3回連続で同じ教官に当った。
その教官とは。。。
「これからは甘えは許されないからね〜」と第一声で言った教官。
「でも運転下手じゃないよ」と爆弾発言をした教官。
「あと○○時間で第一段階仕上げちゃおう(←今後一時間も落とさない計算の時間)」と笑顔で無茶な気合い入れした教官。
けっこうズケズケとキツめの言い方もする教官だが、私的には良い教官だと思っている。
その物言いに決してネチネチしたとことがなく、言いたい放題を言ってくれているように見えて、ちゃんと「良くできたじゃない」とか「頑張ったね」とか労いの言葉も忘れないでかけてくれるのだ。

ここに至り、あれ以来虎視眈々と狙っていた『マジギレ逃亡計画』は、ひとまずは頓挫している。

そして今回、幸か不幸か4回連続の記録更新はならず、配車券に新しい教官の名前。
野外のベンチで始業を待つ間、またしても教官詰め所に出入りする名も知らぬ教官たちに対して「こいつか? それともこいつか?」と理不尽なプチガン飛ばし視線を送る(←クセになってる)。
例の二人の教官たちはもとよりだが、これまで当った事のない教官は全員が敵に見える次第。
車のエンジンかけるよりも速く、マジギレ回路のエンジンかけまっせ〜 みたいな。。。

そして今回の実技を担当してくれたのは、やんわりとした物言いの、いわゆる『やさしいお兄さん』タイプの教官だった。
息をもつかせぬビシバシ教習のあとの、ちょっとひと息的な和やか教習のうちに実技は終了。
終わりしなに教官が原簿を見ながら訊ねる。
「今日ハンコ押しちゃうと次回は無線教習だけど、どうする?」
もちろん「押さないでくださいっっ!」と頼んだともさ。

ついに運命の人と巡り合う。
配車券を引いたとたん、そこに記されている担当教官の名前を見てこめかみに交差点が浮き上がる。
それもただの交差点ではない。巨大なスクランブル交差点。
そこに記されていた指導教官の名前こそ、初めての運転で当った例の教官に他ならない。
喫煙コーナーで煙とともに闘志を吐き出しながらその名前にガンを飛ばし、教習所通いも今日を限りかも知れないと、すでにやる気満々。あたかもコブラVSマングースの様相(顔の造作的には私がコブラであちらがマングースか)。
常日頃よりただでさえ乏しい体力の身に週2回の教習所通いは多大なる負担を強いているうえに、連日の猛暑でイライラ度満開。ここで会ったが百年目、休憩時間を全て費やして頭の中ではマジギレ シュミレーションに余念がない(相変わらず運転シュミレーションはしない)。
そんな私にさらなる力を与えてくれたのが、その日の夜にサナっちさんとYOKOさんと焼肉を食べに行くという計画だった。
焼肉は大好きなものの、元来が出不精なのでなかなか機会に恵まれず、おそらくは1年以上ぶり。しかもサナっちさんが「美味しいお店があるから」と誘ってくださったからには、これは間違いなく美味しいお店なわけで、「これが終われば焼肉〜♪」と勇気百倍。

かくしてついにゴングは鳴り(始業の合図ともいう)、闘いの火蓋が切って落とされた。
車に乗り込んでくる教官に対する「よろしくお願いします」の声が完全にオクターブは下がっている。
「これまで、どんなところを注意された?」の問いに答えるその低音は、宝塚の男役よりも低い。
そして左折時の車の幅寄せに対して「歩道との距離は?」と質問されて「1m」と答えると、「じゃ、何のために幅寄せするの?」とさらなる質問。バイクに割り込ませないためと答えると、車を止めた教官が「ドア開けて見てみて」と。
そこにはたしかにバイクが割り込めるに十分な隙間が。
普段の私であればここは「ごもっともですぅ〜、教官様の仰る通りでございますぅ〜(揉み手)」的な態度をとる場面なのだが、この教官に当った時点ですでに半分キレかかっている私。
「1mって教わりました!」と態度もデカく口答え。
「1m未満ね〜」と補足訂正しながら再度幅寄せ、停車し直す教官。今度はバイクが割り込めない幅に修正されており、これには私も同意する。
この一件で悲願の(?)マジギレ カウントダウンが始まったと思いきや、その後は教官の質問にもさほど間違えずに答えられ(たまたま前回の教官に訊いてあった)、たとえ間違えていても高飛車な態度で素直に己が間違いを認めて答え直し、相変わらず会話の声は地獄の底を這うような低音だったものの、予想外に気持ちが軟化を見せ始める。
「今のは目視じゃなくて脇見運転ていうんだよ」などと言われても、「その通りです〜」とヘラヘラ笑いまで浮かべてしまう始末。
運転のイメージトレーニングをする間も惜しんであれほどマジギレ トレーニングを重ねたというのに、なぜ待ちに待った決行時に不発に終わったのか?
それはおそらく教官が態度を控えたからではなく、受け取り手側のこちらの神経が鍛えられたからではないかと推察できよう。
恩師はもちろん3連チャンで当った、かの教官。運転指導もさることながら、どういう言い方をされようが萎縮せずに負けない心をも鍛えてくれたのだ。
そして勝因は「1m未満」の時にすんなり負けを認めなかったことと、喧嘩して辞めても私的にはむしろ歓迎という強みと、すでに頭の中でジュージューと音を立てている焼肉!
そう、マッキ―も歌っているではないか「負けないこと♪」と。

かくして一大計画の目論みはあえなく空振りに終わったものの、この運命的な再会が私に妙な度胸と自信をつける結果となってしまった。
ちなみに教習所とは教官と張り合う場所ではなく、車の運転を習うところである。

そして夜、待ちに待った焼肉タ〜〜イム♪
そこは一見すると見落としてしまいそうな小さな間口の焼肉店で、ドアを開けるとここは仙人の里か?と見紛うほど、もうもうと白い煙が店内に立ち込めていた。今どき無煙装置も使っていない。
にもかかわらず客が入っているのはなぜか? 答えはおのずと知れており、期待に胸わくわくである。
そしてその期待は裏切られることなく、満足のうちに全員の胃袋を満たしていく。

ここでサナっちさん、「次回オフ会では(私が運転するので)ビールを飲めるわ〜♪」と。
ぎょえっ、なんて命知らずな爆弾発言と思いつつ、YOKOさんと声を揃えて「ムリ、ムリ」
しかも次回オフ会といえば9月の下旬に開催予定で、7月も終わろうかというこの時期にいまだ1段階を半分近くも残している身、そもそも免許は取れていないと思う。思う、というより断言。
(ちなみに教習所の段階法であるが、以前は4段階まであったそうだが、私の受けている教習は所内実技の1段階を終えると仮免試験があり、2段階で路上という区分になっている)

さらにサナっちさんのお嬢さんの「○○だから××じゃないんですか(←話の内容は忘れた)」に、YOKOさんが「それは普通の人の話。この人の場合は普通じゃないから。右と左が分かんないし〜」と即答。
さすがに良くお分かりで。
実はこの日の教習でも交差点で右から直進してくる車と鉢合わせし、車を一時停止させてしまった。
教官に「どっちが優先?」と訊かれて「あっち」と答えてしまい、「本当に?」とたたみかけられる。
今回の場合には交差する道幅などの条件が同じなので、正解は『左方優先』に従ってこちら。この時にも思わずハンドルから右手を離してじっと見つめて確認し、「こちらでした」と言い直す。
『走れども走れども 我が判断アテにならず じっと手を見る』の相変わらずぶりであった。

のらりくらりと逃げまくっていた無線教習の日がついにやってきた。
前回の教官が「(やり直し項目を)今日で終わらせちゃおうね」の宣言通り、本当に終わらせて有無を言わさずハンコをくれたからである。
ちなみに無線教習とは教習生が一人で車に乗り込み、教官は火の見やぐらのような司令塔からそれを監視し、無線で指示や注意を送るという至ってシンプルだが3年は寿命が縮まる恐ろしい教習である。
それはもう私にとっては地獄の4丁目(←なぜ4丁目か? それは東村山でさえ1丁目に行くには4丁目から3丁目を経由しなければたどり着けないという、高い年齢層の人にしか理解不能であろう、まるで意味のない根拠に基づいている)。
ただ、唯一の救いは配車券に記された担当教官の名前。誰あろう、以前に一度お世話になった『キレイなおネエさん』教官。この人ならばミスった場合にも威圧的な叱責の仕方はまずしないはず。
ただでさえ命綱ともいうべき教官不在の単身乗車に貴重な寿命が3年も縮んでいる。しかも常に監視されているのだということは、ある意味ホッとする反面、精神的な圧迫感をも感じるのも否めない。
そんな状況下で威圧的な叱責を受けたら、頭の中が真っ白になってとんでもない事態を引き起こすのは必至。
前の時間の教官は言っていなかっただろうか。「無線教習で焦って標識とかに突っ込んでいく人っているんだよね」と。
そりゃ私かい? てなもんだ。

この日この時間に無線教習を受けたのは私を入れて三人。
教官の説明を受けたのちに縦列駐車してある3台の車に各々乗り込む。ところが相変わらずツメの甘い私、説明時の立ち位置をしくじって暗黙のうちに先頭車両へ。。。
先頭車両ということは、私が先頭を切って走るってことじゃん!(3台とも同じコースを走る)
もう最悪。この時点で寿命の短縮過程が4年に更新された。
どんよりとした気分で車に乗り込み、座席を調節しようとすると。。。
な、ないっ! 手が空しく空を切り、座席調節レバーが見つからない。そんな実に些細なことでも、もう大パニック。
慌てて車から降り、物見やぐら(司令塔ともいう)の外階段を上りかけていた教官に向かって叫ぶ。
「す、すいませ〜ん! 座席のレバーがないんですけどぉ〜」
キレイなおネエさん教官が「反対側は?」とひとこと。そう、レバーはまんまといつもの反対側に付いていたのだ。
されど私とて、とことんのアホではない。実は助けを求める前に反対側も手で探っている。
不幸だったのはレバーがいつもよりもすっきりコンパクト収納されていたこと。それゆえに手に引っ掛からなかったのだった。
とことんのアホではないが、とことん応用のきかないタイプである。
そうこうしているうちに後続の2台はさっさと先に発進してしまい、結果として最後尾からのスタートと相成る。ラッキ〜♪♪
だが先頭を走ろうがしんがりを走ろうが、運転技術が向上するわけではない。
優先道路を直進していながら右折車を待って一時停止していたり、直進車の進路妨害をしつつ右折したりと華麗なるドライビングテクはこの日も健在。挙げ句に内輪差を無視した左折で歩道に乗り上げたにもかかわらず強引に前進(脱輪した時点で停止しなければならない)。
無線から車内に響く「進んじゃダメでしょ〜」の声。
この無線通信は一方通行となっており、教官の指示や注意はこちらに届くが、こちらからの声は教官には届かない。にもかかわらず「すみません、すみません」とフロントガラスに向かってペコペコと頭を下げつつ謝る私。
さらに言えばだいぶ早い段階から周回遅れとなり、ノロノロ運転で先頭を走行しているマニュアル志望の若者の行く手をも阻む。

しかし今回華麗なるドライビングテクを披露していたのは私だけではなかった。
T字路を右折しようとするこちらよりも、ひと足先にその場に到達していた対抗車線の大型教習車(教官付き)。カーブ直前で一端停止しながら点滅しているウインカーはひたすら右。。。
このT字路で曲がろうとする場合、こちらに右折しか行き場が無いのなら、対抗車線の車には左折しか行き場が無いはず。
あんた一体どこに行こうというのだい?
しかも大型車ということは、当然のことながらすでに普通車免許は取得しているはず。
対向車が左折するなら『小回りの左折車優先』の指導に従って先方に優先権があるのだが、大型車は相変わらず一時停止したままウインカーを右、右、右。。。
ああ〜、私に一体どうしろっちゅーねん!
やがてしばしの竦み合い(?)ののち、その大型車は無事に左折していった。

そして時限終了後、青春ドラマ風の爽やかな口調で教官から「こら〜、停車しなきゃダメじゃ〜ん」と一人だけダメ出しされる私。
反射的に「すいません、すいません」と謝るものの、すでに抜け殻と化した身には教官の注意も柳に風。

頃は8月も目前の盛夏、道のあちこちに脱ぎ捨てられた同胞が転がっている。。。