくに決まっている。
というわけで苦肉の策。
使っていない古毛布を何枚もベッドわきに重ねてスロープのようにした。
これは名案かも……と思いきや、足元がふわふわだと逆にそこで脚を捻ってしまう可能性があって危ないとYOKOさんから指導を受ける。
う〜ん…それならばと、テーブルの四方をフェンスで囲い、その一片だけを開閉式にするという即席ケージはどうだろう。
なぜテーブルを囲むかというと、ニーニはビョンビョン犬なので四方を囲っただけだと絶対に出たがって飛び跳ねるから。
身体の小さなニーニはテーブルの下に押し込むとちょうど頭が天板に着くくらいなので、ここならさほどの窮屈さもないのではあるまいか。
さっきのよりは名案かも。
だが突貫工事を実行に移す前に、やはりここは親方にお伺いをたてるべきだろう。
「え〜っ! ニーニかわいそ〜〜!!」が開口一番だった(しくしく)
そして最終的なアドバイスとしては、『何もしない』のが良いということに。
ケージを置いてそこで養生させるのがこの状況下においてはベストな選択だろうと思われるが、それが無理なら下手なことはせずに今まで通りにしておくのが、辛くもベターな選択。
なぜなら、下手な小細工をして部屋の状態を変えることすなわち、慣れない地形となってかえって危ないらしい。
たしかに相手は犬だから、こちらの思惑を逸脱して想定外のことをしでかしてくれるかも知れない。
ましてやニーニだし。。。。
「あのベッドはそんなに高さがないから大丈夫だと思うよ」との有り難いYOKOさんのフォローだったが、やはり怖いのでニーニのトイレ介助をすることにした。
すなわちニーニが勝手に飛び降りないように、抱えてベッドからおろしてやることである。
もともと眠りは浅いたちだし、そこへ精神的緊張も加わるので、横に寝かせたエリザベスカラー付きニーニが起きだしてモゾモゾガザゴソ始めれば目は覚める(はず)。
それでも念には念をということで、部屋の電気も点けっぱなし ←さらに眠りが浅くなる
ニーニの夜中のトイレタイムは2〜3回。かなりいい具合で睡眠は寸断されるが、それでもそのたびに眠い目をこすりつつニーニをベッドからおろしてやり、用を済ませたニーニをまた布団に押し込んで寝かせつけ、それからペットシーツを取り替える。
三日目くらいからはさすがに電気は消して寝て、ニーニがモゾモゾやりだしてから点灯することにしたが、もう一連の動作は条件反射の域。
乳児に3時間ごとに授乳するってこんな感じ? などとわけの分からない感想を抱きつつ。