4時間連続のセット教習。
カラオケならいざ知らず、何が悲しくて休みの日に教習所で4時間も過ごさねばならないのか(←就労者は普通は休みの日に行くもの)
しかも恐ろしいことに高速道路での教習まで盛り込まれている!
考えただけで恐怖のあまり吐き気が。。。
しかし吐き気がしようが、抜け毛が増えようが(円形脱毛製造中かも知れない)、教習所行きの時間はやってくる。
そして千葉は今日も雨。
たしかに一度は雨天と夜間を経験しておいたほうが良いとは言った。だが、第二段階に入ってからほとんど(ほぼ9割)雨というのはいったいどういうわけ?!!  
やはり日頃の行いの賜物だろうか。。。
雨天は視界も悪くなるし、つまらないポカをするのはどうやら私だけではないらしい。以前に教官から聞いた話だが、雨天でつまらないポカをしてハンコをもらえないのだったら、キャンセル料を払ってキャンセルしてしまったほうが良いと考えている教習生もいるそうだ。
ちなみに実技は1時限の教習料が約4500円で、キャンセル料は1000円なので、その教習生の言い分も一理ある。
もっとも雨が降ろうが、晴れていようが、等しくポカをする人間には関係のない話である。

1時限目。複数教習。
複数の教習生が一台の車に乗り込み、お互いの運転の良い点と悪い点を各々ピックアップし、2時限目にそれを使ってディスカッションするのだ。
この日、セット教習に参加したのは2名。
教官いわく「二人だとたっぷり乗れて(運転できて)いいよね〜。三人だとすぐ交代の時間が来ちゃうから」
それを耳にしたとたん、乗車定員ギリギリまで詰め込んで欲しかったと思ったのは言うまでもない。
しかも相方の教習生、めちゃめちゃ運転が上手いし判断も的確ときてる。
こんなことなら先に運転しときゃ良かったと後悔するも、あとの祭り。
そしてついに順番が回ってきた。緊張から運転はいつも以上にボロボロ状態。。。

2時限目。ディスカッション。
しかし片や文句のつけようもない上手い運転、片や褒めようも無い私。これで活発なディスカッションになるわけない。
めちゃめちゃ内容の薄い1時限を過ごし、次の時限はいよいよ恐怖の高速教習。。。
「でも雨で規制がかかっちゃうとできなくて、次回持ち越しになっちゃうんだよね」と教官。
それを聞いたとたん、私の頭上に一条の光が。この雨の中やるよりは、もちろん晴れた日に(雨に祟られ続けている私に今後そんな日があれば)仕切り直したほうが良いに決まっている!
こちらの都合ではないのでキャンセル料も取られないらしいし。
しかし「期待しない方がいいよ。これくらいの雨だったら、たぶん規制かかってないと思うから」と、無残にも淡い期待はほんの一瞬で打ち砕かれる。
だったら余計なこと言うなよ、と内なる心の声が叫ぶ。

3時限目。教官の言葉通り淡い期待を打ち砕き、高速教習決行。
しかもこの時限だけマンツーマン。。。しくしく( ←普通に考えれば高速でドライバー(教習生)のチェンジは無理)
配車券を引くと、初めての教官の名前。だがこの教官の名前には聞き覚えがあった。
以前にお客さんと教習所の話をしていた時に、「○○さんて知ってる? そこの教官なんだけど」と尋ねられた。
私の内心書(内なる心の好感度もしくは要注意チェックリスト)には無い名前だったので「若い人ですか?」と訊くと、そのお客さんはたしかに「若い人」と答えた。
そしてこの日、「若い人」という言葉に多少なりとも興味を抱きつつ待っていた私の隣に乗り込んできたのは、どう見ても50代の坂はとうに越えているだろうとおぼしき指導教官。要するにオヤっさん。
そりゃお客さん、あなたよりはたしかに若いだろうけどね。。。
言葉というものの難しさをひしひしと感じた瞬間であった。
ちなみにこの教官はS教官に似たノリの、オモロい教官でした。

かくして、この若(くな)い教官に付き添われ、ご近所界隈の某高速道路へ。
さすがに界隈&雨天&平日の昼間ということで、高速道路はガラ空き。しかもここでの最高速度は80キロ。
だがそんな要因をいくつ積み上げようが何の慰めにもなりはしない。
「70キロくらいでいいから出してみて〜」が、「75キロ出して走ろう」「80キロ出してみようか」と次第に加速する教官からのリクエストに対し、ひたすら「怖い怖い怖い〜〜」と念仏のように唱え続ける。
二度と高速道路には足を踏み入れるまいとの決意を新たにした1時限だった。

4時限目。自主径路の設定。
またもや複数教習に戻り、相方は運転めちゃ上手い前出の人。
しかし嬉しいことに担当はキレイなおネエさん教官。抜け殻と化した私には救いの神。
自主径路の教習とは、地図を見ながら教官に示された目的地までの径路を設定するもの。
要領の悪いノロノロ運転の教習生が50分の時間で行って帰ってこれる距離なのだから、範囲はもちろんご近所界隈も界隈。
しかもジモティーな私。なのに何度も地図を見返して確認する。
さらに○○の信号を右折やら××の交差点を左折やらの説明を、駅のホームで指差し確認をする車掌さんさながらに、指で左右の方向を確認しつつ進めるあたりは相変わらず。

こうして、長い長い4時間連続教習は終わりを告げた。
帰りの送迎バスの中、すでに幽体離脱状態の私の耳に、カーラジオから今ハマっているバンドの、しかもお気に入りの曲が小さな音で流れてきた。
べつに家に帰ればいくらでも聴ける曲なのだが、どこかの場所で偶然にお気に入りの曲を聴けるというのは妙に嬉しい気分にはならないだろうか。しかも疲れきってどん底気分の時ならばなおさら。
「これって、頑張った私へのご褒美〜?」的な。
蚊の鳴くような音で流れる曲をもっと良く聴こうと座席から身を乗り出した瞬間、運転していた教官がラジオのボリュームをゼロにした。
もちろんわざとではなく、単なる偶然、間が悪かっただけのことだろう。
しかし「後ろから傘で刺したろか?」と、ちょっとだけ思った瞬間であった。

自動車を所有する者が強制的に加入しなければならない保険は、俗に「自賠責」と呼ばれている。
私はこれをずっと自分で自分の車を賠償する保険のことだと思っていた。
それというのも以前に父が信号待ちの最中に後方から追突され、こちらは完全に停止していたのだから状況的に鑑みても責任は10対0になるわけなのだが、なんとその追突した当人がまったく保険に入っていなかったのだ(旦那さんの車を奥さんが運転していた)。
しかもまぁ、ちょっとワケ有りの人だったようで、賠償できる経済力が無いときたもんだ。
私から言わせればその人にだって親や親戚縁者はいるのだから、たとえいくらかでも支払ってもらえば良いものを、変なところで人の良い父は相手の境遇に同情してか、「仕方が無いので自賠責をきる」と言って自分で修理代(損傷がフレームまでいっていたので、けっこうかかったらしい。しかも父の車は緑ナンバー)を払っていた。
そんないきさつから自身を賠償する保険のことだと思い込んでしまったわけ。
もちろん「自賠責」とは、「自分で賠償責任保険」ではなく「自動車損害賠償責任保険」の略である。
ちなみにそれまで無事故無違反にささやかな誇りを持っていた父は、「ボクのココロは傷ついた」などとぬかして2日ほど寝込んでしまった。
だったら少しは賠償金取れっつーの、と思ったのは私だけではないはず。

第二段階の学科講習が終了すると、総合テストがある。
平たく言えば免許センターでの本試験のリハーサルのようなもの。
出題は全部で95問あり、100点満点で90点以上の点数を稼がねば不合格。
補習を受けるのは面倒だし(追試はない)、どのみち本試験に向けて頭に入れておかねばならないので、数日前から学科本を開く。

テストは学科1段階終了後の中間テストと合同で行われるのだが、席分けの時に最前列、しかも試験官たちのまん前の席になってしまった。
しかしそのことが後に起こる悲劇(?)の幕開けになろうとは。。。
今回の試験官(教官)2名は、中間テストや仮免学科の時の試験官とは違い(比較的)若者だった。
そして試験が始まるや否や雑談を始める。
自動車免許試験の学科問題というのは引っ掛けが多く、設問を良く読まないと分かっているものでも間違えるという、実にいやらしい性質のもの。
ただでさえそういった落とし穴に引っ掛かりやすい(←理解力が乏しい証拠)たちだというのに、地域の草むしり行事がどうのとか、慰安旅行がどうのとか、頭のすぐ上で盛り上がられてて問題に集中できるかっちゅーの!
次第にイライラは募り、こめかみでは赤信号の交差点を緊急自動車が猛サイレンで激走中。
だが「じゃかぁしいっ!!!」という咆哮が歯の隙間まで出掛かるのを無理矢理に飲み込む。
なぜなら、ここでこの井戸端会議をわざわざ黙らせておいて合格点を取れなかったら恥かしいから。
そして結果は93点でギリギリ合格。
採点した教官が「すごいじゃないですか〜〜!」と大袈裟に褒める。
「舐めとんのかコラ!」とは内なる心の声(←けっこうキライな教官だから。好きな教官だったら「えっへっへ〜」とか照れ笑いする。裏表のある人間だから)。
もしこれが97点とか100点の大台を叩き出したのであれば、彼の賞賛を素直に受け入れたことだろう。
でも93点と言うのは微妙なところではないだろうか。「すごい!」というほどの点数でもないような気がする。
つまり、私はこの教官によほどアホだと思われているらしい。
しかしながらそれを否定できない自分がちょっと悲しいかも。

路上教習中、教官と髪の毛の話しになった。
教官いわく「私は風呂場で自分でバリカンで刈ってるんですよ〜。この辺が30mmで、ここいら辺は40mmにして。で、この辺てでっぱってるじゃないですか……」
そう説明されて、「あ〜なるほど〜。そうそう、そうなんですよね〜。そこはでっぱってますからね〜」
なんて見れるかっちゅーの!!
私は死に物狂いで運転してる最中ですって。。。

2段階目もいよいよ大詰めとなり、ついにみきわめ教習を迎えた。
第1回目のみきわめは見事に落ち、リベンジとなる第2回目。
担当は亜星教官。最初はちょっとコワそうで苦手だったが、何回か当たるうちにそんなことはなくなった。
しかしながら亜星教官というと思い出すのが仮免試験の時の縁石乗り上げ事件。
だからといって今回まさかその再現をしようなどとは想像だにしていなかった。
そう、またしても縁石に乗り上げたのだ。
そしてまたしても冷静に亜星教官の指示が飛ぶ。
無線教習から始まって、仮免試験、みきわめと、その節目節目にお約束のごとく縁石に乗り上げている私。
とすれば。。。
卒業検定でも縁石落第コースまっしぐらな気がする。。。

亜星教官からハンコをもらってしまったので、ついに恐怖の卒業検定を目前に控えてしまった(滝汗)
心情的には本番に挑む前にこれでもかというくらい練習日を入れたいところなのだが、11月も半ばともなるとさすがに気候もだいぶ冷え込んできた。
寒いのが大嫌いな私は、これ以上気温が低下すると免許センターに行くのが億劫になってくる。
だから気候的にはさっさとケリをつけたいところ(ちなみに動物病院では「もうじき野獣が野に放たれる」と、もっぱらの噂になっている)。
てなわけで、とりあえず練習日を2日ほど設けることにした。
検定受付でその旨を相談すると、2日練習日をとってしまうとスケジュール的に卒検がだいぶ先延ばしになってしまうことが判明。
う〜ん、1日だけじゃ不安大爆発だな〜などと思案していると、「大丈夫ですよ〜。なんたって教官のお墨付きなんですから〜」と笑顔で事務員さん。
そんな無謀な墨を付けるのは誰?! どこの教官??!! と焦る私 (たぶん亜星教官。ハンコくれたから)。
めちゃめちゃビビり顔の私を見て、事務員さんが「それじゃ練習の結果を見て、もう1日入れるかどうか決めましょうよ」と妥協案を提案してくれる。
おおっ、なるほど〜と、即決が苦手な私はすぐさまその妥協案に食いついた。

そして練習日。
配車担当の事務員さんが私の原簿を見て一瞬怪訝な顔。みきわめ受かってるやん、みたいな。。。
それから「ああ、練習ね。じゃ終わったら検定の受付して帰って〜」とさらり。
なんか今日の練習結果を見るまでもなく、いきなりここでスケジュール決まってるしぃ〜〜〜(汗)

そんなこんなで本日の指導担当は、なんとS教官。ラッキー♪♪
やはり最後の教習(に本当になるのか??)を大好きな教官で飾るというのは嬉しいものだ。
車に乗り込むなり
S教官「おや〜、どこかでお会いしませんでしたっけ? パチンコ屋かな〜」
私   「違いますよ〜、競馬場じゃないですか〜」
S教官「アッハッハー、こりゃ一本取られた!」
と絶好調である。
路上を運転中も、とある徒歩の老夫婦とすれ違いざまに「おっ、もう出てるんだ〜」とS教官。
「えっ、何が? 何ですか?? すごい気になる〜。教えてくださいよ〜」と問い詰めると、最初はニヤニヤ誤魔化していたものの、ついに「あ、いや、タクアン大根がね」と白状した。
そうだね、たしかにそろそろタクアン漬ける季節だね。。。。。。
さらに「明日は干し柿吊るすんだよ〜」と。そしてしばし干し柿談議となり、信号待ちの間には他所の家の柿の実り具合を検分するS教官。

思うに、人それぞれに相性の良し悪し(人の好き好き)というのは千差万別なわけだが、私的にはS教官のように職場に遊びに来ているように見える(しか見えない)人というのは、ある意味スゴイと思う。
もちろん『見える』というだけで実際はきちんと業務をこなしているわけなのだが、それを相手に(あまり)感じさせない。
教わる立場の人間としては、そんなフランクな雰囲気によってだいぶリラックスできるわけで、これこそがS教官の人気の秘密なのではないだろうか(お祭り教官と呼んでいる教習生もいる)。

さて、盛り上がった高年齢的な話題も一段落した頃、車は教習所のコース内へと帰ってきた。
いよいよ本日のメインイベント、大嫌いな方向転換と縦列駐車が待っている。
なぜ大嫌いかといえば、バックしながらハンドルを左右のどちらに切って良いか分からなくなるからだ。
そう、私の場合は運転技術以前の問題。ここでも左と右の魔境に迷い込んでいたりして。
免許取得のあかつきには方向転換も縦列もしない、左折オンリーのドライバーになりますからご勘弁を……と訴えたいところだが、訴えたところで鼻先であしらわれて即却下、寝言は寝て言えと怒られるだろう。
それはさておき、この2項目の教習というのはバックの際に窓を開けて後方確認をするわけだが、これまでの教習で全て雨に祟られているって一体どういうことなわけ?!
今日も今日とて吹き込む雨と、ボタボタ入り込んでくる雨だれに濡れつつの教習。やはり日頃の行いの賜物か。
雨に打たれながら縦列の練習をしていると、いきなりS教官が「この菊さ〜」とコース脇に植えられている黄色の小菊に目を向けた。
えっ、何か注意かアドバイス? この菊を何某かの目安にするとか?? と急いで私も菊に注目する。
そんな微妙に緊張みなぎる空気の中、次に出てきたS教官のお言葉とは「この前、おひたしにして食べた」だった。
そして思わず私の口をついて出た言葉が「えっ、これ食用なんですか?」
「食用じゃなくたって食えるよ〜。昔の人なんか食べてたんだから〜」と、得々とS教官。
「そうですよね〜。このさい食えるものは何でも食っちまえ、みたいな」と、松之郷のサンマの一件を引きずっている私。
ありていに言えば、そういう問題ではないと思う。
教習所施設の菊を勝手に食べちゃいかんだろ! という問題でもなかろう。
き、教官!私、卒検を目前にして超苦手な(←得意なものなんてあるんかい?)縦列駐車の教習まっ最中なんですけど。。。みたいな。

S教官、今日も絶好調。

そんなお茶目なS教官とも、もうすぐお別れだと思うとけっこう寂しい(←卒検に一発合格すればの話)
でも犬の散歩コースと教習車の路上コースとはだいぶ重なっているので、卒業したあともしばしば会えると思う。
そう、どこかでお会いしたのは『パチンコ屋』でも『競馬場』でもなく、『近所の道端』が正解。

いよいよ地獄の釜の蓋が開けられようとしている。
そう、本日ついに卒業検定の運びと相成ってしまった。。。
天気は朝からまばゆいばかりの晴天となった。そして天気と反比例して私のお腹は朝から下り坂。。。
動悸、息切れ、眩暈を押さえつつ、腹薬を一気に飲み下して家を出る。

教習所のバス停で送迎車を待ちながら、絶好の教習日和とも言える晴天を恨めしげに眺める私。
実は2段階目に入ってからの教習がほぼ9割がた雨(方向転換、縦列などの窓開け教習はオール雨)だったため、いきなり卒検で晴れられても、周囲の風景が眩しく光って逆にやりづらい。すっかり日陰の身と化した今日この頃。
だいっ嫌いだぁ〜! 青い空なんて〜〜!!! と、いつぞや吐いたようなセリフ再び。
送迎車の中でも教官の「どうです? 進んでますか?」の問いに、「今日、卒検なんですぅ〜」と答え、話題は一気に卒検モード。
「先と後、どっちがいいですか?」と送迎係の教官。
仮免試験から予想はしていたものの、やはり複数乗車だったか。
ただでさえ緊張する検定なのに、後部座席に他の教習生が乗る、他の教習生の運転を見せ付けられる。プレッシャーはいや増すばかりで、これが拷問以外の何ものであろうか。まだ教官とツーショットのほうがなんぼもマシである。
できることなら「どっちもイヤ!」と答えたかったのは言うまでもない。
「後に運転するほうも、けっこうキツイんですよ〜。先に運転した人が間違えた方法とっちゃうと、つられてそれを踏襲しちゃうことがありますからね」と教官に有り難いアドバイスを賜る。
しかし応用のきかない私のこととて、その点の危惧はなかろう。たとえもう一人の受験生が正しい運転をしようが間違っていようが、こんなドタンバでそれを参考にできるほど器用ではない。
本番では、ただひたすら自分にできる運転をするのみ。たとえそれがどんなに間違っていようとも。。。

検定を審査するのは検定員の資格を持った指導員と決められている(らしい)。
ただでさえ受験生は今にも引きつけを起こしそうなほどの緊張なのだから、せめて試験官をS教官とかキレイなおネエさん教官とか、少しでもこちらの緊張を和らげてくれる人に担当して欲しいと願うのが人情。
だが検定がらみで頭に浮かんでくる教官約2名、緊張のあまり(?)こめかみまでもが引きつけを起こす。
仮免検定でのトラウマがあるとはいえ、せめて亜星教官に当たることを祈りに祈る。
そして試験官として当たったのは想像していたどの教官でもなく、なんだかとても良い雰囲気の教官(遠い昔に実技で一度だけ当たった)。
さらに全部の課題をこなさねばならないと思っていた方向転換&縦列駐車は、3項目(左転換、右転換、縦列)の中でも一番マシと思われる左での転換1項目のみと聞かされ、思わず「ラッキー♪」と叫んでしまう。←緊張しすぎてハイテンション

だが、試験官が雰囲気の良い教官だろうが座敷わらしだろうがカマイタチだろうが、はたまた風間杜夫(←めちゃめちゃ分かりづらいネタフリ。ヒントはドジでノロマなカメ)だろうが、緊張が解けるわけでも運転が上手くなるわけでもない。
「落ちたらまた受けりゃいいんだから 落ちたらまた受けりゃいいんだから……」と呪文のように頭の中で繰り返す。
私を良く知る人間ならば誰も一発で受かると期待しちゃいないだろうし、その点は気が楽だ。
しかしながら、実は叶うことなら一発で受かりたいわけがある。
すなわち「残ったお金は卒業祝いとしてお前にやるよ」の父のひとこと。
教習費として渡されているお金のうち、最終的に免許取得までにかかった費用の残りをくれるというのだ。
ということは、落ちれば落ちるほど貴重な臨時収入が減少していくことに他ならない。
この日、私は自己のプライドのためでも、「(あんたが)一発で受かるなんてすごいじゃん!」という友人知人たちからの賞賛のためでなく、ひたすら『欲』のためにハンドルを握ったのだった。

検定はまず路上から始まった。最初に地図を渡されて、前半を赤で示されたルートを試験官の指示付きで走り、後半はゴール地点までの径路を自分で設定して走るのだ。
ところがこのルート、それまで『自主経路』と称して走らされていた道筋とは微妙に変化をもたせてあるではないか。
あれだけ何度も同じルートで走らせておいて肝心な時にこの仕打ち、有り難くて涙も出やしませんやね。。。
順番が後となった私は、後部座席で必死に後半部分の自主ルートを頭に叩き込む。
この点でいえば順番が後なのはラッキーだったが、先陣を切った受験生の滑らかな運転を見せ付けられるにつれ、緊張はさらに高まる一方。

ついに私の番がやってきた。
時おり試験官が何やら書き込んでいるのがめちゃめちゃ気になりつつも、前半部分は試験官が右左折の指示を出してくれることもあり、どうにかこうにか切り抜けた(←上手くできたわけではない)。
そして後半の、自主径路の説明を試験官に始めた時に事件は起こった。
最初の右折地点を示すと、試験官が「ここは一方通行だから通れないよ」とひとこと。
なぬ〜〜!! 一方通行だぁ〜〜?! そういうことは先に言っといてくれよぉ〜〜!!!
とは、私の内なる心の声。
もちろん今はじめて説明したのだから、私がどのようなルートを走ろうとしていたかなど試験官に知る由もないが、「そりゃあないぜ、セニョール」という感じである。
すでに頭の中は真っ白け。
急いで別のルートを設定し直すも、完全にパニック状態で訳が分からなくなっている。地元の強みで知っているはずの道なのに、地図の上では未知との遭遇。。。
さらに不幸なことには新しく設定し直したルートで走ると、絶対に通りたくなかった交差点に、絶対に通りたくなかった方向から進入する羽目に陥るのだ。
ここはイビツなX状とでも言おうか、ちょっと複雑な形で道が交差しており、さらにご丁寧なことには細い横道まで交わっている。
なまじジモティーなだけに、この交差点で過去10年の間に私が見かけたものだけでも6〜7件の接触事故が起こっていることだとか、信号の見誤りで後続車にクラクションを鳴らされている車がよくあることを知っているので恐怖は募る。
そしてまんまと信号を見誤った。
形から言えば右折の格好で交差点に進入したわけだが、右折と言ってもほとんど直進と見紛うばかりの右折な上、交差(対面)する道の信号がこちらの信号の延長線に近い状態で設置されているため、青の先は赤信号、みたいな。。。
冷静に考えればこの赤は対面する道の車に対して出されているものであり、青信号で右折しているのだからそのまま進んで良いわけなのだが、すでに冷静どころか理性も吹っ飛んでいる状態。
「何? 何? この赤は何っっ!!」と赤信号の前で車ごとフリーズ。
免許を持っているドライバーでさえ信号を見誤る魔の交差点、しかも経路の設定し直しでパニクっているのは傍目からも分かる状態。
さらにふと気がつけば、11月も終りだというこの時期にクーラーの風が絶好調で噴きだしている始末。
なんで? なんでいきなりクーラー付いてるわけ??
最初は運転中に誤って私がつけてしまったのかと思ったが、どうやら体格のおよろしい教官が付けたらしい(考えてみればこれまでいじったこともない場所なので私にクーラーの付け方など分かろうはずもない)。
混乱のあまりに目の前が真っ暗を通り越してピカソの世界。
さすがにこのドツボ状況は気の毒と思ったのか、試験官が軽く咳払い。
腐っても検定なのでもちろん試験官たる教官は教習生に対してアドバイスをしてはいけない。したがってこの咳払いが「行け」という意味なのか「停まれ」という意味なのかは自分で判断せねばならない。
そして私は「行け」だとの判断を下した。
というか、常識で考えてもちろん「行け」なのだろうが、とうの昔に常識なんてものは途中の道端に落としてきている。
アクセルを踏みながら、「(検定に)落ちたな」と内心斜に構えてフッと溜息をつく。
検定は減点方式なので、たとえこの一箇所でミスったとしても他がクリアできていれば問題はない。
しかしこの私に限って他が完璧ということは太陽が西から昇ろうとも有り得ない。つまりここで決定打を打ち込まれても何の不思議もないわけである。
その後はひとまず問題の方向転換も切り返し無しでクリアし、検定はようやく終了。

結果は。。。
如何なる神の悪戯か、大奇跡の一発合格。
私が合格したのだから、もちろん落第者なしの全員合格である。
かくして約半年にも渡る教習所通いは、これにてひとまず幕引きとなった。

おそらく誰よりも一番ホッとしているのは、配車担当の事務員さんだろう。

最後に。。。

お世話になった教習所スタッフの皆さん、長い間ほんとうにどうも有り難うございました。
                                                              
                                                                 《完》