嫌々通っている教習所であるからして、もちろん費用を自分で納めているはずもない。
父いわく「教習所にかかる費用は全部出してやるから」
いい歳をした大人(私)に対して、ある意味太っ腹な発言であるが、その分の金額を「ほれ小遣い」と言って現金でくれたなら、心底から「いいお父さん」と認めよう。
しかし現時点ではいくら費用を出そうが、心底から「クソジジイ」である。

さてさて、夏もだいぶ近づき、徒歩通いも日増しに拷問の様相を呈してきた今日この頃であるが、例年この時期から秋にかけて、厄介なお肌トラブルが勃発する。
日光性皮膚炎というらしいが、強い日差しを浴び続けていると粟粒状の湿疹ができ、これがまた痒い。
私の場合は首の後ろと腕にできるため、せめて首の後ろだけでもガードしようと、それが最近髪を伸ばしている理由である。
その作戦が功を奏し、今年は首の後ろに湿疹は出ていない。しかし教習所通いが功を奏し、腕の湿疹は例年になく大豊作である。
さすがに我慢の限度を超え、皮膚科のお世話になることにした。
ところで今年に限ってなぜ皮膚科に行かねばならなくなったのか? もとより教習所通いのせいである。
父は言った。
「教習所にかかる費用は全部出してやるから」と。
しかるに皮膚科費用は必要経費として父に出させようと思い立った。

そんな折に父から教習所の積立金10万円をもらう。
他所の教習所のシステムがどうなっているのかは知らないが、私の通っている教習所は前もって積み立てておいたお金の中から、実技なら1回いくら、テストはいくら、と引き落とされていく。余分に積み立てておいて残金が出れば、それは卒業時に返却してくれるのである。
「この10万円の中から、皮膚科の治療代も出すから」と断固宣言した私に対し、最初父は「皮膚科代くらいは自分で出せ」的な態度を匂わせていたが、「嫌なら教習所やめるぞ!」オーラを感じたのだろう、別に拒否もせずに笑ってその場をごまかしていた。

このことを母に話すと、母いわく「もっと使い込んでもいいよ」
そして私はこの母の金言に従い、皮膚科に行ったついでに動物病院にも寄り、ワトスンの目薬と餌を買って帰ったのであった。
皮膚科代が必要経費ならば、動物病院代はいったい何に該当するのか?
もちろん慰謝料である。

後日、教習所に積立金9万円を納める。微妙に半端な金額の納め方であるので、もしかすると事務員さんには私が1万円使い込んだのがバレているかも知れない。
しかし実技で同じ所を何回もやり直しをして必要以上に料金がかさんでおり、また金額的にもある程度まとまった額のため、父には絶対にバレる心配ナシ。

前回の実技で教官にプチギレしたわけであるが、それは言うなればリミッタ−が外れてしまった状態に他ならない。
つまり、私をやる気満々にしてしまったのだ。
このやる気というのは、もちろん免許を取ることに対してではない。横柄な教官に対してファイティングポーズを構えたということである。
教習所のロビーには投書箱が設置されており、YOKOさんに「そこに投書してやれば?」とのアドバイスも賜ったのだが、そんな告げ口みたいなことは気が引ける。
もっと正々堂々、教習コースど真ん中にて「あんたみたいな教官にこれ以上指導されても時間の無駄、ハンコいらないから原簿返して」と捨てゼリフを吐き、ついでに「やってられっか! このボケ!!」と運転席のドアを叩きつけて帰ってしまうという華々しい最後を飾るのが、現在のささやかな夢である(←めちゃめちゃ陰険な根の持ちかたをするタイプ)
しかし頭の回転が鈍く、加えて逆上すると頭の中が真っ白になって気の利いた言葉が出て来ない悲しさゆえに、いざとなるとカウンターを決められない可能性は大。
そこで次の実技に向けて、イメージトレーニングを開始した(そんなことしている暇があったら運転のイメージトレーニングをしろよという話だが)。

そして当日。
外のベンチにて始業のチャイムを待つ間に、次第に目つきが悪くなってくる。切り込むような視線で教官室に出入りする教官たちを「(今日の担当は)こいつか? それともあいつか?」と理不尽な敵意を込めて見やる。
始業のチャイムが鳴ってベンチを立ち、指定された番号の車を目指す間に、顔は右斜め45度に傾いてやや顎を突き出したガン飛ばし状態、気がつけば肩で風も切っている始末だ。
イメージトレーニングの甲斐あって、ウォーミングアップは万全。今日でこの教習所ともおさらばかも知れない、と。
そこへ現れた本日の担当教官は女性(しかも美人)。
めちゃめちゃやさしい声で、懇切丁寧な指導。おかげで萎縮することなく、のびのびと教習ができた。
もちろん右左折の項目も無事にクリア、次回からは新しく坂道の項目に入る。

実は教習所に行く前に、母に「でもさ〜、こういう時(やる気満々)に限ってすんごく親切な教官に当ったりするんだよね〜」と言っていたのだが、まさにどんぴしゃりである。世の中の理とはそういうものらしい。

帰りの道すがら例の池にて前出の美味そうなガチョウが、カモたちを引き連れて行進していた。
ガチョウの丸焼き、カモ鍋、カモ南蛮。。。などとあらぬ想像していると、犬の散歩で時々出会うかたに行き会った。
ちなみにこのかたの愛犬は、顔の大きさだけでもホームズが丸まったくらいはあろうという、身体は大きいが、めちゃめちゃ温厚なオスのラブラドールくんである。
話が教習所のことになると、そのかたに「片道25分なんて、たいしたことないでしょう〜」と笑顔で軽くいなされた。
たしかに犬の散歩ではそれ以上の時間を費やしてはいるので、時間だけを取り上げたらその通りなのかも知れない。
しかし真昼間の焼けつくような炎天の中、今にも切れそうな中古マンガン電池を消耗しつつ、行きたくもない教習所を目指す道程。
本当に25分はたいしたことないのだろうか???

6月というのに気温の高い日々。
今日も行き倒れ寸前の身体にムチ打って教習所を目指す。
蜃気楼が見えそうな最後の直線数十メートルにさしかかる頃、遥か前方の道に出現する冷房の効いた教習所の送迎車。教習生の姿は見えず、座席は空である。
そんな送迎車が滑るようなスムーズさで教習所の門をくぐっていくさまを、息せき切って汗だくになりながら見送っていると、やはりムカつく。。。

ムカつきついでに言わせてもらえば、学科で見せられるレーザーディスクの最後に、○×式の問題が出題される。
その名も『どんな問題』。これを女性の声で「ど〜んな もんだ〜い」と言うのである。
言うまでもなく「どんな問題?」と「どんなもんだい!」をかけているのであるが、下手くそなアニメ映像と相まって、オヤジギャグ好きの私でさえついていけないハイセンス。
ちなみにこのディスクに毎回登場する若いおニイさんは、微妙に風見慎吾(この字で合っている?)に似ている。まあ、どうでもいい話だけど。。。