'98年8月


「愛されない者の傷」
ペーター・シェレンバウム あむすく

 精神的外傷、特に親に愛されなかったという傷に関するもの。アダルト・チルドレンものの一つと言える。
 ペーター・シェレンバウムの一冊目の翻訳「愛する人にノーをいう」は未読。前著は男女愛の感情にスポッとをあてているけど、この「愛されない者の傷」は主に親子関係から、その後に問題を引きずる例から、一般論へと展開する。

 著者は「心のエネルギー学」という理論を作っているが、これがユング的でちょっと好きになれない。著者の話に時々出る、大手術の昏睡の後に感じた「宇宙的感覚」ってのもユング的。ユング研究所でいた事はあるらしい。


「カール・セーガン科学と悪霊を語る」
The Demon-Haunted World,Science as a candle in the dark
Carl Sagan
カール・セーガン 新潮社

 カールセーガンの遺作。疑似科学への批判だけど、ここまで真面目にやらなくてもいいのにと思うぐらい(^^;)。真面目さでは、M・ガードナーの「奇妙な論理-だまされやすさの研究」と同じ様な雰囲気。
 セーガン得意の宇宙に関する話題などさまざま。

 未読であるが、チャールズ・マッカイの「群衆心理の錯覚と狂気」を引き合いに出している部分が多い。この本は面白そうなので機会があったら読んでみたい。

 アヤシイ話を疑う、「トンデモ話検出キット」なんて一般論として実に面白い(^^)。でも、騙される人は最初からセーガンの本なんてのは読まないのだろう(^^;)。


「C.W.ニコルのいただきます」
C.W.ニコル 小学館ライブラリー706

 C.W.ニコルの食に関するエッセイ。12章になっていて、ほぼ一年12カ月の季節のテーマになっている。
 これは雑誌「小学一年生」の別冊フレッシュママに連載されたもの。C.W.ニコルらしい平易な文章がいい。

 牛乳、卵、パン、ハチミツ、ジャム、豚、屠殺、ジャガイモ、トウモロコシ、海の幸、リンゴ、ご飯…、多彩な食と自然の話題。気軽に読める割には内容は深くて面白いと思う。


「ミステリーの書き方」 - The Mystery Writers Hand Book - ☆
アメリカ探偵作家クラブ著 ローレンス・トリート編
講談社文庫

 この本は面白かった。小説のハウツー本としても完成度が高いし、小説好きとしても新たな視点を与えられて楽しめる。もちろん、ミステリー・ファンには必読。日本では馴染みが薄い未翻訳の作家も多いが、是非読みたいと思わせる力がある。

 構成が緻密なミステリーだけあって、内容も豊富。なぜ書くのかという動機から始まり、アイデアの見つけ方、プロットの組み立て、ストーリの構成、いつ書くか、原稿の持ち込み作法、語りだし、視点の選び方、会話、文体について、手直し…、書いていると切りがない程に多彩。
 著者はMWA(アメリカ推理作家協会)、1976年の「The Mystery Writer's Handbook」を翻訳したものであるが、内容の古さはまったく感じない。最近出てきた作家は入ってないなとは思うけど。

 訳者の大出健はデジタル書店「グーテンベルグ21」主宰。

MWA(Mystery Writers of America) Home Page


「粗食派の饗宴」
大河内昭爾 小学館文庫

 文芸評論家、エッセイストの著者の、文学と食べ物の接点に関するさまざまなエッセイ。古い時代の食文化を知るという意味では面白いけど、味に対するリアリティが欠如しているのが残念。臨場感が無い。

 p152に上野のとんかつ「双葉」が「とんかつ一代記」のモデルであると書いてあるけど、「とんかつ一代記」ってどういう映画だろう。未見です。


「LAコンフィデンシャル」上 - L.A.Confidential - James Ellroy
ジェイムズ・エルロイ 文春文庫

 映画「LAコンフィデンシャル」の原作。著者は「ブラック・ダリア」のジェイムズ・エルロイ。 「ブラック・ダリア」「ビッグ・ノーウェア」「LAコンフィデンシャル」「ホワイト・ジャズ」で「暗黒のLA四部作」は完結するそうである。

 エルロイと言えば十歳の時に母親を惨殺された経験が有名だが、本書でも随所にその影が落ちている。また、父性的な強さへのあこがれも主人公に投影されている。

 人物の書き込み方や、エピソードの積み重ねは見事。内容的にはちょっと長すぎる気がするけど。映画ではあまりに簡単に省略されてしまった人物的背景などが読めるのがいい。映画ではあんまり好きになれなかったエド・エクスリーが結構いい奴に思えた(^^;)。

→ 映画「L.A.コンフィディンシャル」感想


「LAコンフィデンシャル」下 - L.A.Confidential - James Ellroy
ジェイムズ・エルロイ 文春文庫


「算学奇人伝」
長井義男 TBSブリタニカ

 開高健賞受賞作。「蘭方医・長崎浩斎 大江戸謎解き帳」の長井義男。
 なにより、主人公を和算家に選んだというのが凄い。バクチと数学、宝探しと幾何、算額などの組み合わせが上手い。
 話は短いし、人物の書き込みも足りないけど楽しめた。

「和算の館」


「蘭方医・長崎浩斎 大江戸謎解き帳」
長井義男 祥伝社

 蘭医の浩斎、下町娘お喜代のコンビが謎の事件を解決していく。言ってみれば 大江戸検死官シリーズみたいなものか(^^)。
 トリック自体は大した事ないけど、江戸時代の医学の知識を使っていく所というのが面白い。江戸の文化的側面を見る上で勉強になる。
 著者の長井義男の「算学奇人伝」も面白そう。


「ニードフル・シングス 」 上 - Needful Things -
スティーヴン・キング 文春文庫

 「トミー・ノッカーズ」以来、久しぶりのキングという感じがする。しかし、これは厚い。文庫で1730ページぐらいか。もう終わりに近づいているはずなのに、十分一冊分の厚さがあるというのは…(^^;)。
 映画で内容を知っているから、これほど厚くなるのは不思議不思議。
 映画自体も、あんまり面白い記憶は無い。

 キャッスル・ロックを舞台に、住民の憎悪を引き出す骨董屋。この辺の設定は確かに面白いのだけど、これだけ長い話にするものかなあ。書き込みは確かに面白いのだけど、読むのに疲れてしまう。


「ニードフル・シングス 」 下 - Needful Things -
スティーヴン・キング 文春文庫


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