異装版あれこれ

 サンリオSF文庫には正規の197冊のほかに、いくつかの異装版が存在します。ここではほとんど意味のない細かい違いにこだわってみました。


a.新装版
 

 既にデータベース上で表紙絵も公開していますが、新装版が以下の4冊存在しています。「天のろくろ」「時は乱れて」「死の迷宮」「万華鏡」。
 「天のろくろ」はル=グインの他の表紙との統一を図るために竹宮恵子のイラストを採用。「時は乱れて」と「万華鏡」は同じエリック・ラッドの表紙で、「死の迷宮」も外国人の作品です。


b.サンリオ文庫(この項、大幅改訂)

 

 サンリオSF文庫からサンリオ文庫へ移行されたため、必然的に異装版(奥付では新装版)となった作品。ただし新装版として確認できたのは「ザ・ベスト・オブ・サキ(1)」と「ナボコフの一ダース」の2冊のみです。

 各種リストでは「ジョン・コリア奇談集(1)」と「ザ・ベスト・オブ・サキ2」がサンリオ文庫に組み込まれたものが流布していますが、実際は黄背表紙のサンリオ文庫としては発売されなかったものと思われます。
 サンリオ側の扱いも既刊情報でサンリオ文庫として組み込んでおり、いずれ黄背表 紙版が刊行されるはずだったのでしょうが、実現していません。

 とくに「ジョン・コリア奇談集」は、「2(II)」がサンリオ文庫A-5bとしてすでに刊行されていることから、A-5aの番号があてられる予定だったと思われますが、結果的にA-5aを冠した作品は確認できず、公式表示もみあたりません

 これをまとめますと以下のようになります(×は刊行なし)。

  サンリオSF文庫 サンリオ文庫
ベスト・オブ・サキ 11-A A-13a
ベスト・オブ・サキ2 11-B ×
ナボコフの一ダース 27-A A-12b
ジョン・コリア奇談集 69-A ×
ジョン・コリア奇談集2 × A-5b

c.背表紙の変更

 表紙絵は変わらなかったけれども、背表紙が変更になった作品が存在しています。青背表紙(白火星人)の時期に重版されたもので、3冊確認できています。いずれもディック作品で同じ日に増刷されています。
 サンリオSF文庫がさらに続いていたら、ディック作品はすべて青背表紙で揃えることができていたかもしれません。

 (追記)「ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック1」に青背表紙があることが判明しました。


d.暗闇のスキャナーの不思議(カバーの掛け替え?)
 

 「暗闇のスキャナー」には3種類のカバーが存在しています。当初私が所有していたのは(B)でこれがBRUTUSの背表紙写真に写っています(本体の奥付は1980年7月5日発行でれっきとした初刷です)。これは黄色火星人なのですが、その下のサンリオSF文庫の文字が普通と異なっています。そのほかの黄色火星人はすべてサンリオとSF文庫の間に改行がはいり、文字も太くなっていますが、これのみ写真のように以後の青火星人と同タイプの印字となっています。さらに裏表紙見返りにはこれ以降発売される作品も掲載されており、表表紙見返りにはディックの経歴に1982年没と書かれています。

 かねてから不思議に思っていたのですが、今回(A)を入手しました。こちらは正真正銘の初回発行分で時期的な矛盾もありません。おそらく(B)は在庫分に新たに印刷したカバーを掛け替えたものと思われます。なぜこのようなことをしたのかわかりませんが、ディックブームが盛り上がる中、リフレッシュして少しでも在庫を減らそうとしたのでしょうか。それにしてもその差異はごくわずかで、両者を並べて比較しないと違いがわかりません。

 (C)は青背表紙版ですが、これは二刷1986年4月10日発行の奥付です。この存在によって(B)が二刷ではなく初刷にあたることが証明できます。さらにおもしろいのは(C)は本文390ページで終了しており、(A)と(B)には掲載してある山田弘美の解説が削除されています(ページ数は減っても値段は620円に上がっています)。ちなみにこの山田弘美は現在作家として活躍中の川上弘美氏の旧姓だそうです。解説というよりもディックをモチーフとした短編小説のような内容ですので、重版時に不必要と判断されたのかもしれません。

<追記>
 (A)と(B)を詳細に比べてみると掛け替えた理由に該当しそうな事実が判明しました。

 

 (a)は(A)の、(b)は(B)のそれぞれ表表紙見返りに掲載されているディックの経歴です。予定題名の違いは別として、決定的な相違は50年代作品に「死の迷宮」があるかないかです。この作品は1970年に出版されていますので、50年代に発表されたというのは明らかな誤りです。他社作品ならともかく、自社の作品を間違えるとはさすがに許されなかったのでしょう。ということであわてて(b)に刷り直して掛け替えたというのが真相とみているのですが。


e.紹介文差し替え(提供:司書つかささん)

 裏表紙の紹介文が2種類存在するのが「フレドリック・ブラウン傑作集」です。今回司書つかささんのご厚意により入手することができました。おそらく再版時に変更されたものと思われますが、例外もあり入手時には注意が必要です。

 

 左が初版時のもので、右が再版時のもの。初版は内容紹介といえるものではなく意味不明で、悪ふざけと言わざるをえません。再版は一転して優等生的な内容ですが、おもしろみには欠けます。
 初版時に「わけがわからん」とどこからかクレームがきたため、再版時に差し替えたのではないかと推察されます(あるいはうがった見方をすると、「換骨奪胎星新一」という部分が誤解を招いたのでは?)。


f.黄色火星人の青火星人化(黄色火星人の青方偏移)

 「ラプソディ・イン・ブラック」でも「暗闇のスキャナー」と同じパターンのカバー違いが存在することが判明しました。黄色火星人のままでその下の「サンリオSF文庫」の文字が青火星人と同タイプとなっている背表紙です。これを黄色火星人の青火星人化、あるいはSF的には「黄色火星人の青方偏移」と勝手に呼ぶことにします(笑)。

 このタイプはカバーに誤りがあることが判明して、それを訂正したものを在庫本体に掛け替えたパターンと考えられます。

 つまりこの2冊をじっくり比較すれば掛け替え理由がみえてくるはずです。というわけで、わずかな違いがみつかりました。

 

 aはAの、bはBの裏表紙見返りに記述されている既刊情報で、その違いは訳者名の有無のみです。この時点(a)の既刊はすべて島岡潤平訳なので間違いではないのですが、続刊の訳者が交代したため結果的に誤りのようになってしまいました。
 「パラダイス・ゲーム」「フェンリス・デストロイヤー」「スワン・ソング」は菊地秀行が訳を担当していますので、島岡潤平訳として全体を総括するのは好ましくないと考えて訳者の名前をはずしたのでしょう(b)。
 あえて目をつぶってもよいことのように思いますが、当時の編集部に律儀な人がいたのでしょうか。あるいはどちらかの訳者から変更要請があったのかもしれません。

サンリオSF文庫の部屋