「ホーンテッドマンション」における視覚的トリック


 「ホーンテッドマンション」とは、ディズニーランドのファンタージランドにあるアトラクションの一つ。ゴシック建築の建物の中、全長約300m、時速約0.6m/秒、999人の幽霊による大おばけ屋敷である。しかし、その内容は他のおばけ屋敷を遥かに超えた大人にも楽しめるエンターティメント性を備えている。

 「ホーンテッド・マンション」におけるトリック装置の数々は、最新の電子的なトリックを使っていると思っている人も多いが、実は非常に単純で古典的なものが多い。しかし、その演出の巧みさが見事で、古い技術とは思えない。

 以下にその主なものを紹介していく。


白骨化していく肖像画

 玄関ホール。肖像画がスクリーンとなっていて、背面から投影している映像である。アナウンスの不気味さや、部屋の雰囲気からよりリアルに感じられる。トリック自体より、それを構成する全体がいかに大事かという事が判る。


自分を追いかける肖像の目

 図書室前の廊下にかかる肖像画。動くいすに乗る自分を肖像の目がずっと追いかけてくる。このトリックは、目を電気的に動かしていると思っている人も多い。しかし、流れる多くのゲストに目を合わせるなど不可能。

 仕掛けは、実はもっと単純。電気仕掛けが出来るずっと以前からあったトリックの一つで、人間の錯視を利用している。

 上図は模式的な上から見た断面図である。肖像の目は平面では無く、上図の左の様な穴の中に黒目が書かれている。
 これを人間が見る場合、平面上に黒目があると脳は思い込む。よって、上図の右の様に、左から見た場合にはaの位置に、右から見た場合にはbに黒目がある様に思え、結果的にA,Bの様な目に見える訳である。


自分の方を向く首の彫像

 図書館に並ぶ、首の彫像。これは遠くにあるので判りにくいが、動くいすに合わせて首が回転し、いつも自分たちの方向を見つめている。
 これも、電気的な仕掛けと思っている人が多いが、それは間違い。原理は先の、自分を追いかける肖像の目と同じである。

 上図は模式的な上から見た断面図である。彫像は、実際には上図の左の様に凹凸が逆に掘られたものである。人間の脳はやはり、普通の立体と思い込んでしまうために、右から見ると上図右の様にCの方向を向いた顔に見えてしまうのである。


ハーフ・ミラーとライト

 今さら説明するまでもないトリックであり、随所に現れる。消えたり現れたりする幽霊たちのほとんどは、このトリックを使っている。

 特にダンス・フロアで舞踏会をする幽霊たちの演出の上手さはバツグン。舞踏会全体ともなると幽霊の仕掛けはかなり大規模。このシーンは二階からダンス・フロアを見下ろす様な形になっている。丁度、動くいすの下の空間に実際の幽霊がいると思われる。


水晶の中で呪文を唱える、マダム・レオタ

 空を飛ぶ楽器などが面白い広い空間、その中央で水晶の中で呪文を唱える首だけのマダム・レオタが注目を引く。青白い顔でリアリティがある動きは、電機仕掛けの人形とは思えない。これも、古典的トリックの一つである。つまり、石膏の彫像に顔の映像を投射しているだけである。これほど単純な方法で、あれだけ立体感ある映像が出来るから不思議である。

 同様なトリックは、墓場の横に並ぶ首たちや、出口の上に位置するリトル・レオタにも使われている。


壁紙の妖怪たち

 屋敷の中の壁紙には、幽霊の顔や目が隠されている。単純ではあるが、こういう細かい所に演出をする丁寧さが、全体の質を高めている。


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