ここに書かれていることは事前の調査もなく、確固たるデータにも基づかず、従って個人の独断です。
何か誤謬があればご免なさい、ということで
人類は、それまで重労働を自身の力、あるいは役獣の力を借りることでしか解決できなかった。しかし蒸気機関の発明は彼らを大きく変えた。もちろんすべての人間が恩恵にあずかったわけではないが、少なくともその影響はすでに地球的規模に及んでいる。
以来巨大な力を生み出すテクノロジーを礎に、人間は高度な文明を築いてきた。ともすれば“神の領域”という言葉すら引き合いに出す人間。では一体、彼らにどれ程のことができるのだろうか。
さすがに蒸気機関は、もう一部を除いて廃れてしまった。石炭を燃やした熱によって湯を沸かす、というのは今となっては効率が悪い。
動力機関の主流と言えば、自動車のガソリンエンジン等に代表される内燃機関だろう。全燃焼エネルギーの5〜60%を動力に転換しているというから素晴らしい。蒸気機関がこれによって駆逐されてしまうのもうなずける。
“燃費”という言葉がある。燃料消費率の略だが、簡単に言うと自動車が燃料1リットル当たり何km走れるか、ということである。普段車に乗っていればピンとくるだろうが、だいたい普通乗用車で5〜15kmの間である。
そう、効率がいいとは言っても、実はたかだか10km程度移動するのに1リットルものガソリンを消費してしまうのだ。これは、ものを燃やすという行為そのものが非効率的なエネルギーの抽出法だということを示している。
“ジェット推進”という言葉はご存知のことと思う。燃料を爆発的に燃やし、その力の反作用で前へ進もうという仕組みだ。利点は燃料が燃えさえすれば真空中でも動力を発生できることだろうか。
旅客機・ミサイル・スペースシャトル、ジェットエンジンは現在人類が手に入れ得る最速の移動手段である。特に宇宙開発へと目を向けた場合、そのライバルは皆無だ。
コストパフォーマンスの悪さには目をつぶろう。やたら値の張る航空機チケットも、現段階では仕方あるまい。しかし、宇宙へ行くのに他の方法がないというのは何とも悲しい事態である。
覚えておられるだろうか。火星にパラシュートで着陸したマーズ・グローバル・サーベイヤーという名の探査機を。打ち上げから火星着陸までに、1年も要しているのだ。これでは太陽系内を自由に行き来することすらままならない。つまり、人類史上最速のエンジンは“遅い”のだ。
ジェットエンジンは爆発力の反作用で前進すると書いたが、それはすなわち爆発の際に飛散する粒子の速度よりも速くは進めない、ということを示している。そしてたかだか秒速20kmの壁も破れないそのエンジンは、宇宙的規模では“大変遅い”と言えよう。ニュートン力学的エンジンでは、所詮ニュートン力学的出力しか得ることはできないのだ。(つづく)
もちろん、ニュートン力学に従わない領域のエネルギー抽出法もある。いわゆる“核エネルギー”がそうだ。かの有名なアインシュタイン博士の関係式、“E=MC*C”において質量とエネルギーは等価であるとされているが、核反応によって発生するエネルギーはこの数式をもって律されている。
たとえば重水素は、陽子ひとつと中性子ひとつからなる原子核である。しかし重水素の原子核の質量は陽子と中性子ひとつずつの質量を合計したものよりもわずかに軽い。すなわち“質量欠損”と呼ばれるこの現象は、陽子と中性子を結合させるために必要なエネルギーを質量の減少によって賄おうとするために起こる。
そしてこの“質量欠損”は核子ひとつ当たりで見ると、質量数50前後の原子核、つまり鉄原子付近で最大となる。それより軽くても重くても、核子間の結合エネルギーは小さくなるのである。
当然のことながら、結合エネルギーが大きな原子核ほど安定している。そして森羅万象はよりエネルギー準位の低い方へと遷移する傾向があるから、すべての原子核はわずかながら鉄になろうとする性質を持っていることになる。
核分裂ではウラン235やプルトニウム239が分裂してより小さな原子核になろうとし、核融合では重水素が融合してより大きな原子核になろうとする。いずれもより質量欠損の大きな原子へと変化するため、反応の際その差分のエネルギーを生じる。
これが“核エネルギー”である。しかし残念なことに今のところ、このような反応によって得られるエネルギーの利用範囲は非常に狭い。
もっとも手っ取り早い方法が爆弾であろう。爆弾なら、小さな空間で一挙にこれら核反応を連鎖させるだけでよい。それは、アインシュタイン博士も気づいていたことだ。
知っての通り核分裂を利用したものが原爆、水素の核融合を利用したものが水爆と呼ぶ習しとなっている(余談ながら、発生するエネルギーは重水素ふたつがヘリウムとなる核融合よりも、ウラン235やプルトニウム239原子ひとつが分裂する時の方が遙かに大きい。一般に原爆よりも水爆の方が強威力とされるのは、水素が軽いため単位質量当たりのエネルギー放出量で水爆が勝るためである)。
核分裂に関して爆弾以外の利用方法と言えばひとつしかない。発生した熱で湯を沸かすのである。むろん湯沸かし器として使うのではない。その熱湯から発生する蒸気でタービンを回すのである。何のことはない、蒸気機関である。燃料が違うだけの。
原子力発電とはこのタービンによって電気を起こすことを指す。ご大層な原子力潜水艦とやらも海の底でせっせとと湯を沸かしている。事故が起こった時にもたらされる被害の大きさを考えると、どうもこのやり方は割に合わないように思える。
核融合は、燃料である重水素が海水から供給できる。また反応によって生成するヘリウムも放射能(radioactivity)を持たないので、「クリーンなエネルギー」として将来を嘱望されている。
しかしながらこちらの状況は、核分裂よりもさらに悪い。なにしろ爆弾以外に実用化されているのは太陽ぐらいのものである。
外部から熱を供給しなければ反応を維持できない、という点がもっとも大きな問題となっている。水爆は、一旦核分裂によって高温を発生させてから核融合を開始する仕組みになっているし、実験室で行われているレーザー核融合は高出力のレーザー光によって高温を得ているから、かえってその電力維持に必要なエネルギーが馬鹿にならない。自立して核融合反応を続けているられるのは、やはり太陽ぐらいのものである。(つづく)
楽天的に考えてみるとしよう。万難を排し、核融合炉なるものが実用化されたとする。いやそれどころか、SF小説によく描かれている、質量をすべてエネルギーに転換できるような方法が開発されたとしたらどうだろうか。
“E=MC*C”のエネルギー:Eを[J](ジュール)とすると、質量:Mは[kg](キログラム)、真空中での光の速度Cは約3億m/sであるからその利用価値は容易に想像がつく(1ジュール=0.239カロリー)。
仮に破壊兵器として利用された場合、3gほどの質量で米軍が広島に落とした原爆と同等の効果を生み出す計算となる。スプーン1杯驚きの洗浄力、であろうか。
核融合や、ひいてはこのような質量−エネルギー転換がエネルギー供給の方法として普及すれば人は、迷わずそれによって発生した熱で湯を沸かす筈である。そしてタービンを回して発電・・・。
それでも、少なくとも電力には困らなくなる。世はおしなべて電気中心に動くようになっていく筈である。
だが、エネルギー(資源)問題は「人口爆発」が引き起こす悪弊の一端に過ぎない。これらだけでは、SFに登場する夢物語のような救世主とはとてもなり得ないだろう。このまま人間が増え続ければ、土地が、食料が、そしていずれ人体を構成するために必要な元素そのものが足りなくなるだろう。
アシモフ博士によれば地球上に存在する利用可能な炭素の量から逆算すると、人間の数の限界は630兆ほどだそうである。現在の世界の人口は約60億。だいたい50年で2倍に増えているから、このペースが持続するなら850年後にはこの数値に達するだろう。そうなると、もう人間を作るための材料自体がない。
いずれ増え過ぎた人口に地球が破綻する前に、人類は別天地を求めねばならなくなる。そしてさらに同じ速度で人口が増え続けるのなら、地球が定員オーバーとなったそのわずか50年後に、人間の数はさらに倍になる。地球2個分である。100年後には4個分、150年後には8個・・・。
人類は、自らの繁殖力をもって逼塞する前に、新しい居住地を開拓し続けねばならない。だがそれには、強大なエネルギーを手に入れるだけでは足りないのである。問題は、エネルギーの使い途なのだ。
1998年6月現在、地球から最も離れたところにある人工物はボイジャー1号である。この2月にパイオニア10号を抜き、17400m/sの速度でなおも記録を更新し続けている。
時に、地球から最も近い恒星は4.3光年の距離にあるアルファ・ケンタウリだと言われている。この4.3光年の距離を飛ぶのに、ボイジャー1号ならどのくらいかかるのか。
光速Cを約3億m/sとして、4.3光年=4.3×3億×60×60×24×365[m]であるから概算(ニュートン力学下)で4.3×3億÷17400=74100となり、7万年以上かかる見込みだ。
7万年も経てば、たとえ人口増加が現在の100分の1のペース(5千年で2倍)になっていたとしても、地球にはもう人間、及びその食料の生産に必要な炭素がなくなってしまうだろう。
人類の宇宙開発は、まずボイジャー1号を、それも早々に追い抜いてしまわなければ話にならない。あの探査機には宇宙人へ向けたメッセージが積まれているそうだが、どう考えても直接会って握手するのが先でなければならない。
どうにも役不足なジェットエンジンに替わる、強力な推進理論の登場が不可欠であろう。神の如きその力を、前進する力に変換できればよいのだ。どうするのか。湯でも沸かすか。
残念ながら人類は、今のところ電気によって真空中を前進することができない。だからいくら質量-エネルギー転換炉を宇宙船に積んだところで、湯を沸かしている限りは艦内の電力を供給するのが関の山である。あるいは戦争にでも使うか。
人類は戦争に関わりのある技術ならあっという間に進歩させてしまうが、それ以外は根本的になっていない。
大きなエネルギーを発生する方法はもういい、分かった。茶でも沸かしてやるから、今度ゆっくりとその使い途について聞かせて欲しいものだ。