






夏、ホームズの朝は早い。
そしてはた迷惑なことに各部屋を渡り歩き(夜中に犬たちが寝場所を変えてうろつき回るため、冬以外は各人部屋のドアを開け放して寝る)、次々と家人を叩き起こして回る。
その日も朝の4時頃に叩き起こされ、ふと見るとテレビの前にウンチが転がっていた。
「またか…」眠気で半ば意識も朦朧としつつ、溜息をついた。
我が家ではトイレ以外の場所にウンチが転がっていることは珍しくはない。躾がなってないと言われてしまえばそれまでだが、人が見ている時にはちゃんとトイレでするし、第一、いったいいつしたものやら分からないウンチを見ただけでは犯人の特定は不可能だ。
この場合、よほどの事情がない限りソソウをしないワトスンは容疑者リストから除外されるが、残る2頭のうちどちらの仕業かとなると決定的な証拠がない。ホームズもブレイズも、ともに尻グセが悪いからだ。
今更どちらが犯人かを悩むよりも、さっさと始末してもう一眠りしたほうがよほど得策というもの。
というわけでウンチをトイレットペーパーで包んでトイレに流しに…行く途中でもう1本発見してしまった。
これはもはや単独犯にあらず。
2個のウンチをトイレに流して部屋に戻ろうとすると、なんと妹の部屋の入り口付近にも親指の先ほどのウンチが2粒コロコロと…。これもトイレットペーパーで拾い上げ、取り残しがないかどうかさらに妹の部屋を確認するも、なにぶん薄暗い部屋の中、しかも妹の部屋の絨毯は茶系メインの幾何模様。眠気が先行してぼーっとした頭の中で「自分の部屋じゃないから別にいいか」と考えたことは認めよう。
それから数時間後、「うわあぁ〜〜〜っ!!」という雄叫びが朝の空気を破った。
妹の部屋に駆けつけてみると、片足に拳大ほどに踏みしだかれたウンチをつけた母が1本足で立っていた。
この日、妹は遅くまで寝ていたため、何某かの用事で妹の部屋に入った母が被害に合ってしまったのだった。
しまった、最後に見たあれはダミーだったのか…
ブレイズはあまり散歩が好きではないらしい。
冬になると朝はもちろん布団から出て来ないし(ホームズは寒さの一番厳しい1〜2月以外はちゃんと行く)、寒くない時期でも気乗りする日と気乗りしない日がある。
気乗りする日はちゃんと玄関まで出てきてリードを付けさせるが、気乗りしない日は呼んでも来ないか、玄関まではくるもののリードを見せたとたんに2階へ逃走する。
朝行ったから夕方行かないとか、寒い時期などは朝も夕も行きたがらない日も珍しくない。
散歩に行きたがらないブレイズは、いつもゴロゴロダラダラ寝ているのが好きだ。
そんなわけで「ブレイズは身体が弱い」などと、わけの分からぬレッテルを貼られている今日この頃。
盛夏、イタグレはヘビ女へと変身する。
丸まるとコンパクトだが、伸びると長〜いブレイズとホームズが至る所でニョロニョロしていて通行の邪魔だ。
こんな時でもブレイズは絶対に板の間に直には寝ない。
毛が薄く痩せているぶん、床の硬さが骨身にしみるのか、たとえ雑巾1枚、
新聞紙1枚でも何かが敷いてある上でないと座りもしない。
反対にワトスンはひんやりした床の上に好んで寝ている。
ホームズも基本的には何かの上に寝ているが、根が大雑把なので時々は
板の間にも寝ている。
そしてこの時期、ワトスンと家人のスキンシップは皆無になる。
モサモサの自分の毛だけでも暑いワトスンは人の傍に寄り付かなくなるし、
こちらも汗ばんだ手や顔にワトスンの抜け毛が張り付くのであまり触りたいと
思わなくなる。
ブレイズでさえも膝の上には乗ってこなくなるし、夜寝る時もさっさと犬用ベッド
に入ってひとりで寝ている。
にもかかわらず、ホームズはぴったりと寄り添って眠るのが好きだ。
そんな甘えん坊のホームズをカワイイと思う反面、寝苦しさ倍増で地獄の日々。
極力エアコンは入れない主義なのだが、今年の夏はいつにも増してリモコンに手が伸びてしまう。
トコトコと軽快な足取りで階段を上る音がして、ホームズの姿がニュッと現れた。
そして部屋に入ってくるなり、口にくわえていたものをポトリと床に落とした。
見ると、包装もまんまの“カモメの卵 ミニ”だった。
家人の隙を狙いテーブルの上の箱から奪取し、2階でゆっくり食べようと目論んでいたらしいが、なぜか一番恐ろしい人間が部屋に居るところまで計算に入れていなかったらしい。
あと1歩のところで取り上げられたのは言うまでもない。
今回は未遂に終わったものの、実は過去に1度食べられている。破れた包装紙が転がっていて、もしやと口の臭いをかいでみたら、カモメの卵の甘い香りがした。そしてホームズの犯行はそれだけではない。
他にも草もちのアンコ部分、人形焼……どうやら和菓子好きらしい。
ホームズの寝相はなかなかオモロイ。