応急救護の講義を受けた。
3時間連続で履修する講義で1時間目が学科、2〜3時間目が実技。
内容は人工呼吸などの、その名の通り応急的な処置の仕方である。

学科にて「人工呼吸を始めた場合に、それを止めても良い時とは?」という質問があった。
講習生から「救急隊員が到着した時」「対象者が自発呼吸を始めた時」という答えが出る。
「あとひとつ、あるんだけど分かるかな?」と教官。
誰も答える者がいないので、ご指名を受けてしまった。
そして思わず「か、完全に死んじゃった時?」などと答えてしまい、張り倒されそうになる。
正解は、『その質問自体がフェイク』でした。

続いて実技の時間。
実技室に横たわる『キム』さんと、『エリザベート』さん  ←S教官が命名
この2体を使って心臓マッサージとマウスツーマウスの練習(心臓の動いている人に心臓マッサージを施すと、心臓だか肺が破裂するらしい)。
いざやってみると、これがまた容易ではない重労働。実際の時にはそれを20分でも1時間でもやり続けなければならないらしい。
無茶言うなよ、という感じである。そんなことをしたら、こちらが酸欠で倒れかねない。
そして駆けつけた救急隊員の仕事を増やす。。。みたいな。
ちなみに翌々日(←翌日じゃないところがミソ)からおおよそ3日間というもの、腹と腕の筋肉痛に悩まされた超軟弱者とは誰あろう私のことである。

恐ろしいことに、ついに路上教習の日がやってきてしまった。。。
例によって、今日がこの世の見納めと覚悟しつつ家を出る。

本日の担当はキレイなおネエさん教官。地獄に仏とは、まさにこのこと。
第二段階の路上教習は、まず車の点検から始まる。
「じゃ、最初にボンネット開けて」の声に、いきなりトランクを開ける私。何でもマークの付いているレバーを引けばいいってもんじゃない、みたいな。。。
(ちなみにボンネットのレバーにはマークは付いていない)
そしてウインカー点検の時にワイパーを動かす。さすがにこれは緊張で気持ちが舞い上がってしまったためのイージーミス。
ともあれ、ひと通りの点検を終え、いざ地獄の3丁目(路上ともいう)へ!

教習所から表通りまでは、しばらく細い道を進む。見通しの悪い細い道なので、もちろん徐行運転で良いのだが、私の運転はすでに徐行にあらず。
そのあまりのノロさに、この車クリープ現象で走っとるんか? みたいな。。。
しかも微妙に曲がりくねった、対向車が来たら路肩に避けなければすれ違えないような細い道の、さらには初路上の日に、なんでこんなとこで道路工事やってんだよっ! みたいな。。。
そして死ぬほど神経をすり減らしつつ(←この間距離にしてたかだか数百メートルあるか無いか)ようやく表通りに出るための交差点に到着、信号待ちの停車。
ここでふとバックミラーに目をやると、黒塗りの後続車が映っていた。しかもフロントガラスの所には、モノクロで印刷された菊の家紋マークが飾ってある。
後続車のご機嫌を損なわないよう、信号が青に変わると同時に、死に物狂いでテキパキと左折したのは言うまでも無い。

しばらく行くと大きくて急な下り坂。「怖いよ〜、怖いよ〜」とビビりまくっている割には、メーターの目盛りは時速60キロ。ビビるあまりブレーキを踏むのを忘れていた。

そんな精も魂も尽きていく私の、唯一の和みの時間は赤信号での停車タイムだった。
「赤信号で止まるたびに溜息ついてるよね〜」と言われてしまうほど、汗ばんだ手をズボンで拭い拭い溜息の嵐。
しかし、いつまでもあると思うな赤信号。
前方に赤信号を発見して「ああ〜これで一息つける〜」と喜んでいると、たどり着くまでに青に変わってしまったりする。。。

路上に出て意外だったのは、時速40キロのスピードがそれほど速いと感じなかったこと。
これは以前に動物病院のスタッフのかたからも「路上の方が怖く感じないかもよ」との話を聞いていたのだが、限られたスペース内であらゆる道筋を設定する教習所内のコースは必然的に小回りが多くなる。それに比べて路上は直線距離が長いので、あまりスピード感を感じなくなるらしい。
それが証拠に、「法定速度が20キロになったら路上に出てもいい」などと言っていた私が、50キロ制限の直線道路で前方を走行する車も無い時に「なんかノロいな〜。もう少しスピード出したい」などと、一瞬とはいえ思ってしまったのだから。

だが、そんなことを思ったからとて運転に自信がついたわけではない。
前方に赤信号を発見して200メートル以上手前から減速してしまい、「なんでこんなところでブレーキ踏んだのかな〜?(←理由はすでにお見通しだが一応聞いてみた、的な感じ)と教官に尋ねられ、「前方が赤信号だから…」と答える。
そして教官いわく「こんなところから減速する割には停止のブレーキを踏むタイミングが遅いんだよね〜。減速はもっと接近してからで良し。そして停止前のブレーキのタイミングをもう少し早く」
お説ごもっともです。そんなに手前からブレーキランプを点灯させられてちゃ、後続車も「こいつは何がしたいわけ?」と、悩むというもの。しかも「とろとろ走ってるんじゃないよ」くらいには思われている。

そんなこんなでようやく本日の路上を終え、教習所に帰ってきた。
所内のコースに入る時、教官に「そこを左折ね」と指示され、「はいっ」と元気良く答えながらウインカーを右に出し右折しかける。
「あなた、オモシロすぎっ♪」と教官爆笑。
このときなぜ右折しようとしてしまったのか?
それはようやく教習所に帰ってきたということでホッして気が抜けてしまったことと、なぜか先回りして「こっちに曲がるんだろう」などと勝手に思い込んでしまったためと、とどのつまりは咄嗟に左右の判断ができなかったためである。
仮免にもなって、まだ右と左が分からんのか! みたいな。。。

路上第2回目。本日の担当はS教官。
キレイなおネエさん教官に引き続き、地獄に仏とはこのことである。
なぜならこのS教官とは、キレイなおネエさん教官を僅か0.1ポイント差で抜き、私が教習所内で一番好きな教官なのだ。
なにゆえに年の頃なら50代(?)の、このオヤっさん教官が、やさしくて美人のキレイなおネエさん教官をも押さえてbPの座に輝いているかというと、それはひとえに教習所に通い始めた頃に起因している。
実技3回目か4回目に初めてS教官に当たったのだが、微妙にスベるオヤジギャグをテンポの良い口調に織り交ぜつつの指導に、ビビりまくっていた気持ちがリラックスしたのはもとより、それまでさっぱり分からなかった『車の運転』というものがいくらかでも理解できるようになった。
それがなんだかものすごく救われたような気がしたのだ。
おかげで嫌で嫌で仕方が教習所がちょっと好きになり、頑張る気もちょっと出たという次第。
てなわけで、その後どんなにやさしくて丁寧に指導してくれる教官に出会おうが、私の中ではやはりS教官が燦然とbPに輝いているのである(←実はけっこう恩義を感じるタイプだったりする)

前フリはさておき、まずは車の点検である。
「はい、ボンネット開けて〜」の声に、今回はさすがにトランクそこ開けなかったが、今日も今日とてボンネットを開けるレバーが分からない。
たしかこの辺とハンドルの辺りをゴソゴソまさぐる私を、「あちゃちゃ〜、な〜〜にやってんの〜」的に車外で見下ろすS教官。
この時間、他にも2台の教習車が同じ場所で路上に出る準備をしていたのだが、ボンネットのレバーを探しているうちに他の車は点検終わり! みたいな。。。
しかしそこは何といってもS教官、大幅な遅れを取り戻すかのように、ものすごいテンポの良さで点検を終了し、あっという間に他車に追いつく(はい、次 はい、見た はい、オッケー的なテンポの良さ。いつもこんな感じのノリ)。
かくして路上へいざ行かん!

路上を運転していると、他の教習車に行き会うことがある。
この時、教官同士はすれ違いざまに軽く手を上げて挨拶し合うのだが、S教官に「はい、あなたも手を上げて挨拶して〜」と言われ、「騙されてる??」といくらか疑いつつも、思わず条件反射的に手を上げて挨拶してしまった。
そして完全に通り過ぎてから「いや〜、向こうの教官もびっくりしたと思うよ。教習生まで手を上げて挨拶しちゃったんだから〜」といかにも満足げ。
やっぱり騙されてたか。。。

十字路を右折した時のことである。
なぜだかセンターライン(しかも黄色の)と道路の端に引いてある車道外側線を見誤り、一瞬だが対抗車線に飛び出してしまった。
この時も「あっ、間違えちゃった!」と焦る私に対し、「だぁ〜いじょうぶ だいじょうぶ〜(←ムツゴロウさんの、よぉ〜し よしよし♪ のノリ)」と、びくともしないS教官。
対向車がまったくなかったので良かったが、実際の話、たぶん大丈夫ではないと思う。。。
って言うか、それよりも何よりも以前に、普通は中央に引いてあるセンターラインと、車道の左端に引いてある車道外側線を見間違えようったって見間違えないだろ〜 みたいな。。。
すでに「だいじょうぶ〜」以前の問題であり、さすがに己のアホさ加減に愕然とする私。

走行中に日差しの眩しい箇所にさしかかり、S教官に日よけを下げていただく。
その日よけを見てふとあるものを思い出し、思わず口にだす。いわく「ブリンカーみたい……」
「ブリンカー ブリンカー ……」としばし考え込むS教官。そして「あっ競馬ね!」と閃く。
そこから教官と私の競馬談議が始まった。
「私、田原騎手が好きだったんですよ〜。
汚れた英雄になっちゃいましたけどね〜」
「あ〜」
「田原騎手といえば、あのトウカイテイオウとか〜」
「そうっ! そうそうそう〜♪」
まともに運転できないくせに、ずいぶん余裕じゃ〜ん みたいな。。。

ともあれ、お茶目なS教官のおかげで、なかなか楽しく教習時間を終えることができた。
2回目の路上で多少なりとも慣れてきたという事と、交通量の少ない道を走っていたということもあり。

が、世の中やはり甘くない。
終わりしなにS教官の言った言葉。
「今後なんだけどね〜。次回は○○の辺り(交通量の多いとこ)を走って、その次が××(同じく交通量が多いとこ)だね〜」

しくしく。。。のひと言に尽きる。