どうにかこうにか無事に私が教習所を卒業できたことに浮かれまくりの父は、「学科試験は何度受けてもいいんだろ?」とのたまう。
別に何度受験してもいいわけだが、何度も受けているとちょっと恥かしいぞ〜、とは私の内なる心の声。
だが「学科なんか一発で受かれよ」とプレッシャーをかけられるよりはナンボもマシなわけで、微妙に世間の感覚とズレている父で良かったとしみじみ。
とはいえ日増しに寒くなる今日この頃に、朝っぱらから1時間もかけて免許センターに行くのは何とも面倒くさいので、やはり一発合格できるに越したことはないと一応は真面目に勉強を始める……ものの、祭日等の関係で試験まで一週間もあるとなると、必然的にダラけて逃避に走る日々(PCゲームにて過去最高得点を叩きだす)。
この学科試験に関しては、ちょっとした噂があった。
免許センターの近くにある本屋さんで売っている問題集はめちゃめちゃ鋭い線を突いており、これをやっておくと合格に二歩も三歩近づけるというのだ。
問題集は教習所からも一冊配布されていたので、べつにこれでいいじゃんと最初こそは思っていたのだが、試験の日が近づくにつれて徐々に不安が募ってきた。
できればその霊験あらたかな問題集もやっておきたいものだが、自分で買いにいくのは面倒臭い。
そこで父に、もし仕事で近くまで行くようなことがあったら買ってきて欲しいと頼む。
すると父いわく「落ちたら帰りに買って来いよ」
確かに正論だが、要するにそこまで足を伸ばすのが面倒いわけね。
というわけで試験に落ちたら帰りにそこの問題集を買って帰る段取りになった。
そして試験当日。
教習所から免許センターへの行き方の地図をもらっているにもかかわらず、朝っぱらから電車を乗り継いで行くのが面倒だった私は「行き方が分からな〜い」と大ウソをついて父に車で送らせる。
道中、免許取得のあかつきに車を買うなら軽自動車にしようという話になった。
ではどんな軽が良いのか?
ちょうどその時、一台の小型車が横を通過し、それがなかなか良い形だったので「あれなんかいいな〜」と私。
すかさず父が言った。「ありゃ軽じゃないぞ。軽のナンバープレートは黄色じゃないか」
そう、学科の教本にもしっかりとカラーイラスト付きで出ている。軽乗用車のナンバープレートは黄色。
実は私は軽とは小型タイプの車のことだと思っていたのだ。
もちろんそれは形の大小などではなく、総排気量の差。これも教本にしっかりと載っている。
おいおい、私ゃ今から学科試験受けに行くんだぞ、みたいな。。。
そして試験会場である免許センターに到着。
この時、父の言ったセリフ。
「これでだいたい場所分かったから、次から一人で来られるだろ?」
「次」というのは、もちろん「次の学科試験」の時という意味である。試験を受ける前から、もう次の試験のことを想定に入れている父だった。
そしてその言葉にムッとするどころか、「やれやれ、次からは自力か……」などと思いつつ車を降りる私。
試験の受付は8時30分〜9時の間なのだが、「道が混むから」とかなり早めに家を連れ出されたため(おかげで5時起き)、8時前には試験会場に着いてしまった。
すると、もうすでに受付場所に並んでいる人が4人ほど。
広いロビーにはずらりと椅子が設置されており、受付開始の30分も前から立ちんぼで並んでいる意味がどこにあるのだろうとそれらの人たちに幾ばくかの疑問を抱きつつ、販売機で飲み物を買ってロビーの椅子に腰をおろし、最後のあがきと教本を開く。
そうこうするうちに並んでいる人の数が次第に増えていった。列が二重三重にもなっていく。
正直、受験生は多く見積もっても20人ほどと考えていたので、この人垣の山には驚いた。受験生は最終的には130人ほどになったらしい。
それでも免許センター職員の「今日は少ないな〜」の声が耳に入り、「えっ、マジ?」と驚きの追い討ちをかけられる。
どうやら500番まである電光掲示板はダテじゃないらしい。
いくら県中から受験生が集るとはいえ、毎日こんな人数が試験を受けているというのか?!
教習所での常に少人数に慣れていた私にとって、これはカルチャー大ショックだった。
やがて受付開始時間となり、係員に申請書をチェックしてもらったのち整理券を受け取り試験会場へ。
各机にはすでに鉛筆と消しゴムが用意されていた。カンニング防止のためなのだろう。でも……と私は思う。
常々思っていたことなのだが、単なる○×方式にすぎない学科の合格率が悪い(だいたい平均して6割くらいだという)のは、どう考えても難易度が高いせいではなく皆がたいして勉強していないせい。試験直前になって「おっと勉強しとかなきゃ」的発想で、教習所に入所したその日からコツコツ勉強している奴などまずいなかろう。
だったら、たとえ誰かの解答を盗み見たとして、そいつの答えが当たっているとどうして言い切れる?
自動車免許の学科試験に関してのみ言わせてもらえば、カンニングなど不毛な行為。信じられるのは自分の勘(←勉強の成果ではナイ)のみ!
全員が入場を終えたところで、試験官が説明を始める。これがまた長い!
ああ〜答えが耳から漏れる〜。せっかくさっき急いで詰め込んだところを忘れるやんかぁ〜〜!!
だったらちゃんと勉強して身につけて来いという話だが、試験官は席の並び順だの何だのを延々30分近くも説明していたのだ。
そして何を急いで詰め込んだのか分からなくなった頃、ようやく試験開始。
とりあえず正誤の解答を迷ったところは飛ばして先に進む。そして一巡したところで自分の勘を信じて空欄も埋める。
残り1分前。見直しをしていて「これってもしかして引っ掛け?」とつまらない勘繰りをして答えを書き換えてしまった。
そして。。。
まんまと違っていたとも。書き換えたほうの答えが。
試験終了後、そこの答えが気になっていたので教本で確認すると、書き換える前の答えが正しかった。
これはけっこうショック。終わったな、と内心クラッとくる。
合格ラインは95問の出題(最後の5問だけ各2点の配点)で90点以上。1点失っているのがこの時点で確定し、最後まで迷っていた問題が4〜5問。そして他の解答も正解している保証はない。
けっきょく父の予言は当たったのか?
そして合格者発表。
一人だけ落ちているのはイヤ、道連れが欲しい……と祈りつつ電光掲示板に目をやると。。。
あった〜〜♪ 私の番号もちゃんとある!(ちなみに前の番号の人が落ちていた)
ホッとしているその横で、「わぁ〜♪」という歓声をあげたのち涙ぐんでいる若い女の子のグループ。
たぶん、そこまでのことではないと思う。何しろ毎日行われてる試験だから。しかもくどいようだが○×二択式。
合格者は簡単な適正検査を受けたのち、写真撮影など交付の手続に入る。
そして免許ができあがってくるのを待つ間、交通安全協会の人の訓話(?)
「え〜、免許ができるのが12時15分くらいになりますので、その間にちょっと私からお話を……」と、鯖の干物のような交通安全協会のおじさん。
げっ、12時15分て、まだ1時間もあるじゃん! その間この人の話聞いてるわけ?!
何しろ話というのが車を運転する時には飲酒をしちゃイカンとか、携帯電話をしちゃイカンとか、そういう内容をクドクドなのだ。
ちょっとオジさん、この私らを誰だと思ってるの? たった今、学科試験にパスした人間だぞ! と内なる心の声。
つまりはこれから始まるであろう長いドライバー歴の中においても、今この瞬間が最も交通法規が頭の中に入っている時であるということなのだが。
幸いにも交通安全協会の人の話は20分ほどで終り、その後は交付時までフリータイムとなった。
ところで交通安全協会のオジさんの話から発覚した事実がある。
なんと学科試験は午前と午後の2回あったのだ。
しかし教習所からもらった紙には午前の受付時間しか記されていない。そしてこの時間に遅れると試験を受けられない云々のようなことが注意点としてダメ押しされていて、試験は午前の1回しか無いような雰囲気を匂わせていた。
これは一体どういうことだ?
後日、YOKOさん談「そりゃ午前の試験に落ちたら午後受けて来いってことでしょ」
つまり午後の受付時間を明記してしまうと、朝早くから行くのが面倒臭いと思っている人たち(私か?)が午後の試験に照準を当ててしまうからということなのだろうか。
午後の試験で落ちたらまた出直さねばならないが、午前の試験ならば玉砕してもその日のうちにもう一度チャレンジできることを考慮に入れた、教習所のありがた〜い親心というわけ?
さすが私のような人間ですらも立派に卒業させてみせた教習所、侮り難し。。。
ここの免許センターでタバコを吸いたければ、青空喫煙場へ行くしかない。ロビーは禁煙だし、食堂に行けば灰皿はあるのかも知れないが、私はお昼ご飯は何が何でも京樽の海鮮チラシ(←最近の超お気に入り)と決めていたため食堂には入らなかったので。
この日この時間、付近一帯は冷たく刺すような強風が吹いていた。しかし北風が刺さろうが、砂埃が舞おうが愛煙家というのは灰皿を目指したとたんに根性の入れ方が違う。吹きさらしの青空喫煙場で何人もたむろする同胞たち。
ロビーからここへ向かう出入り口で、寒い中声を大にして献血を呼びかけている二人の女性がいた。
「献血ご協力お願いしまーす。AB型の血液が不足してまーす」
おいおい、私ゃAB型だよ。
成分献血をするほどの体力と気力は残っていなかったが、普通の献血ならそれほど時間もかからないしと、寒い中を一所懸命に呼びかけている人たちに気持ちを引かれて帰りに献血していくことに決める。
たまには人のタメになることもしておかないとね、と珍しく殊勝な心がけ。
そして免許を受け取った帰り道。
うっかり肝心なことを見落としていたのだが、手続が全て終了したのは12時過ぎ。献血ルームは昼休みの真っ只中に突入していた。。。
もちろん献血せずにさっさと帰ったとも。なにしろ私はこれから海鮮チラシを買いに行かねばならないのさ!
駅の地下街にある京樽を、空きっ腹を抱えつつ一目散に目指す。
私の中ではこれこそが本日のメインイベント。今日のこの日は海鮮チラシのために存在するといっても過言ではない。
だがしかし、最後の最後であまりにもトントン拍子に免許取得までこぎつけてしまった話の顛末。このまま何ごとも無く終わるわけがない。
なんと海鮮チラシは京樽のメニューからきれいさっぱり削除されてしまっていたのだった。
一気に魂が抜けていき、抜け殻と化す私。疲労感と空腹が津波のごとく押し寄せ、目の前が真っ白になった。
やっぱりオチは用意されていたか。。。