路上教習のコースも、最初は交通量も少ないような比較的運転の簡単な道から入り、やがて大型車なども行き交う本通りへと、有無を言わさずレベルアップしていった。
そして今回からいよいよ地獄谷巡りコースの教習が始まってしまった。
何が『地獄谷巡り』なのかというと、要するにアップダウンの激しい道に対する教習で、上り坂はまだしも傾斜のキツい下り坂が私的には超〜コワいのである。
坂を下りきったところがカーブしていようものならもう最悪。
「ぎゃ〜〜〜っ! コワい〜〜〜!!」の絶叫とともに坂を下って無我夢中でカーブを曲がり、「あ〜死ぬかと思った」と半ば放心状態。
「こんなところで死にやしないって」とツッコミを入れる教官。
さらにその舌の根も乾かないうちに「でもスピード緩めずに下って対向車来てたら死ぬね〜」などと、他人事のようにさらり。
「そん時ゃアンタも道連れだよ」とは、内なる心の声。
ちなみに本日の指導担当はマングース教官。
そう、入所当時に私がマジギレ計画を練った、例のあの御仁である。
本日のコースの簡単な説明を前時間に聞いていたので、配車券を引いた瞬間「げげっ!ハズレ」と思った。
私にとって配車券はまさにロシアンルーレット。。。
しかし隣に座っているのがマングースだろうがカマイタチだろうが、すでにカリカリしている精神的な余裕はない。
注意を受けて最初は「はい」と返事をしていたのが「はいはい」になり、やがて「はいはいはいはい」の超早口になっていく。
もちろん「はい」の大安売りをしたからとて相手を挑発しているわけでも、「はい」の数だけ理解しているわけでもない。「はい」が一回の時点では、その注意を次回にクリアできるか否かは別としても一応は聞いている。そして「はいはい」と二回になった時点でかなり焦りだしているので話半分。それ以上は魂が抜けかかっているので、単なる条件反射で返事をしているに過ぎない。
そうこうしているうちに教習車が後続についた。しかもここいら一帯を二分しているライバル社の車(私は関係ないけど)。
「こりゃ頑張ってもらわないと。うちの教習所の代表として」とマングース教官。
もちろんこれは冗談半分の発言ではあろうが、実際の話、他の教官談によれば自分の指導している教習生のほうが上手な運転をしていると内心「勝った♪」とは思うらしい。
「そりゃ人選ミスというものですよ〜。今回は諦めて」と切り返すと、アハハ〜と笑うマングース教官。
しかし知らぬが仏、知ってしまったからにはプレッシャーを感じる(もちろん教官にではなく後続車に)。
そして私はプレッシャーに弱いタイプ。ただでさえアヤシイ運転操作が、さらにガタガタになる。
ついにマングース教官が「うしろ気にしなくていいから」と前言を大撤回。この期に及び、ある意味勝ったと言えなくもない(もちろん後続車にではなく教官に)。
やがてこちらの車は左折、ライバル車は直進のコースとなった。
「なんか向こう笑ってたよ〜」とはマングース教官談。
かくしてライバル社の前で赤っ恥をかいたのち、本日の教習も無事に終了した。
有り難くもなんともないことに、今年は台風の当たり年。
そしてこれまで直撃を免れていた関東地方の悪運もついに尽き、今年最強とまで言われた台風22号が千葉にも上陸してきた。
前日から台風の進行状況をいつになくマメにチェックしていたのは、こともあろうに台風が接近する予定の午後3時から地獄谷巡りの教習が入っていたから。
一度くらいは雨の日と夜間も体験しておいたほうが良いと珍しく前向きな発言を口にしていたものの、それはあくまでも普通の雨の日のこと。べつに大型台風の直撃を体験したいわけでは毛頭ない。
前日の段階で台風が来ることは把握済みとはいえ、予報はあくまでも予報なのであり、台風は遅れることも早まることもある。状況によっては私的希望雨量を越えはするものの、とりあえず当初の予定の雨天教習を体験することにはなる。
そこで前日にキャンセルを入れずに、キャンセル料を払うのを覚悟で当日の様子を見て決めることにした。
もちろんこれも自分で払っているわけではないので出来る賭けだろう。ちなみに父は我が子の心配よりキャンセル料の心配をしていた。
とはいえ、やはり朝から状況は芳しくない。朝のうちにさっさとキャンセルを入れるべきか、それとも昼頃まで様子を見てみるか。いずれにしろキャンセルを入れるならさっさとすれば良いものを、この辺がひどく優柔不断だったりする。
迷った末、ひとまず教習所に電話を入れてみることにした。
私「今日の3時に予約を入れているのですが、その頃から台風ひどくなりますよね? どうなりますか?」
事(事務員さん)「いちおう5時までは教習をする予定なのですが……ちょっとお待ちください」
ここで配車担当の事務員さんと交代する。
事「3時からの教習キャンセルして、もっと早めの時間でもいいよ〜」
私「あ、え〜と、何時くらいが空いてますか?」
事「何時でもいいよ。今日は暇で困ってるんだよ〜」
すでにキャンセル続出しているらしい。
事「10時とか11時とかも空いてるけど」
私「あ、え〜と……」
想定外の事柄に対してすぐに判断を下せないタイプなので、11時に入れてもらおうか一瞬迷う。
事「仕事のほうは今日はどうなの?」
私「あ、今日はうちも暇です」
事「じゃ10時と11時に乗せてあげるよ」
私「あ、は、はい。じゃすぐ仕度して行きます」
最初の案件に関して判断を下せないうちに次の提案をされたため脳の思考が追いつかず、思わず条件反射的に話の流れに沿った返事をしてしまう。
そして電話を切ったあと、何ゆえキャンセルの話が連続2時間教習となってしまったのか悩む。
かくして大型台風が関東地方に上陸したこの日、私は今までのらりくらりと逃げ続けていた『雨天教習』と『連続教習』のふたつまでをも体験するハメに陥る。
教習所内は事務員さんのお言葉通り空いていた。
連続2時間教習なので配車券を2枚もらう。後半の1枚は超ラッキーなことにキレイなおネエさん教官だった。だが前半の1枚には初めての教官の名前。
知っている名前で『MY 要人リスト』にピックアップされている人物よりはまだ望みも持てるが、それでも初めての教官に当たると必要以上に神経がピリピリする(←トラウマになってる)
ちなみにここでの『要人』とはもちろん重要人物ではなく要注意人物のこと。
コース内の待合所にて強弱をつけながらも止むことなく降りしきる雨足を見つめ、「なんで、なんで私ここに居るの?」と、その昔したような覚えのある自問自答を繰り返す。困るくらい暇なんだったら教官ぐらいベストメンバーで取り揃えとけ、などと八つ当たりともとれる鬱屈とした気持ちを抱きつつ。
だが、いざご対面してみれば何のことは無い。中川家の弟を連想させるような雰囲気の、感じの良いオモロい教官だった。ひとまずはホッと胸を撫で下ろす。
けれども教官の感じが良かろうがオモロかろうが、こちらの運転が上手くなるわけではない。
雨の日の視界の悪さにビビりまくり、いつもにも増してボロクソな運転をする私。
幸いにも教習時間中に土砂降りだったのは少しの間で、概ね希望通りの小雨だった。それでもこれほど視界が薄暗くて見えづらいのには驚いた。そして教官は「仮免まで来てこれかい?」的な私のドライビングテクに驚いていた。
右折しようとして反対車線に一時停止しているトラックに気を取られるあまり、危うく左方の電柱にぶつかりそうになったらしく、心底ビビる教官。いくらスピードがさほど出ていないとは言え、目の前に電柱が迫って来た時の教官の心境は如何ばかりだったことか(←他人事)
続く2時間目は、1時間目の教訓を活かして(というより運良く)重大なミスもなく、キレイなおネエさん教官からハンコをいただき、これにて地獄谷巡りコースもようやく終了した。
最近、配車担当の事務員さんにマークされている(らしい)。
教習所に通い始めて早5ヶ月。その間、何人もの教習生が私の前を通り過ぎて行った(卒業していったとも言う)。
にもかかわらず、相変わらずのマイペースを保持し続け(期限内に卒業できればいいと思っている)、今やお局様になりつつある私を見るにつれ、「こいつ、この調子で本当に無事卒業できるんかい?」との危惧を持たれたとしても何ら不思議はない。
加えてここのところ微妙に相手ペースに乗せられている気がする。
例えば実技の配車券を引いていると「明日は○○時空いてるから来れる〜?」と声をかけられ、「○○時に(実技に)乗って次の時間の学科に出る」などと翌日の予定が組み上がっていたりする。
学科も残すところあと2時間(正確には3時間だが、うち1時間は要予約のセット教習)となったわけだが、そのうちの1時間がなぜ○○時の次の時間に該当しているのをご存知なわけ??
しっかりチェック入っとるな〜、と驚きつつ思わず「はい」と答えてしまう私。本当は翌日も来るのが面倒になっていたので、先延ばしするつもりだったのに。。。
しかもそうやって虚をつかれて入れてしまった予定外の予約というのは、なぜか苦手な教官に当たるというジンクスがある。
そして苦手というより、怖いもの。それは配車担当の事務員さんの笑顔だったりする。続いて発せられる「乗ってく?」のセリフとともに。。。
実技の第2段階では「複数教習」というものがある。これは読んで字の如く、数人の教習生が一緒に同じ教習車を使って指導を受けるというものだ。
この複数教習は予約制で、配車担当の事務員さんに申し出て事前に予約を入れなければならない。
「火曜日の9時か10時に来れる?」と尋ねられ、内心では「仕事休みの日に朝っぱらから??」とガックリしつつ(←この辺がすでに間違っている。仕事を持っている人なら普通は休みの日に来るだろう)その日が該当日ならば仕方が無いと予約を入れる。
そして当日。
教習所コース内での教習なら気も楽だし、1時限を数人で分担するのだから一人当たりの持ち時間も少なくて楽できる、などと高をくくって割り当てられた教習車の所へ行く。
しかし始業の合図が鳴っているというのに、いつまでたっても誰も来ない。教習生は私ひとり。
そこへ本日の担当教官が現われ、「はい、車に乗って〜」と。
いつもはさっさと車に乗って教官を待っている私だったが、今日は複数ということで助手席と後部座席のどちらに乗って良いのやら決めかねていたのだ。
しかしそんな迷いは少しも必要なかったと、すぐに思い知らされる羽目になる。
「あの〜、複数って聞いたんですけど、私一人なんですか?」の問いに、「複数でも一人の時は、一人でやりますよ〜」と教官。
複数といえば二人以上を指すわけで、こちらとしては予約を取る段階でこの日のこの時間にすでに何人か集っているのだと解釈していた。
予約を入れたのが土曜日だったため、この時間までに何人か集ると事務員さんが予想していたと考えられなくもない。
しかし微妙に謀られた気も。。。
次の予約を木曜に入れていたので、その前にもう1日入れちゃえ〜、みたいな??
疑えばきりがないし、そういう受け取り方は良くないのだろうが、疑惑はいや増すばかり。
さらに追い討ちをかけるように教官の口から路上という言葉が。
「えっ、構内じゃないんですか?!」焦る私。
「いんや、外だよ〜。構内の時は構内って書いてあるけど、書いてないでしょ。次の項目は構内だけど」
そう、何を勘違いしたのか、勝手にコース内だと思い込んでいたのだ。
ダブルパンチで一気に魂が雨雲の彼方に抜けていく。
かくして複数教習にもかかわらず、マンツーマンで雨の路上へと繰り出して行った私だった。
そんな1時限を終え、抜けた魂を呼び戻すため喫煙コーナーへ急ぐ私を、配車担当の事務員さんが笑顔で呼び止める。
「次、乗れるけど」
一瞬「うっ」となったものの、どうせ次の教習は構内だしと思っていささか油断したのが間違いのもと。
配車券を引くと、コワイ教官の名前が。。。
ああ〜、止めときゃ良かったと後悔するも時すでに遅し。
降りしきる雨の中、窓全開で「右だって右」「どっち回してんの」としぼられながら、右と左の迷路に頭を混乱させつつ(前向きでも分からない時があるのに、バックならなおさら分からない)車庫入れ練習をさせられたのだった。しくしく。。。
最後の学科講義を終え、シューベルト教官(そのココロは…子守唄)の睡魔に引きずり込むような講義ともこれでお別れなどと考えつつ、喫煙コーナーで送迎バスの発車を待つ間の一服をしていると、ガラス越しに外を事務員さんが足早に通り過ぎて行くのが見えた。
それから1分もたたないうちに、かのお姿はなぜか私の前に。
そして例の如く笑顔で「次、乗れるけど」
まさかと思うけど、送迎バスまで私のことを探しに行ってた??
次回の実技の予約は翌日にとってあったが、来たついでだから乗って行ってしまおうか。明日はまたもや台風みたいだし。
そう考えて「はい」と返事をしてしまったのが間違いのもと。
今回の教習内容は縦列駐車。「はっきり言って濡れます」と教官。
しまったと思ったものの時すでに遅し、私は車中の人。「昨日も濡れました〜」と笑うしかない。
そして昨日に引き続き降りしきる雨の中、窓全開。
しかもバックする過程でサイドミラーでの確認をするのだが、ミラーにびっしり張り付いた水滴でポールの確認ができないじゃあ〜りませんか。
まるでド近眼の人のようにミラーに顔を近づけ、居並ぶポールの一番端を必死に探す私。
ようやく1時限を終えてハンコをもらうと、次回は4時間連続教習となる。しかも恐怖の高速教習込み。
まさに地獄への門が開きかかっているとしか言いようがない。
さらに配車担当の事務員さんに連続教習の予約をお願いしに行き、「○○曜日、来れる?」などとその次の予約まで仕切られてしまう始末。
やはり事務員さんのペースに乗せられている。
さすが教習所の職員、車だけでなく人を操作するのも上手いらしい。。。