久しぶりにK教官に当たった。
K教官とは以前に3連チャンで当たった例の御仁であるが、この教官とは赤い糸(腐れ縁、人柱とも言う)で結ばれているようで、今後もしばしば当たり、なおかつネタを提供してくれそうな気がするので、イニシャルで呼ぶことにした。
K教官とは3週間ぶりくらいであったろうか。
「どう、進んでる?」と笑顔で訊ね、私が答える前に原簿を見つめて無言。すでに笑顔は木っ端微塵。
そう、原簿のハンコはあれから2時間分しか教習が進んでいないことを如実に物語っていた。
要するに全然進んでないわけ。
学生諸君が夏休みに入って予約が取りづらくなったこととか、母が一週間ほど旅行に行っていた間これ幸いとサボっていたことも確かに要因ではある。
しかしそんなことが有ろうと無かろうと進む人は進むわけで、フリーズしてしまった教官の気持ちも分からないではない(←けっこう他人事)

それはさておき本日の教習その1は『急発進と急ブレーキ』
教習コースの隅っこに段差を設けた場所があり、そこがこの惨劇の舞台となる。
どういう内容なのかというと、思い切りアクセルを踏んで段差を乗り越え、乗り越えた瞬間を捉えて瞬時に急ブレーキを踏むという恐ろしいものだ。
段差の3〜4メートルほど前方には教習所の敷地を区切るフェンスがあり、道を挟んですぐに民家があるのだから、思わず「フェンス突き破った人います?」と尋ねてしまうのも無理からぬこと。
ちなみにこれは練習というよりも、急発進と急停車の感覚を体験するところに主旨があるらしく、一人につき一回しかやらないとのこと。内容からして、一回しかやらないのも頷ける話。
常々思っていたことだが教官などという、いつどこで道連れをくうか分からない仕事に夫が従事していたら、妻としては生命保険にも余念がないんだろうな〜なんて。
教習所の教官とはまさに命懸けの職業であろう。
そして急発進で思い切りアクセルを踏み込むまさにその刹那、教官と私の心は確かにひとつになっていたのだと確信する。
すなわち「こんなところで、こいつと心中したくない。。。」
しかもビビるあまりに急ブレーキを踏むタイミングが早すぎた私、段差をちゃんと乗り越えることができず、一人につき一回しかやらないという有り難い授業を二度までもやる羽目に。。。

さらに教習コースを走っていて、いまだに対向車などとの優先関係が良く分かっていない。
そこで教官の様子を窺って判断の材料にするものだから、K教官に「頼りすぎる」と注意を受ける。
そもそも免許を取ったら全てを自分ひとりの判断でしなければならないわけで、いちいち教官に依存していたら、いつまでたっても埒があかない(教官付き、しかも助手席ブレーキ込みの車が欲しいという寝言は、当然軽くいなされた)というのがK教官の弁。お説ごもっとも。
そこでK教官いわく「これから後半の時間は、もう何にも言わないから自分で判断して」
そして教習終了時、「今日は心を鬼にして口出ししなかった」と。
つまり、心を鬼にしなければならないほど、ツッコミどころ満載というわけね。

なんと、家の近所に送迎車の停留所ができた。
これで炎天の中、汗とともに魂を吸い取られながら通わなくとも済む。
そして送迎車に初乗車の日がやってきた。
教習所からもらってきた時刻表には「遅れることはあっても早く来ることはありません」と書いてあったが、初めて乗ることだし、もし乗り遅れたらアウトなので早めに家を出る。
41分発の予定の停留所に着いたのが32分頃。ちょっと早すぎたかな〜と思う間もなく、35分頃に送迎車の姿が。
「あれ、別路線のバス?」と思いつつ手を上げて合図を送る(この停留所には2路線の送迎車が停まる)。
送迎車の運転は教習所の教官が交代で行っているのだが、車に乗り込むと初対面の若い教官がハンドルを握っていた。
とても愛想の良い教官で、何某か話し掛けられ、その流れから「今日、初めて利用させていただくので、時間に余裕を持って来てました」と言うと、「いい心がけだね〜」とその教官。
教官いわく「早く来ることは無いなんて書いてあるけど、試しに時間にこだわらずに路線を運転してみたら35分に着いちゃうんだよね。僕が運転する時は午前中は30分、午後は35分て覚えといてね〜」
つまり時刻表の但し書きを鵜呑みにして40分頃に到着していたら、乗車人は誰もいないと見なされ、置いてきぼりをくっていたわけだ。
そりゃあなた、笑顔で「覚えといてね〜」と言われても何かが間違ってるよ。しかも交代で運転してるのだから、いつ「僕が運転する時」なのかなんて私に分かるはずも。。。
そして「もし時間になってもバスが来ない時は教習所に電話してくれれば、無線で送迎車に連絡が入るから、戻ることもできるし」と。
それはムリ! 携帯持ってないもん。公衆電話も近くに無いし。家に戻って電話しろと??
さらにその教官、「自分が教習生だった頃、やっぱりバスに行かれちゃったことがあってさ〜、慌ててタクシー拾って行ったよ〜アハハ〜」と。
タクシー拾って行けと??
時間通りに来てその仕打ち、やはり何かが間違ってる。。。
しかしながらガンガンにクーラーの効いた送迎車の中は快適で、運転する教官は愛想が良く親切だったので、別に敢えてツッコミ入れなくても、まあいいかと。。。

某月某日、教官が笑顔で「次、みきわめ(仮免試験の前に今までの教習ができているか『みきわめる』こと)ね〜」とハンコをくれた。
みきわめ教習にビビりながらも「どうせ一発でOKになるわけないしぃ〜」と自信も満々に思っていたら、「次、仮免試験ね〜」と一発OKが出てしまった。

この日、教習所のコースは不吉な空気に包まれていた。いきなり走行中の車を包み込まんばかりのスズメバチの大群に遭遇したり、道に何か落ちていると見れば轢かれたての子猫の死骸だったり。。。
しかも子猫は反対車線に倒れていたので運転席から丸見え。教官と二人、ビビりながら「さっきは無かったよね、さっきは無かったよね」と繰り返す。
子猫にしてみれば教習所のコースもへったくれもあったものではないが、それにしても何もこんなところで轢かれてなくとも。。。
轢いたのは99%私ではないと思うが、もしも轢くなんて恐ろしい事態に遭遇していたら、その時点で間違いなく教習所を辞めていたね。

だからOKハンコをもらった瞬間、あの不吉な出来事はこのことを暗示していたのだと。。。
そしてこの時点でみきわめのビビりは仮免検定のパニックへと移行。
しかし仮免試験に臨む前に練習教習の時間をとっても構わないと教官に言われ、天からの声とばかりに3時間は練習することに決めた。
ところが受付で仮免実技の予約を入れる際に、何しろパニくっているものだから、「一番早いので○○日(2日後)に出来ますよ」と事務員さんに言われ、思わず「それでお願いします」と言ってしまった。
さらに事務員さん「実技試験に受かれば、午後からの学科試験を受けられますから」と。
なぬ?! 学科だぁ?!!!
一段階目の学科講習が終わった時点で中間試験というのをやり、あとは本試験まで学科は無いものと思っていたのに(←説明書をよく読んでいない証拠)。
どうせ実技が一発で受かるわけもないからと思いつつ、それでも試験前日に学科の一夜漬けを宣言、決行する。
……つもりだったのだが、教本を開くと、どうしてこうも眠くなるのだろうか。
結局、睡魔に耐え切れず、午前1時には寝てしまった。
一夜漬けならぬ1時漬け。。。 ←オチ

ついに仮免の検定の日がきてしまった。。。
折りしも大型の台風が気象情報を賑わせている最中。千葉方面には直接は来ないものの、天候は確実に影響を受けている。てなわけでこの日は朝から雨が降ったり止んだり。
待合室で検定が始まるのを待っていると、突然本降りに。今年は空梅雨だったこともあり、これまでの実技教習で本格的な雨に見舞われたのは初めてのこと(パラパラくらいはあったけど)。
つまり雨の日の走行経験がない。それが、ただでさえ寿命も縮まる検定の日に雨だなんて、やはり日頃の行いの賜物だろう。

この日、普通車の仮免検定を受けたのは私を含めて6人。2台の車にそれぞれ3人ずつ割り振られ、受験者の次の番号の人が車の後部座席に乗るよう指示された。このことの意味について説明はされなかったが、他人の運転も見ておけということだろうか。
ただでさえビビっているところに、2人の試験官のうちの苦手なほうの教官(嫌いなのではないが、ちょっとぶっきらぼうなので何となく苦手。小○亜星に似てる)と当ってしまい、このうえさらに後部座席に他人を乗っけるなんざとんでもない話だ。
しかしながら私の受験番号は一番最後。後ろはいない。ラッキー♪
そう思ったのも束の間、世の中そんなに甘くない。亜星教官が最初に受験した人を手招きし、「それじゃきみ後ろに乗って〜」と。
そして後部座席に乗り込んできたのは年の頃なら19〜20歳の青年、まさに教習適齢期として脂の乗り切った年代である。そんな人に背後から見られているなんて、これがプレッシャーでなくて何であろう?
しかし後部座席に青年が乗っていようが、座敷わらしが乗っていようが発進しなければならない。
エンジンをかけ、慣らし運転ののち、いよいよ本番。
最初はコースを周回。これはただ普通に走るだけなので、なんとなく出来た。40キロ出せと指示されたところでも、ほんの一瞬だが40キロ出せた。たとえそのあと減速が遅れてカーブでふらつき、直後の障害物を辛くも回避したとしても。

そして事件は2周目に起こった。
右折して踏み切りを通過するという段取りで、踏み切り通過の手順に気を取られるあまり、うまく曲がりきれずに縁石に乗り上げてしまったのだ。このまま進んでしまうと即失格。慌ててブレーキを踏むが、手ごたえ的にはブレーキが効くまでに1m近くは進んでいたと思う。
かなり焦りはしたものの意外にもパニックには陥らず、ある意味冷静に、黙々とレバーをリバースに入れる自分がそこにいた。
少しずつ、ゆっくりと車をバックさせていく。ところが、途中で車が止まってしまった。空しくバックする時の「ピーッピーッ」という音だけが響く。
お待たせしましたっ♪ とばかり、ここで大パニック。なんで? なんで動かないの?? と焦る一方。
背後から「ああ〜、気の毒に」的な同情の空気が流れてくる。
その隣で亜星教官、「早く戻って続けてー」とめちゃめちゃ冷静にひとこと。
「戻れるものなら戻っとるっつーの」とは内なる心の声。
しかしこれは検定試験、どんなに窮地に陥ろうと教官は一切助言をしてくれない。自分の裁量でなんとかしなければならないのだ。
と、ここでふと閃いた。そうだ、アクセル踏んでみよう。
すると車が再びバックし始める。めでたしめでたし。
されどおめでたいのは私の頭のほう。アクセル踏まにゃ車は動かんつーに。最初しばらく動いていたのはどうやらクリープ現象のためだったらしい。
ちなみにこのクリープ現象というのはアクセルを踏まないでも車が自然に動き出す現象のことであるが、以前に教官の「何現象っていうのかな?」の問いに、「スリープ現象? あれ、クレープ??」と答えてしまった大バカ者とは私のことである。まあ、スジャータと言わなかっただけ良しとしよう。

その後は目だったポカもなく、S字もクランクも奇跡的に切り返し無しで通過。
ちなみに大バカ者第2弾。S字やクランクというのは車一台分の道幅しかない曲がりくねった狭路コースのことで、緩やかなS字を描いてカーブしているのを『S字』、直角にカーブしているのを『クランク』と呼ぶ。
しかし私は『S字クランク』でひとつの言葉、狭路コースの名称だと思い込み(←運転教本読んでない証拠)、教官の「クランクはもうやったの?」とか言った内容の質問に対して、「緩やかなカーブのほうは…」的な答え方をしてしまった。
話かみ合ってないし〜 教官怪訝な顔だし〜 みたいな。。。
正しい意味をいつ知ったかというと、仮免実技が終わったその日の夕方、犬を散歩させてて「あ、なるほど〜」と突然閃いた(遅いっつーの)。

ようやく終点に到着し、車を降りた時には魂が7割がた抜け出てしまい、生きる屍状態。
そして結果発表。なんと全員合格!
全員ということは、つまり私も含まれているということ。裏を返せば、私が合格したのだから他の人が落ちているはずもなく。
しかしオチもつけずに、このままあっさりと仮免を手にしているようでは私じゃない。
というわけで学科で落ちたとも(10人中、半数が沈没)。
YOKOさんの「だっさ〜」と豪快に笑う姿が目に浮かんだ。

教習証の学科試験の合否欄は4コ。つまり4回以内に合格すれば上に追加の紙を貼られずに済む。
ということで学科試験第2回目。
今回の受験者は5人。私の受験番号は4番だった。
会場は30人ほど収容できる教室で、机の右端に受験番号のプレートが付けられている。5人並びの4番なので、席は後ろから2番目。
ところがすぐ真後ろに箪笥サイズの古びた冷房機が設置されており、冷たい風がスースーと私の横腹に吹き付けられてくるではないか。
これは試験中にお腹の調子が悪くなっても困るぞと思い、試験官(教官)に隣りの空いている席に移っても良いかと尋ねる。
しかし、それはできないらしい。どうせ端の一列しか使ってないんだからいいじゃん、と思うのだが、まあ内々の試験ではなく公式な類のものなので色々とあるのかも。
試験官いわく「この時間中は冷房を止めとくことはできるけど」
そりゃあんた、無茶というもの。試験を受けるのは私だけではないし、完全に冷房を止められたら私だって暑くて仕方がないだろう。
「でも、それは他のかたに迷惑がかかるから…」と、試験官の迷案を辞退。この時点で私は他の受験者の注目の的。。。
結局、風向きを調節してもらうことで事態は解決を見た。

そして結果発表。
今回は前回よりも解答に自信の持てる問題が多かったので、それなりに「受かったかな?」とは思えたものの、やはり「自分だけ落ちてたらどうしよう」という悲観論もぬぐえない。
一人でも道連れがいれば良いが、自分だけ落ちるというのはどうにも恥かしい。司法試験ならまだしも、たかが仮免試験で、しかも私が最年長っぽいし。
試験の合否は教室に戻って自分の受験番号に丸印がついているか否かで分かる。そしていの一番で教室に到着して確認すると。。。
あったよマルが。しかも受験番号4番のとこだけ。。。
ある意味、道連れは誰もいなかった。
しかし試験直前に冷房でゴネて、試験前のピリピリした空気を乱した張本人だけが合格しているとは。
他の受験者の皆さ〜ん、あれは決して動揺を誘うための陽動作戦なんかじゃなかったんですよ〜!! みたいな。。。

ちなみに学科試験は、問題の90パーセント以上を正解しないとパスできない。○×式の解答で、どっちか記入しておけば50%の確率で正解をGETできるのだが、毎回合格率が悪いらしい(みんな勉強してないから)。
仮免試験は50問なので45点以上で合格。そして今回の成績は46点。ギリギリ。。。
しかもこの答案は免許センターだか公安課だかに提出して、初めて正式な認証を受ける。その際に採点ミスが発覚してひっくり返ることもあるそうだ。

この日、仕事が入ってしまったので今後の説明を受けてすぐ帰宅してしまい、その後まだ教習所を訪れていないので仮免が認可されたかどうか定かではない。
しかし、もし仮免が取れていれば、近日中に路上教習が始まる。
『仮免許 練習中』のプレートより、『危険(人)物 登載中』のプレートが欲しい今日この頃。

仮免許どころか正式な免許を持っている人間は、この世にごまんといる。
ゆえに「仮免受かったんだ〜 すごいね〜!」と友人たちに褒められるのは私ならではのことであろう。
この私が実技の一発合格などまさに珍事、世も末。

そんな折も折、YOKOさんとオフ会での送迎の話になった。
「なんなら私が運転しましょうか?」と私。
もちろんこれは単なる冗談だが、実際問題として『仮免許 練習中』のプレートを付け、YOKOさん(その車を運転することのできる免許を取って3年以上経つ人)に助手席に乗ってもらえば、実は法的には仮免の私が公道を運転しても問題がない。
「絶対に嫌〜っ!!」と言いつつもYOKOさん、私の「教習所からプレート借りてきますよ〜」の言葉に、「そんなのダンボールに書いて貼っときゃいいんだよ〜」とけっこうノリノリ。
(ちなみに教習以外のところでプレートを付けて練習中に事故を起こされたら大問題なので、私の通っている教習所では絶対に貸し出さない)
しかしながら、あのピカピカな高級ステーションワゴン車に、油性ペンで『仮免許 練習中』と書きなぐったダンボールを貼っていたら、別の意味でコワくて誰も近寄れないのではないだろうか。

送迎車には他に誰も乗っていなかったこともあり、運転席の教官としばし雑談。
その会話ついでに出てきた教官のひとこと。
「まだ居たんですね〜。とっくに卒業したのかと。。。」
教習所に入所して早4ヶ月。気の利いた人間ならとっくに卒業している月数である。
なのに私はまだやっと仮免に受かったばかり。そしてちっとも焦っている様子が見受けられない。
教官いわく「12月中には卒業しといたほうがいいですよ〜。1月になると大混雑しますから」
1月〜4月の月というのは新卒の学生たちが押し寄せるので、教習所の混雑もピークに達する。
そして私の教習有効期限は来年の2月まで。
4ヶ月かけてようやく仮免にたどり着いた人間が、果たしてあと4ヶ月で卒業できるものだろうか。
神のみぞ知る。。。